日本の日の丸は太陽を表しているようだが、
俺にはイザナミの血に見える。
処女が初めて男とベッドをシェアしたときの血に、ね。
わびさびの国って、そういうことだと俺は思う。
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俺が男になったのは大学1年生の時だ。14〜15才の時かな。ロシア人にしては結構遅い方。
当時、俺は心理カウンセラー/占い師のイライダという女性のアシスタントをしていた。
イライダはモンゴル人で、カルマパ(仏教)の信者で、俺の第二の母みたいな存在だった。
子供のいないイライダにとって俺は息子のような存在だったのだろう。
大学が終わると、イライダの古い木造の家に行った。まるで魔女のアシスタントしている気分だった。
家の掃除、薪割り、ストーブの管理、お茶入れと、客の案内は俺の役割だった。
その代わりにイライダは、人の心理や仏教について、俺にいろんな面白い話をしてくれた。
ダライラマやカルマパのこともイライダから教わった。俺と同じ年のカルマパの写真を初めてみた時、俺はなとも言えない気持ちになっていた。
「この子は俺と同い年なのに、神様みたいな存在だ。しかもお坊さん、世間を捨てた人だ」
自分とは誰、どこからどこへ向かっているのか、みたいなことで頭がいっぱいになった。
大学の彼女と初めてセックスしたとき、俺はとにかくがっかりした。
なんだ、その為にシェイクスピアが詩を書いて、人が殺し合い、世間が発達している?!と、俺には信じられなかった。
セックスはもっと、こう、何かしら神秘的な経験だと俺は勘違いしていた。だって世の中がセックスを中心に回っていたからだ。
その夕方、がっかりした顔で俺はイライダの家に訪れた。自分からは何も言ってないのに、
イライダは俺の顔を見て、俺が男になったことをすぐ理解した。
そして、イライダは泣き始めた。
今でも忘れない。イライダは俺を優しく抱きしめ、静かに涙を流し始めた。
一瞬、イライダの親戚に何かあったのか、誰か死んだのかと疑ったが、
「あなたもこの世に吸い込まれたね」と言われ、
イライダは俺のことを思って、心から泣いているんだと気が付いた。
もちろん、当時は第二の母の言葉の意味を理解できていなかった。
偉い巻き込まれましたわ〜、30に近づいてやっと少し解るようになった気がする。
もしも俺に子供ができたとして、その子供が大人になった日に
「あぁ、この子も世に吸い込まれるのね」と思いながら
俺も泣くでしょう。
あの夜、イライダが友達の「魔女」のおばさん達を集めて、お祝いをしてくれた。
俺を膝に座らせて、お湯で割ったカオール(Cahor)のワインを夜中まで飲ませた。
そして何度も他のおばさん達と涙を流し合っていた。
ふらふらになりながら家に帰ると、母親にえらい怒られた。
「何をしてたの?」と聞かれたときに「魔女のアシスタントの卒業式だよ」
と答えた。
母は俺が酔っぱらいすぎたんだと思ったでしょうね。