ある1人の少年と現在生活している私は、何かと自分の生活圏を彼の存在で掻き乱される日常にいた。それにしても、この少年と私は、いつから親しく関わり、一緒に生活を共にしているのか経緯が全くわからない。ただ、あの日 家の前に雨の中びしょ濡れの仔猫が捨てられていた事。その少年の幼い顔がどこか昔愛していた人の面影を連想させる事だけしか確かなものはなく、名前も 理由も得体の知れぬまま私の側にその少年は存在していた。
そして不思議な事に、彼は自分の感情よりけりで、自分の姿を猫にかえる。ことができる。
例えば私が忙しく少年に構っていられない時は、彼はたちまち猫に変身し、私に纏わり付いて甘える。
少年が一人遊びをしているその隙に、キッチンに立って夕食作りに一気に集中するも、ふと気にかけて少年に視界を向けるとまたも猫になっており、どこから見つけてきたのかペットボトルの蓋を、必死に猫パンチしながら追って遊んでいた。どうやら彼は、淋しくなると猫になるらしい。随分ご都合主義だけど、一緒にご飯を食べたりTVを観る時は、決して猫の姿になる事がなかったからつまりそういう事だろう。
そしてある日、兄が飼っている2匹の猫を預かる事になり家に招き入れると、少年は猫になっていて、必死に背中や耳や尻尾をおっ立てて威嚇するや、兄の2匹の猫に飛びかかり大乱闘となる。私は、見兼ねて3匹の猫の取っ組み合いの間に入り仲裁をとった。のだけど、少年は猫のまま尚も兄の猫達に食らいついて行くものだから、いい加減に私はその(猫の姿をした)少年を叱った。
いい加減にしないとまた捨てられちゃうよ
当然本心ではなかったけれど、口から出た言葉はもう2度と消す事はできなかった。
すると少年は、敵対意識丸出しにしていた兄の猫から急にそっけなく離れ、突然カーテンをくぐり、開けてあった窓からベランダの手すりにぴょんと飛び乗った。と同時に(猫の姿が)少年に戻る。
私は慌てて少年の手を掴もうと駆け寄り、そこから降りないでと泣きながら叫んだその時に、少年は私に
バイバイ
と笑って真っ逆さまに飛び降り、乾いた銃声のような、コンクリートに何かが叩きつけられた音が聞こえて絶望する。
と同時に
私は目が覚めた。
また 夢を見ていた。
そして、現実の思考で夢の中にいた少年を思い起こす。
キミハ モシカシテ アノトキノ キミデスカ?
あの時、私が一緒に生きることが許されなかった胎児は、あの日この世から剥がされてもう何処にもいない。
だけどこうして、私はたまに不思議な少年の夢を見る事がある。何度でもいい。また会いたい。
ワタシガ アイシタカッタ オトコノコ。
サヨナラ。