アマリはあと2時間ほどで14歳になる。
正確に言えば、14歳になってしまう。
物心ついた頃にはすっかり憎悪と嫌悪の対象になっていたナンバー。
逃げようにも逃げられない、この日がとうとうやってきてしまった。
夜中の0時を過ぎ、自身の肉体におぞましい呪いの数字が刻まれてしまったら、例の計画を試みるつもりだった。
その計画とは、
海を出て
砂浜に横たわり
そのまま朝日が昇るのを待ち
干からびてミイラになる。
というものだった。
人魚にとっては海の外に出ることも、砂浜に横たわることも、ましてや自らミイラになることなどはもってのほかで、これらすべてはタブーとされるものだった。
アマリが思いつく限りの”さいあく”をやってのけることで、人魚の歴史を壊し、なにもかもを台無しにするつもりだった。
アマリは海中の暮らしのほとんどすべてを嫌っていた。
人魚は14歳になったら恋をしなくてはならない。
人間の、船乗りの男に恋をするのだ。
破滅の歌で男を誘い、歌を聴かせることで少しづつ相手の生命力を奪い、最終的にはその男を殺さなければならなかった。
歌声を、己の魂を捧げた相手の血肉を食らうのだ。
その理不尽な儀式を何度か繰り返していくと、人魚は不老不死と言われる一人前の肉体を手に入れることができる。
儀式を達成できない人魚は再び転生するために泡になるか、転生を望まない者は暗い海の底で岩になり、永遠に呪縛する運命だった。
みながおかしな因習を受け入れていた。
そういうものなのだと。
疑問に思う少女たちは自分の他、皆無だった。
心の優しい少女たちは自ら泡になることを選んだ。
恋をする、まではできても、いざ相手の魂と肉体を支配しようとすると、解放してしまう人魚は少なくなかった。
アマリはたくさんの少女達が苦しむ姿を今日まで見続けてきた。
むちゃくちゃな伝統に自分だけは従うものかと逆らい続けてきたが、14歳になる日がとうとう来てしまったのだ。
「絶対に恋なんてするもんか。ミイラになってなにもかもぶっこわしてやるんだから。」
自らの肉体を犠牲にすることで、人魚界に警鐘を鳴らすつもりだった。
0時になるまであと1時間半をきった。
満月の光が海中まで入り込み、アマリの高揚感を煽る。
光は一筋の道になり、海底まで差し込んでいる。
残された時間を瞑想に当てようと目を閉じかけた瞬間、
光の道に沿ってゆっくり落ちてくる灰色の物体がアマリの視界に飛び込んできた。
最初はくらげか何かと思ったが、違っていた。
いそぎんちゃくのようにも見えるが、それとも違う。
全身がもじゃもじゃとした大量の毛に覆われている。
エラがない。
アマリはそれが海中の生物ではなく、地上の生物だと悟った。
ということは、水の中では呼吸ができず、放っておけば、死んでしまう。
「たいへん!!」
差し出した両腕にゆっくりと沈むそのもじゃもじゃとした生物を抱きかかえ、アマリは海上に向かって力強く泳ぎだした。
suicide cats in seaside②に続く