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2F/当番ノート

1つ1つ、悩みに答えをあてはめた結末

第38期(2018年4月-5月)

ゴールデンウィーク最後の日、私は困っていた。5月の月曜日が5回あることに気づいたのだ。全8回だと思っていたアパートメントの連載が、9回ある。

カフェ

「なんで最初に確認しておかないんだ……」と過去の自分を責めた。いつもそうだ。大事なところで必ず抜けている。カフェで第7回目の記事を書いている途中なのに、私の頭の中は9回目でいっぱいだった。

そうは言ってもあるものはあるんだし、残り1記事何を書こうかと、冷めたコーヒーを飲みながら内容を考え始めた。今までの記事は日常で思っていることを書き出して、旅先の思い出とつなぎ合わせて書いていたので、9回目も同じように書こう。

パソコンを閉じてノートを開き、過去に書いたメモを眺めながらペンを動かした。けれど困ったことに、新しい悩みが見つからない。最初はあんなに勢いよく書いていたのに、一体何が起こったのだろう。

「悩みが見つからないのが悩み」とは、なんて贅沢な悩み。常日ごろからさまざまなことに悩んでいた私には、思ってもみないことだった。

連載の中で旅の思い出を書くことが、何よりも楽しかった。

旅先に持って行ったノートやスケッチブックを本棚からすべて取り出して、1枚1枚、ページをめくりながら当時を思い出す。
ホームステイ
「ホームステイがしたい!」とゲストハウスのオーナーに交渉して、彼のお姉さんの家に泊めてもらったこと。

これからどう生きたらいいかわからなくて、公園のベンチで「好き」と「嫌い」を100個ずつ書き出したこと。

宿で知り合った科学者のピーターが、たどたどしい英語で仕事について話し続ける私に、スタバのグランデサイズを買ってくれたこと。

記事を書くまで思い出すことが少なくなっていたけれど、どれも忘れたくない大切な体験だった。

文章は、自分が普段考えていることと紐づけて書けるといいな、と思っていた。書き出していくと、いつのまにか「普段考えていること」は「悩み」にすり替わっていて、「今まで自分が悩んでいた(または悩んでいる)ことを、旅の思い出とともに消化しよう」と決めた。

ありがとうなんて言わないで

夢中になっていたことが自分の悩みを解決する糸口になるので、自分の今まではこれでよかったのだとも思えてきた。書くことで、全てが繋がっていく気がした。

しかし、半分を過ぎたころにだんだん書くことが難しくなっていった。日々の悩みをかき集めて、今までの記憶を頼りに向き合っていると、行きつく答えが同じになってしまう。

もちろん前もって整理もした。自分が思っていること、解決策、それに紐づく旅の思い出。それでも書いていくうちに、さらに整理されていって「この悩み、前回の記事と結論は同じだよね」となるのだ。そして第9回目は全く出てこなかった。

自分が日々悩んでいることって、整理してみると、同じことをぐるぐる巡っているだけなのかもしれない。本質的には同じ「悩み」が形を変えて、何度も何度も私の前に現れる。その場はなんとなくやりすごせても、根本を見ていないと応用がきかず、変身した「悩み」に対処法を見つけることができない。

今回アパートメントで8個の悩みと向き合った。至極個人的な悩みを、他の人が読んでもイメージしてもらえるように試行錯誤した。それに対して、「もしかしたらこういうことかもしれない」と自分なりの答えを当てはめてみる。それを毎週繰り返した。

するといつの間にか、考えつく悩みに全て、自分で考えた答えが用意できた。
夜景

……とはいえ、8個の悩みと何十年も寄り添ってきたものだから、気を抜くとそれらはひらりと形を変え、私に近づいてくる。心の準備が整っていないと、多分私は今後もそれを真に受けてしまうだろう。そして今までみたいに、落ち込んでしまうかもしれない。

けれど今までと違うのは、「1回でも考え抜いたことがある」ということ。そしてそれが、目に見える形で「残っている」ということ。落ち込み始めても、「あの記事でこうやって書いたじゃん」と自分にツッコミが入れられる。ここでの連載は私にとっての、「お守り」のような存在になる気がする。

残ったコーヒーをぐいっと飲み干し、カップは空っぽになった。私はノートを閉じてパソコンを開き、書き途中だった記事の続きを始めた。

1つ1つ悩みに答えをあてはめた結果、悩みの本質はそんなに多くないことに気が付いた。あてはめた答えを、あとは日常のなかで実践するのみ。

そして私は、実践することに疲れても大丈夫だ。その時はまた、旅に出ればいいのだから。

バックパック

もりやみほ

もりやみほ

編集者/フリーライター。
旅とらくだとピクニックが好きです。お出かけ系、観光関連の記事をよく書きます。noteには思ったことをつらつらと。

Reviewed by
Kazuki Ueda

2ヶ月の間、8つの悩みと8つの国の思い出を巡ってきた連載も最終回。
9つ目の悩みは現れることなく、もりやさんの記憶は、旅の遥かな思い出から、日常へと戻るトンネルの途上にあるようです。
悩みの種は、いつも日常で直面する現実の中にあって、現実を変えなければその不安や恐れは解決するはずはない。でも実は、悩みの正体は、自分の心に巣食う臆病さや思い込みの影に過ぎなくて、正体を暴いてしまえば、大袈裟な影に比べて些細なものだったりする。その仕掛けがわかれば、少なくとも怖くはない。
じゃあ、その些細な臆病さを無くせるだろうか?自分を変えられるだろうか?
もりやさんは、それを実践する勇気を持って、日常へ帰っていく。
だけど、慌しく、しかし起伏なく続く日常の中で、自分の心の弱い部分と向き合い続けるのは難しい。掴まえた臆病さの尻尾はいつのまにか手をすり抜けて、また心を乱すお化けになって現れる。その度に、見失った自分の臆病さと、かくれんぼを演じないといけない。
感覚が日常に順応し切って、見つけられなくなってしまったら、旅に出て、励起された五感で感じた、新鮮な感覚を思い出す。そこで感じた、覆しようのない、鮮明な印象、後悔、躊躇の中に、日々目を向けていない自分を、また発見する。
もりやさんがこの連載で手にした「自信」は、そうして発見された自分のありかを示した、心の中の地図のようなものなのかな。
次、またかくれんぼになっても、手元に地図がある。
そして地図が足りなかったら、やっぱりまた、旅に出るんだろう。

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