2014年12月15日『世界』の,つづき
子どものころ,
親戚のお姉さんやお兄さんたちのことがとても好きで
だけど、めったに会えなくて
親戚の集まりや、お正月やなんかじゃないとそのチャンスは なかった
ねえねえ、きょうお姉ちゃんたち来るかなあ。と、
しつこく母親の袖をひっぱって、
うざったく思われたりしていた
たくさん遊んでもらった思い出も、
そりゃ、もちろんあるはずなんだけど
一番おぼえているのは、帰りぎわの、あの嫌な時間
私の家族が先に帰ることもあれば
お姉さんお兄さんの家族が帰ってしまうこともあった
子どもの私にとっては、
本当に突拍子もなく、別れがやってくる
なんの前触れもなく、お父さんやおじさんの「そろそろ帰ろうか」が聞こえる
そんなにぐずる子どもじゃなかったから、
またねって、笑顔で別れていた気がするけど、
私はその別れのたびに、腰が抜けてへたりこみそうになっていた
いやだもっと遊びたいと、口にしたことはあっただろうか
ないように思う
もしかしたらあのときに、大人に近づいていたのかもしれないなと思う
この年になった今でも、変にまとまりがいいのは、
こんなに私が貧乏くさいのは、
これのせいかもしれない
通勤時ラッシュの電車のなかで,
きちんと等間隔に並んでいるつり革につかまって
そんなことをぼんやりと考えている
寒いわけでもないけど,
つり革につかまっていない方の手のやりばに困って
コートのポケットに手をつっこむ
そこにかさかさとした感触があった
つまんで取り出してみると、個包装されている飴だった
いつかチェーンの居酒屋のレジから取ってきたものだとすぐに気がついた
目の前に座っている、ちいさな女の子と目が合う
私立小学校の制服を着て、お行儀よくシートにおさまっている
普段はこんなことしないんだけど、
持っていた飴を彼女に差し出した
なんだか朝からそんなことをしたい気持ちになった
バカだなと反省するよりも先に,体が動いていた
はい、と
彼女に優しく渡そうと思ったのだけど、声がからまってしっかりと発音されなかった
大丈夫です。と、
彼女は、遠慮がちに
それでもしっかりと私に伝えた
受け取ってはもらえなかった
きっとそういう教育を受けているのだと、納得した
そりゃそうか、とも思った
彼女に飴を断られたことはちっとも恥ずかしくなかった
けれどこの満員電車のなかで
まわりにこの一部始終を見られていたことが,
私をわざとらしくさせた
幼い女の子の,申し訳なさそうな顔や様子も
いまの私の気持ちを,追いつめていく
飴をポケットのなかに戻す,
駅に着いたらなにか声をかけようか
わたしには思いつかなかった,思いつくはずもなかった
つり革にある手に,くっと力をいれる
そうすることくらいしかできなかった
そうしていれば,そのうち目的の駅に着くことを私は知っていた
駅に突然着いてしまうこともなければ,
いくら走っても駅にたどりつかないということも,あるはずがない
わたしがわたしを安心させるのは,そういったことなのかもしれない
ついでに,ポケットの手にも力をいれてみることにした
飴につかまってしまえば,
なんとかやっていけるような気がした
溶けませんようにと,
おまじないをかけながら会社へむかう