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2F/当番ノート

時間とその流れについて思うこと

当番ノート 第31期

東京の下北沢でクラリスブックスという古書店を営んでいる。

店をオープンして3年が経った。月並みな言い方だが、ほんとに、月日が経つのが、早い。
私は現在42歳だが、店をオープンした時期に、私より一回り年上の人から、40代はほんとに早いよ、あっという間だよ、と言われたのを思い出す。
業種は全然違うが、その方も私と同じくらいの年齢の時にお店を立ち上げたようで、なるほどそういうものかな~、とぼんやりと心のどこかにしまっておいたが、今思えば、確かにその通りかもしれない。

しかし考えてみると、50になったら60の人に、60になったら70の人に、同様のことを言われるのかもしれない。さらに若い時のことを考えれば、10代、20代はあっという間だったのだ。だから、40を過ぎてしまうと、10代から30代を一括りで、「あっという間」と単純に形容してしまう。

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時間というものは、一体なんなのだろう。

我々は、常に「今」を生きている。ただ、人間は過去のことを振り返ったり、未来のことを想像したり、実にいろいろなことを頭の中で考えることができる。今を生きているが、過去にも未来にも生きることができる、とも言える。

小学生の頃、友だちと遊んでいた時のあの楽しい時間は、あっという間に過ぎ去るが、自分が中学生、そして高校生になることを想像するだけで、ほんとに、宇宙の誕生と終焉くらい、途方もなく遠い未来の話のように感じられたが、しかし大人になって、そんな数年後のことなど、さらには10年後のことを考えても、そんな遠いこととは感じられず、すぐに訪れる未来、と思ってしまう。人間は死ぬ時、いままでの自分の人生すべてがあっという間に感じられるのかもしれない。

なぜ古本屋をやっているのか、自分自身よくわからない。ただ、好きだから、としか言いようがない。しかし、もしかしたら、無意識のうちに、なにか、こういった、時間の不思議について考えあぐねていることと、本というものが、人の手から人の手に渡ること、そしてそれを媒介する担い手の一つになっている古本屋という職業について、どこか奇妙な共通項があって、知らず知らずのうちに引き込まれていったのかもしれない、などと妄想する。

時間と場所を飛び越えて存在することのできる古本というものに、やはり憧れがあるのだろう。あっという間に過ぎ去る年月、あるいは永遠に続くのではないかと思われる時間の流れ、古本を見ると、それらが一瞬停止する。その感覚が好きなのだ。

高松 徳雄

高松 徳雄

東京・下北沢の古本屋、クラリスブックスの店主。

神田神保町の古書店にて約10年勤務した後、2013年に独立・開業。現在に至る。
クラリスブックスでは、文学や哲学、歴史、美術書やデザイン書、写真集、さらにはSF、サブカルチャーまで、広範囲に取り扱う。

本の買取は随時受付中。
また、月に一回、店内で読書会を行なっている。

Reviewed by
黒井 岬

古本という体裁をもって、私のもとへ立ち現れた言葉や物語たち。
時間と場所を越えて、彼らはまるで旅をしてきたかのようだ。長く大変な道のりを歩んできた(らしい)ものもあれば、ちょっとそこまで散歩しているかのような顔をしているものもある。
古びた紙に触れ、言葉に目を落とすとき、私たちもまた別のところへ移動している。彼らが旅をさせてくれる。
飛ぶというより静かに流されて辿り着くようなその感覚を、ずっと憶えていたい。
そこまで思って、はっとして部屋の片隅に目をやる。いわゆる積ん読状態の本たちの背表紙が、横目でじとーとこちらを見ている。すみません、読みます。

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