-
当番ノート 第16期
こんなことをここに書くのはどうかなぁ、と自分で自分をなだめていたんだけど、最後だからいいか、と吹っきって書いてみようかと思う。ぼくは「くらし」を感じないものがとても苦手だ、というか嫌いだ(あまり苦手とか嫌いとかネガティブな言葉の話はしたくなかった)。 じゃ「くらし」ってなんだろう、と言えば、そこはとてもむつかしいことなのだけど、だれかの個性を抹殺したり、仕事ばかりの日々で心と時間を消費するだけだっ…
-
当番ノート 第16期
ヒカリエというショッピングビルが渋谷にあります。「渋谷から世界を照らす」というコンセプトの下、アートからブランド服飾まで多様なコレクションが揃います。その8階に並ぶのが民芸品です。民芸品とは、民衆の工芸品の略、つまり器や布巾など、普段使いの品物のことです。ヒカリエは47都道府県もあまねく照らして、各地に伝わる民芸の良さを訴求しているといえます。 http://www.hikarie8.com/d4…
-
当番ノート 第16期
いつになっても「師」の存在は大きい。学生時代にお世話になった恩師は、ふとした瞬間に、また会いたいなと思い出す。彼らからもらった言葉はいまも自分のなかに根付いてて、目の前のことに向けてのエネルギーになっていたりする。学校に限らず、学校外でも師といえる人はいたし、もちろん社会人になってからも新しい師に出会ってきた。 バーテンダーと職業についてから、この道における師匠をみつけた。もうずっと会えてはいない…
-
当番ノート 第16期
ウォーホルはポップアートの先駆者といわれ、唯一無二のonymousな存在といえるでしょう。 http://www.huffingtonpost.jp/2014/03/12/andy-warhol-15minutes-eternal_n_4949423.html 「アンディ・ウォーホルの全てを知りたければ、絵や映画や僕の表面だけを見ればいい。そこに僕がいるから。隠されていることは何も無いよ。(…
-
当番ノート 第16期
人から聞いて「はぁ、なるほどなー」と思った話がある。人間は「土の人」と「風の人」に大きく分けることができるそうだ。土の人は、その土地にずっとくらし続けている人。土地に根ざして、土地を守って、仕事や生活を営んでいる人たち。反対に、風の人は、同じ土地にとどまらず、さまざま土地を動き回る人たち。土地から土地から移動するからこそ、土地にある情報やものを持ち運べる人でもある。 話はさらに続いた。土の人がある…
-
当番ノート 第16期
ミリオンダラー・ホテルは、かつてロスに実在した豪華ホテルでしたが、すっかり凋落し、いまや廃墟になっています。このホテルを舞台に繰り広げられる映画が、ヴィム・ヴェンダースの『ミリオンダラー・ホテル』です。住人は、ビートルズの一員だと言い張る人や先住民の長だと思い込んでいる自称画家など、夢や妄想に破れて精神を病んだ人ばかりです。社会の外で底辺の暮らしを送っている訳ですが、皆この状態を良しとはしていませ…
-
当番ノート 第16期
世界の片隅の扉の向こうに、その町があり、その天使たちがいる。 ”天使の踊り場” 住所:ツバメ町 C地区 麦の小路 天使の頬は何色をしていると思う? 天使の髪はたまご蒸しパンの黄色、 天使の肌は白パンのクリーム色、 天使のまつげはライ麦パンの小麦色、 天使の頬は——— (ツバメ町の言い伝えより) 世界にただ一つの、ツバメ町ガイドブックを標榜しているこの本としては…
-
当番ノート 第16期
8月を振り返ってみると、カクテルのことばかり書いていたなぁ、ということに気付いておろおろ。それ以外にも書きたいことはたくさんある。プロフィールに「くらしとカクテル、たまに妖怪。」と入れてるので、そろそろ妖怪について触れてみようかと思う。妖怪、けっこー好きなんですよね。 ぼくは小さな頃から、水木しげる大先生の妖怪図巻を眺めながら育ってきた。ぼくは伊平屋島(沖縄)の出身なんだけど、自然がゆたかな場所で…
-
当番ノート 第16期
もう4年前にもなりますが、2010年に野田秀樹の『農業少女』を池袋の芸術劇場で見ました。戯曲自体は古く、初演は2000年です。今年は2014年ですが、今読み返しても全く色あせていないと感じます。 http://www.nodamap.com/site/play/21 この戯曲は、片田舎の農家に生まれた15歳の少女である百子が、劇的な人生を夢見て上京したものの、失敗して田舎へと転落してしまう物語です…
-
当番ノート 第16期
世界の片隅の扉の向こうに、その町があり、その雨が降る。 ”雨粒砂絵画廊” 住所:ツバメ町 海辺 ツバメ町は扉の中の町ゆえか、あるいは町の太陽が人工物だからか、雨量は少ない。そんなツバメ町の居住区を抜けた先、町の北部に、海が広がっている。その広さを知るのは鳥だけ、深さを知るのは魚と鯨だけだという。 砂浜の脇のほうには二十段の小さな階段があるのだが、白いブロックを積み重ねた簡素な階段だけ…
-
当番ノート 第16期
「個性を殺しちゃいけない、うまく混ざり合うように」 カクテルをつくるうえで忘れてはいけないこと。この教えは、人間関係にも通じるものがある。とぼくは思う。 ちょっと重めの扉をくぐって、カウンター席に座る。その視線の先には、形も大きさも異なる、たくさんのボトルが並ぶ棚(バック・バー)が映り込んでくる。暗がりのバーでは、ぼんやりした灯りがボトルを照らしてきらびやかだ。そんなボトルを眺めるたびに、人間みた…
