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2F/当番ノート

肯定について

当番ノート 第30期

衣装を作っている。

東北で震災があった年に高校を卒業して以来、自分がどういう考えで服を作っているかを多少なりとも言語化できるようになったのは、ごく最近のことだ。
そのあたりのことを、連載の初回に書こうかと思う。

人を肯定することと否定することは、どちらの方が力が要るのだろう。

言葉は至るところに溢れているし、人を切り捨てるような言葉はその中でも強く大きく聞こえてきやすくて、簡単に流されてしまいそうになる。
自分を肯定しながら生きることの方が、力が要るように私には思える。情けないのを承知で言うと、そういう力を周りの人に、今でも私は依存していると思う。
そしてそれは服にも。

あなたはかけがえのない人だ。だから生きてほしい。
そういう祈りのような肯定を受け取ることができる服に、私はとても助けられてきた。
また、そういう服を雑誌にもどこかのファッションリーダーにも扇動されずに自分で嗅ぎつけて、選んで着ていると、自分がなにかのまがい物にならずにちゃんと自分として存在できていると思えた。

大衆が求めているものを分析し、少しでも低い価格で作ることに心を砕いている人が沢山いる。
だからこそそれとは違う動機とやり方で、無言の肯定を感じ取れる服を作ることをしたいと思う。
やり方をまだ見つけられないにしても少なくとも、人間に対する愛が感じられない服で、代替のありえない個々の人間を包むことをしたくない。

着る人にちゃんと馴染むのがいい。
社会にではなくその人に添って形を変えていってほしい。そうして経た時間が豊かだったと、人にも服にも微笑んでほしい。

衣装の仕事を今やっているのは、着てくれる人と顔を合わせて、言葉を交わしながら作ることができるからだ。
そうやって一つ一つ作っていくことでしか見えないものに、たぶん、少し前から呼ばれている。

こんにちは、
初めましての方も、知っているよという方も。
1月まで火曜日のコラムを書くことになりました。黒井岬といいます。
火曜日は私が生まれた曜日です。
今はだいたいこんな考えで、服を作っています。
年明けまで2ヶ月間、どうぞよろしくお願いします。

黒井 岬

黒井 岬

服を作る人。
1993年、新潟県生まれ。2011年より東京に移り、専門学校に4年間在籍し服飾を学びながら作品を製作する。
自主製作のほか、ミュージックビデオ、映画、ダンサーなどの衣装製作を行う。

Reviewed by
saekimura

ドキっとする言葉がたくさん出てきた。
読みながら、頭の中の小さな私が、わーすごい!と嬉しくて踊っているようだった。

とても大事なこと。
どうゆうわけか大事なことほど忘れやすい。
岬さんの作った服にぜひとも触れてみたい。

祈りのような肯定を受け取れる服。
そう思って作っているだけで、実際そうなっているに違いない。

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