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2F/当番ノート

星空書簡1-月夜に

当番ノート 第29期

はじめまして。今日から、まだ見ぬ、名前も知らないあなたに向かって
手紙を書くことにしました。でも、私はすでにあなたを知っているような
こともあるでしょうし、あなたもはたと私とあったことがあるように思う
かもしれません。

今、月齢5の月が南西の空に輝いています。しかも今夜は月のすぐ下に
明るい土星がランデブーしているのですよ。あなたの空には見えているかしら。

月は毎日、星の中を東へと移動していきます。それはまるで、お月さまが、毎日
違う星の宿にとまっているように見えたのでしょう。古代中国では、それを星宿と呼んで、
月の通り道に28種類つくりました。それが二十八宿と呼ばれる、中国オリジナルの星座の
ようなものです。

そうやって毎日渡り歩いて、今月は13日になると、「十三夜」がやってきます。
左側が少し欠けた、風情のある月。あなたの住む街では、十三夜のお月見は
やるのかしら。私は今、山梨県に住んでいますが、山梨の人たちは、十三夜の
お月見を当たり前のようにやっています。それどころか、十五夜(いわゆる仲秋の
名月、旧暦8月15日に行うお月見)を祝ったら、十三夜もやらないと縁起が悪いという
話さえあるのです。どこのコンビニエンスストアにも、十三夜用のおだんごが置かれます。
今年はたまたま9月1日と10月1日が新月だったので、ちょうど15日に十五夜、そして
13日に十三夜となりました。旧暦を生きたころの人たちと心が重なりあうようで、
少し嬉しい気分です。

月の光は、人工の光には到底なすことのできない、心を射抜くような強くて柔らかい
光をもたらしてくれますね。その光に人々が発見し、集積してきた「知」も数知れず、
またそこに馳せてきた切ない思いも数知れず・・
そんなことをあれこれ思いながら、毎日明るさを増す月をしばらく眺めませんか。

来週、ちょうど十三夜の日に、次のお手紙を書こうと思っています。
あなたの場所から、その光が見えますように、と願っています。
秋の気配が押し寄せています。どうぞご自愛を。
手紙

髙橋 真理子

髙橋 真理子

宙先(そらさき)案内人。星空工房アルリシャ代表。星つむぎの村共同代表。
出張プラネタリウム、ミュージシャンとのコラボレーション宇宙ライブ、星や宇宙に関する企画、執筆、大学講義などをやっています。近著「人はなぜ星を見上げるのか―星と人をつなぐ仕事」(新日本出版)

Reviewed by
akira kusaka

星を辿って届けられた手紙。そこには、思わず夜空を見上げたくなるお話が綴られています。星空には様々な国で、色んな人達が思いを馳せてきました。これから毎週届くお手紙。人々が夜空を見上げる理由がわかるかもしれません。最近、夜空を見上げていますか? 

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