-
当番ノート 第16期
恵比寿の少し奥まったところに、Nadiffアパートという、こじんまりとした芸術・アート系のギャラリービルがあります。今年の5月、ここで開催されていた「独居老人スタイル」展を訪れました。1階の本屋から螺旋階段を降りた、8畳くらいの地下室が会場です。 独居老人というと暗く悲しいイメージが世間的にはありますが、”好きな場所で好きなように暮らす”ためにあえて独居を選択したケースを紹…
-
当番ノート 第16期
世界の片隅の扉の向こうに、その町があり、その事象がある。 ”事実事典氏” 住所:ツバメ町 G地区 繭の小路 彼はこう語る——— 「なにしろ、ツバメ町には創作的なことをできる人間は、極めて少ない。ツバメ町の人間にできるのは、消えない虹を作ったり、過去に読んだ本にまつわる記憶を消してもう一度その物語から新鮮な感動を得られるようにしたり、そんなことだからね。小説や歌や絵画は、この町で…
-
当番ノート 第16期
バーのカウンターの中にいると、いろんな人がお店に来るもんだから、いろいろな景色が見える。たまに見かけるのが、お酒がまったく飲めなくて、申し訳なさそうにしている人。オーダーに伺うと小さな声で「ソフトドリンクはありますか?」と眉をひそめながら聞いてくる。そして、すかさず一緒に飲みにきた人は「え? ここにきといて飲まないの!?」と圧をかけるような人もいる。もちろん悪気があるわけじゃないんだけど。 あたら…
-
当番ノート 第16期
前回はBob Dylanの”Subterranean Homesick Blues”を取り上げました。そこで情報の断片を過度に集積させることが、その個々の意味性を崩壊させるという面白さがあること、その光景が『童夢』にも見られることを言いました。 この『童夢』は、何回読み返してもそのスピード感とスリル、そしてドラマに圧倒される大友克洋のマンガです。高度経済成長期を過ぎた頃の公営団地を舞台…
-
当番ノート 第16期
世界の片隅の扉の向こうに、その町があり、その香りがある。 ”白昼夢調香師” 住所:ツバメ町 K地区 鈴の小路 店主はこう語る——— 「香水の香りというのは、白昼夢に似ています。夢か現か、立ちのぼっては消えていく。記録にとどめておくことも、他人への正確な伝達もできず、擬音で表現することもほとんど不可能。今その瞬間の、その人の感覚においてのみ存在する。その当人の感覚内においてすら、…
-
当番ノート 第16期
もし、会った人一人ひとり質問を投げかけてもいいのなら、聞きたいことがある。それは、 「あなたにとって、特別な一杯はありますか?」 特別、というと少し頭を悩ませるかもしれない。思い出に残った飲みものはあるか?という質問に変えてもいい。うーーーんと考えるよりはパッと思い浮かぶものがよい気がする。 ぼくの場合、特別な一杯は「Gin Tonic(以後ジントニック)」。今では居酒屋でもメニューオンしてて、ど…
-
当番ノート 第16期
前回のボトルに続き今回は、同じ面白さを感じている、Bob Dylanの楽曲について書いてみます。 それまでアコースティックギターで純粋なフォーク・ミュージックを歌っていたBob Dylanが、初めてエレキギターを持った曲があります。Subterranean Homesick Bluesです。 http://www.bobdylan.com/us/songs/subterranean-homesic…
-
当番ノート 第16期
世界の片隅の扉の向こうに、その町があり、その星がある。 ”六等星をもらえるプラネタリウム” 住所:ツバメ町 J地区 灰の小路 店主はこう語る——— 「”外”のかたは、滅多にこの町には来ないものですから。私も、こうして”外”からのお客さまにお会いしたのは、何十年ぶりかしらねぇ。そんなわけで、この町には、”外”のかたに泊まっていただくような場所が用意されていないのですよ」 ガイド…
-
当番ノート 第16期
3000円。 東京都内のチェーン居酒屋に行き、飲み放題コースを選んで飲むときの平均金額。飲み放題でなくても、そこそこつまんで飲んだら、そのくらいはかかる金額じゃないだろうか。たくさんつまんでお腹を膨らせ、たくさん飲んでいい感じに酔える、酔いが進むぶん会話も盛り上がりやすい。ぼくは88年生まれなんだけど、同世代をみると、そういう飲みをしている人が多いように見える。 そういう飲み方は “嫌い” とか …
-
当番ノート 第16期
50人くらい入れる静かで真っ白なスペースにいくつものボトルが整然と並んでいます。それらは、アタックなど市販のプラスチックの洗剤容器だったはずです。しかし表面がやすりで削られ、何の商品かは分かりません。 今年の5月、東京都現代美術館で「フラグメントー未完のはじまり展」を見ました。この展示は、断片的な情報が氾濫する現代において、その「断片」との向き合い方、あるいは「断片」の受け入れ方をわたしたちに提案…
-
当番ノート 第16期
世界の片隅の扉の向こうに、その町があり、その店がある。 ”階段オルゴール屋” 住所:ツバメ町 Y地区 樫の小路 店主はこう語る——— 「いらっしゃいませ。……あれ、見ない顔だね。もしかして”外”からのお客さんですか。では、”ツバメ扉”に気に入られたんだね。この町に入るとき、”ツバメ扉”を通ってきたでしょう。たいていは、あの扉はかたく閉じていて、”外”の人が通れることは滅多にないんだけど。”…