2019年8月4日日曜日 晴れ。従兄弟の結婚式に参列した。
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12時00分(挙式開始30分前)。
「信じられない! お父さん、この靴で参列するの!?」と、母が突然声を荒げた。(いつも通り)無遠慮な母の物言いに勃然としていた父の足元を見てみると、グレーのスリッポンスニーカーのようなものを履いている(念のため書いておくと、父は、ちょっとだけ……結婚式の知識がないだけだ)。
「30分あるし、一緒に靴を買いにいこうか」と、私は父を誘った。高級ブランドが並ぶ表参道を「んー、結婚式は面倒だねぇ」なんて言いながら、ヨレヨレのスーツとスリッポンスニーカーの父と一緒に歩く。5分で10万円程の革靴を購入し、式場に戻る。父は不満をいいながらも、すこし嬉しそうだった。
13時30分、挙式がはじまった。
7歳の息子がバージンロードを歩いている。多分、1度しか会ったことのない親戚の挙式でリングボーイという大役を務めている。息子が務めを終えた後、私は親族席の一番後ろで年をとった両親や叔父、叔母の背中を見つめていた。前に座ってキョロキョロと周囲を見渡す4歳の娘と目があい、お互いニコッと笑った。
——私もいつか、新郎(新婦)母としてこういう場に立つのかしら。
パイプオルガンの演奏がはじまり見慣れないステンドグラスや聖歌隊に、私は半笑い気味だった。「汝、健ヤカナルトキモ、病メルトキモ、喜ビノトキモ(中略)……ソノ命アル限リ真心ヲ尽クスコトヲ誓イカマスカ?」とか、牧師さんがお決まりの(と言ったら怒られるかな)誓いの言葉を述べはじめる。
——重たすぎやろ。
ふと祭壇に意識を戻すと、戸籍上新しく“家族”になった新婦がお父さまに無邪気な笑顔で手を振って、お父さまは、満面の笑みで花嫁姿の娘に手を振り返していた。
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ところで、私たち夫婦は8年前に結婚した。現時点の感想は、どうして今まで人類の生命が途絶えなかったのかと思う程に、結婚は面倒臭いことだらけ——よくぞここまでみんな家族を投げ出さずに営みを続けた、えらすぎる!——だし、夫ともこれまでいろんなことがあった。でも、これはふたりにしかわからないことだし、99.999……%の人とってはどうでもいいちいさな私の世界の出来事だ。
15時00分からはじまった披露宴。結婚や式への疑問が頭でグルグルうずまき、心臓の右あたりがムズムズした。
——でも、父と表参道を歩いた時間も、大して会ったことのない親戚を祝う息子の晴れ姿も、子どもの未来を思った時間も、重たすぎる牧師さんの「愛トハ全テヲ受ケ入イ許スコトデス」という言葉も、新婦とお父さまの笑顔も。正直、どれも身に沁みてしまったのって、今の私だからだよなァ。
なんてことを考えながら、私はひとり、ビールを飲み続けていた。
——みんな、幸せそうだ。よかった、よかった。
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18時00分。挙式帰り、子どもたちを両親に預けた私と夫は、居酒屋のカウンター席に座った。ふたりで居酒屋なんて、7年ぶりだった。
私「なんで人は、わざわざ結婚式なんてするんだろうね」
夫「決意表明ってことなんじゃないの」
私からは絶対出ない“夫らしい”よくわからない言葉だと思ったけれど、「いい結婚式だったね」と、適当な返事をしておいた。そうして、あとは仕事やおっぱいの話をしてお会計を済ませた。
家に着くまでの道でも、やっぱり、結婚のことを考えていた。やっぱり結婚はするもしないもどっちでもいいし、どうしたって面倒臭い。それでも、「ふーん」と、なんとなく終わっていく会話は、今の私と夫としかできないんじゃないかしら。
今日のおわりに****
46期月曜日の当番になりました。細野 由季恵です。
アパートメント初当番の前日に結婚式があり、直前まで違うネタを書いていたにも関わらず、原稿を差し替えた……にも関わらずぼんやりとした記事になってしまいました。でも、うまく書けないけれど、久々に家族が集まった結婚式には、私のちいさな世界が詰まっていて。
このお部屋では、これから8週間、いつも流れていくだけになってしまっていた日常や言葉を、お伝えしていこうかと思います。99.999……%の人にとって、どうでもいいことなのですが。