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2F/当番ノート

偏愛総進撃第四回 火星か金星、どこかの星の9.95!

当番ノート 第29期

バカなもの、をつくるのは、実はとても難しいと思う。悲劇より喜劇のほうが書きにくいという話もある。ジャンルを問わず、その多くは狙いすぎて単にこちらを白けさせるだけだったり、笑いとシリアスのバランスが取れずつまらないものになっていたりする。

計算しつくされたバカっぽさ。愛すべきくだらなさ。それは侍戦隊シンケンジャー(2009)が筆型の携帯電話を「ショドウフォン」と呼び、轟轟戦隊ボウケンジャー(2006)が金属探知機型の狙撃銃を「サガスナイパー」と名付けるあのどうしようもないセンスだ(なお、サガスナイパーは普通の金属探知機としても使え、その場合は「サガスナイパー・サガスモード」と呼ばれる。センスの素晴らしさに頭が痛くなってくる)。

こうした、雑なのか丁寧なのかわからない特撮、というジャンルにおいて、昭和ガメラシリーズ、特にガメラ対バイラス(1968)からの路線は外せない。対バイラスではバリアーを素手でめくりあげ、対ジグラ(1971)では敵怪獣の背びれでドレミファソラシドを演奏する荒唐無稽な怪獣映画のシリーズである。そもそも、主演獣であるガメラにしてからが、足をひっこめ、ジェット噴射で回転しながら飛ぶカメという時点で、冷静に考えると不思議な生物過ぎる。ガメラは子どもの味方、という設定も、いかにも子ども向けだ。総じて低予算で撮影されており、ご都合主義で物語が進むため、SF好きからの評価はとても低い。1995年から始まった平成ガメラシリーズ3部作が、SFとして普通に面白かったことも昭和シリーズの評価を下げている。

・・・だからこそ、ここで取り上げていきたい。今こそ昭和ガメラは再評価されなければならない。
このシリーズは、どれも私は大好きなのだが、ガメラ対ギロン(1969)はその中でも何度でも見れる一作だ。

子どもが天体望遠鏡で空を見ていると、2秒で宇宙船が見つかる。宇宙船はすぐに町はずれに落ちる。子どもたちが乗り込むと、自動で動き始め不思議な星につく。

この映画、とにかくいろいろなところが雑である。と言われている。
適当に不時着する宇宙船、未知の惑星に当然の様にある空気、銀色だから宇宙ギャオスだねという謎理論、触ると磁石のようにとれるリモコン、包丁にしか見えない敵怪獣ギロン、ギロンの頭から唐突に飛び出す手裏剣、子どもが簡単に操作できるミサイル発射装置、垂直に飛び跳ねるガメラ、鉄棒で大車輪を始めるガメラなど、妙な部分を上げればきりがない。

しかしである。
私はこの映画、かなり緻密に計算されたエンターテイメントに見えてしまうのである。

なんたってテンポが良すぎる。主役の子どもには次々に大冒険が降りかかる。宇宙船への乗り込みから始まり、宇宙での隕石回避、ガメラとの交流、未知の惑星への不時着、怪獣同士の戦い、宇宙人との接近遭遇、惑星テラの歴史、睡眠薬での罠、本性を現した人食いの宇宙人からの逃走劇、そしてガメラと協力しての大脱走。これが、休憩なしで80分続くのだ。

実に見事な作りではないか。明るく楽しく、ゆるくなりすぎないギリギリの範囲でハラハラドキドキを矢継ぎ早にたたきつけてくる。徹底したエンターテイメント。確かに子役演技が棒読みだとか、映像がチープだとか、SF交渉が雑だとか様々な問題はある。でも、いいではないか。不時着した惑星に酸素があっても、これは、子どものための物語だ。子どものための子どもだけの娯楽だ。子どもに理解可能、子供の手持ち武器で対処可能な世界なのだ。ウルトラマンタロウと同じである。子どもの手から物語は零れ落ちてはいけないのだ。だからこそ宇宙船は望遠鏡ですぐに見えなければいけないし、宇宙服を着ずに乗り込めるのは「すごく性能のいい宇宙船なんだなあ」という理由で許されなければならないのだ。子どもに対処可能な世界のなかでのみ、ガメラはどこまでものびやかな神であれる。シン・ゴジラ(2016)のように災害映画として徹底的に大人向けを貫くのもよい。だが、昭和ガメラは違う。のちの平成モスラシリーズ(1996~1998)にもつながる、ファンタジーとしての怪獣映画の一つの究極の到達点がガメラ対ギロンである。

であるならば、バカっぽさも、しょうもない部分も、すべて、計算しつくされてその文脈に入っているのではないか、と私はこの映画を見て思うのである。例として、ガメラが突然大車輪をするのは、子どもが人食い宇宙人につかまって閉じ込められた直後のシーンである。ここにコミカルな場面を入れることで、制作側は視聴者である子どもたちの感情動線に緩急をつけようとしたのではないだろうか。なんたって、序盤に警察官をからかうために使ったパチンコを、後半に牢からの脱出に使用させる丁寧さのあるスタッフである。全編にわたって高レベルなエンターテイメントに徹することができた昭和ガメラの優秀なスタッフが、単にやけくそで適当なシーンを挿入したとは、私には到底思えないのである。

今回の豆知識:ガメラの火炎噴射は、宇宙船を溶接することもできる。

Masakuni Hashimoto

Masakuni Hashimoto

特撮についての簡単な断章・偏愛備忘録。

Reviewed by
田嶌 春

Hashimotoさんの文体って、喜劇にも合うんですね。丁寧なんだけど、絶妙な脱力感。

悲壮感さえ漂っていた前回までとは打ってかわって、第4回は、昭和ガメラの「バカっぽさ」を再評価します。
無茶振りを畳み掛け、ナンセンスを押し通す!
それって、物語の原型である神話や童話では常識だし、ハリウッドあたりでも得意技としているやつですよね?

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