[男1は動きをとめる]
いまね、ぜんぜん違うこと考えてる
がまんしてんの?
うん
ははっ、 なに考えてんの?
え? なんだろ、ウクライナ情勢
なにそれー?
なるべく関係ないこと考えないとダメっぽいんだもん
社会派じゃん
こういうの社会派って言うんだっけ
たぶんね
この分だと朝になるころには、どっかのコメンテーターくらいにはなってるぜきっと
かもねー
[届くところにある缶ビールを手にとる男1]
自分だけずるいよー
飲む?
うん
[ビールを口に含み、女1に口移ししてやる]
まだ考えてるの?
なにを?
なんだっけ、世界情勢みたいなやつ
ああ、忘れてた
[動き始める、男1]
あーだめだ。やっぱだめ。
[動きをとめる、男1]
だめだ、世界情勢よか〈女1〉のほうが強いわ。目え閉じてても出てきちゃう。
もういいってべつにがまんしなくて。
ごめん。だって〈女1〉やわらかいんだもん
なんか急に思い出した。
あの人の声も顔も思い出せるけど、
なんなら大きさとか匂いとかもなんとなくおぼえてるんだけど、
名前が思い出せない
まあ別に興味もないけど
てゆーか、あいつ誰だよ
私のこと、なんて呼んでたっけ
わたしがあの人のこと思い出せないのとおんなじで、
わたしのことを思い出せない人は
世界にいったい何人くらいいるんだろう
なんだか胸が崩れそうになる
わたしのこと、なんて呼んだっけ
わたしは、なんて呼ばれたいんだっけ