入居者名・記事名・タグで
検索できます。

2F/当番ノート

究極の兄弟愛:ふたご座

当番ノート 第38期

今回は冬の星座ふたご座から。いったいどんな双子なのだろう。

**
カストルとポルックスは神の王ゼウスとスパルタの王妃レダとの間に生まれた双子でした。カストルは荒馬を手なずけるのがとてもうまく、戦略に長けており、ポルックスは拳闘のチャンピオンでした。2人そろってオリンピア競技では数々の優勝をさらい、さまざまな冒険に参加して、勇者としてギリシャ中に名前がとどろいていました。
彼らにはイーダスとリュンケウスという双子の従兄弟がいました。イーダスは力が強く、リュンケウスはすごい眼力の持ち主でした。真っ暗闇でもものを見ることができたり、地中に埋められたものでも見ることができました。冒険から帰ってきたカストルとポルックスは彼ら従兄弟たちと争うことになってしまいました。
 事の発端は2組の双子が牛を捕まえにいった時のことでした。4人は協力して見事にたくさんの牛を捕まえましたが、それを分配しようということになりました。
「1頭の牛を4分割し、1番早く食べ終わったものが捕まえた牛のうちの半分、2番目のものが残りを手にすることにしよう」とイーダスが提案しました。みんな面白がって賛成し、3人がいざ食べ始めようとしましたが、イーダスはすでに自分の分を食べ終わっており、リュンケウスの分も手伝うと、カストルとポルックスがまだ食べているうちに全部の牛を連れて帰ってしまいました。
怒ったカストルとポルックスは従兄弟の家に向かいました。2人がやってくるのを遠く彼方から見つけたリュンケウスは、イーダスに位置を教えて槍を投げさせました。槍は見事にカストルの体を貫いてしまいました。カストルの死に、ポルックスは茫然となりました。その間、イーダスとリュンケウスはポルックスの傍らまでやってきてしまいました。イーダスは近くの墓石を引き抜いて殴りかかりますが、ポルックスはそれをよけ、リュンケウスを槍で貫きました。イーダスはそれを見て怖くなり、逃げ出しました。
そのときに初めてこの争いに気づいたゼウスは、逃げるイーダスにいかづちを投げつけ、殺してしまいました。
ポルックスはカストルの死を悲しみ、自殺しようとしました。しかし運命は過酷なもので、カストルは母親の血を濃く受け継いでいたのに対し、ポルックスは父の血を濃く受け継ぎ、永遠の命を持っていたのでした。ポルックスはどうやっても死ぬことができません。
「父のゼウスよ、最愛の兄弟を失っては生きていく力がありません。私もカストルのところへ行かせてください。それができないなら、息子であるカストルをもう一度生き返らせてください。そのためなら私の命を捧げます」
ポルックスの悲痛な祈りを聞いたゼウスは心を打たれました。そして、世の中の兄弟姉妹のすべてが2人をお手本として仲良くするようにと、2人を星座にしました。
**

今回は12星座の一つであるふたご座。この星座の名前を知らない人は少ないだろうが、どんな双子が由来になっているか、知っている人はどれくらいいるだろうか。カストルとポルックスは人物の名前のまま、ふたご星座における明るい2つの星の名前になっていて、とても見つけやすい。オリオン座ほどではないが、空気の澄んだ冬の空に輝く、代表的な星座の一つといえると思う。

さて、この双子も神の王ゼウスの子である。さすがゼウス、正妻のヘラ以外にどれだけ多くの女性に手を出しているのかと思われるだろうが、その子供として全能の神の血を継ぐというのは、誕生と同時に大変な運命を生まれながらに背負うことを意味している。ゼウスの子供たちは普通の人間に比べ、高い能力を持っている場合が多いし、それによって人間の世界で多くの場合は活躍するのだけども、悲しいことに、いつも過酷な運命に振り回されている。今回もまた、ゼウスの子供ということが物語の大きなキーとなる。

今回の物語は2組の双子の諍いから始まる。男同士の兄弟、しかも双子同士というと、互いにずっと意識し合う存在だったに違いない。両方の双子とも特別な能力を持っているから、なおさらだろう。兄弟という点からまず考えると、人間の世界でも、男同士の兄弟の間にはもちろん特別な愛情がある一方、それと同じくらいライバルとして意識する感覚があるように思う。姉妹の間も同様と思うが、自分の周りを見回すと、男性の兄弟のほうがその傾向が強い印象がある。多少の年齢差のある兄弟や姉妹に比べ、年の差のない双子だとどうだろう。同志としての愛情もより大きそうだし、ライバルとしての関係性もより強そうな気がする。それに、一卵性か二卵性によっても関係は変わってきそうだ。それに加え、今回のお話のように双子の従兄弟同士となると、これまた複雑になる。年齢が少し離れていればいいが、年齢が近いもの同士だったりすると、どうしても意識せざるを得ない関係になるのではないだろうか。従兄弟というと兄弟ほどの近い間柄にはなり得ないし、親族としての親しみが基礎にあるとはいえ、ライバル視してしまうケースが多い気がする。異性同士ならまだしも、同性の場合、少し遠い親族だからこそ、互いに意識し合ってしまいそうだ。そう考えると、今回の2組の双子のけんか、現代からすると内容自体はなかなか理解のしづらいのだが、4人の関係性を総合的に考えると、起こるべくして起きたように思えてくる。捕まえた牛を分けるというなんだかうまくイメージできない内容については、今回はあえて突っ込まずにおく。

今回のけんか、きっかけは傍からみたらくだらないのだが、結果はかなり重大で、なんと容赦のない殺し合いになってしまう。カストルが槍で貫かれ、イーダスはポルックスを墓石で殴りかかり、ポルックスはそれを正当防衛として槍で刺して反撃。逃げたリュンケウスは途中で介入してきた、カストルとポルックスの父ゼウスによる雷に打たれて死ぬ。まさに、命がけのけんかだ。結局、牛の分配の一件でずるをしたリュンケウスとイーダスの双子は、ゼウスの逆鱗にも触れ、両者ともに命を落とすこととなる。ゼウスが父としての一面を見せ、勧善懲悪的な結果となるのだが、最初の4人のうち3人亡くなるなんて、ちょっと極端すぎはしないだろうか。最後に残されたポルックスも悲しみから自殺を企てるのだが、ここにきて神の子としての運命が彼を苦しめることになった。

あらためて、兄弟愛ってどんなものだろうか。ポルックスは神の血が強かったことから自殺しようとしても死にきれず、なんとか死なせてと願う思いと、自分の命を捧げてでもカストルに生きてほしいと願う思いを抱く。前者は1人で生きていくことはできないから、自分も死んでカストルのそばにいきたいと願うのだが、後者は少し違って、自分が死ぬ代わりにカストルを生き返らせてという、一緒にはいられないけど、自分の分もカストルに生きていてほしいという懇願だ。願いがかなえられた場合、一緒にいられるかどうかの部分に違いはでてくるが、どちらも、もはや自分の命はカストルがいないのであってはどうでもいいという捨て身の覚悟がある。ここまでの強い覚悟は、2人が恋人や夫婦のような関係であればイメージがつきやすいのだが、今回はやはり兄弟同士というところが特別に感じる。異性に対するものと、血を分けた兄弟に対するものとで、その間の愛情はどう違うだろうか。異性に対するものと、友人に対するものと間くらいだろうか。親に対するものとも少し違うし、独特な愛情であることは違いないのだが、うまい説明ができそうもない。しかし、その愛情の量というか、程度だけで考えた場合、兄弟間の愛情は恋人や夫婦間の愛情に比べると少ないように思う。正直なところ、自分の命を捧げてでも兄弟姉妹に生きてほしいと願うことは、自分の愛する異性に願うそれに比べ、なかなか想像しがたい気がするのだ。やはり、今回のポルックスとカストルの関係性はとても稀有で、ゼウスが心を打たれるだけのものなのだと思う。

我が身を振り返ると、もちろん血を分けた兄弟姉妹のことは大好きなのだが、彼、彼女のために自分の命をなげうてるかというと、次元が少し違う話のように感じる。だからといって、愛情がないわけではないし、カストルとポルックスの関係性に比べて特別劣っているとは思わない。ただ、ゼウスが2人を星座にした思いを尊重すると、大人になったいま、兄弟姉妹への愛情を恥ずかしがらず、なんらかの形で伝えてみてもいいのかもしれないと思わされた。親孝行以上に、兄弟姉妹に思いを伝えるのってとても照れくさく、ハードルが高い。母の日や父の日のように世間の流れに便乗できる日があればいいのに、兄弟姉妹の日がカレンダー上ないのはどうしてだろう。ポルックスほどにはなれないとしても、まずは照れをなくすことから始めようか。

2018-05-18 08.18.43

さいとう真実

さいとう真実

1985年生まれ。普段は硬めの文章書いてます。

Reviewed by
小沼 理

個人的な話だけど、僕、双子なのだ。男女の双子で、性格も正反対。陰と陽、静と動という感じなのだけど、カストルとポルックスのように分かちがたく結びついている実感はあまりない。だから今回のふたご座の話は感覚的にわからないような、耳が痛いような物語だった。
さいとうさんが言うように、たしかに父の日や母の日はあるのに、兄弟姉妹の日は決められていない。もしもあったら、何を伝えるだろう。感謝というより、あなたらしく生きて、と伝えたいと思う。

トップへ戻る トップへ戻る トップへ戻る