2019年8月16日(金)、取材のために車で山梨県へ向かっていた。
「車が好きでさ、
あ、好き、といってもここ最近の話で語れることは少ないんだけど。それに、十数年前に取得した運転免許はほとんど使う機会がなかったし、『車にお金をかける人の気が知れない』くらいに思っていたしさ。
でもね、こうやって長距離移動をする機会が増えると、アクセルを踏み込んだ時の加速がたまらねぇって気づいたんだよ! 運転中に大きめの音量でかけるBGMも、ノンストップで変わり続ける景色も……多分ね、私にとって車の運転は高まる要素だらけでさァ、」
助手席のAに、私は話しかけ続けていた。彼女は「うんうん」と笑顔で聞いてくれている。
「最近はね、インターネットでスポーツカーやバイクを眺めていて……」
と話しはじめたところで、リアガラスに『E.YAZAWA』のステッカーを貼った車が私たちの車を追い越した。
「“好きなもの”を主張できるって、なんかいいよねぇ。矢沢永吉は、あまり知らないんだけど」と、Aがいった。
「いいなぁ」というAのことを、私は「いいなぁ」と思った。Aはいつも“知らない世界”と触れた時、ネガティブな言葉を口に出すことがない。そこにあるだれかの気持ちや価値を、いつも探そうとする。そんなAは、すごく豊かだ。
私はそれを伝えようと、また、口を開きはじめた。
「私さ、“知らない世界”と触れた時、否定だったり、懐疑だったりネガティブな方向に感情が振れてしまうことが多いんだよね。何にも知らないくせに、真正面からその世界にある価値を知ろうとするのではなくて。なんとなく、皮肉な態度をとってしまうというか。車を運転しはじめる前もそうだったしさ。
だけどね、裏を返せば、そこに少なからず何かしらの憧れが隠れていることもあってさ。例えば、小学生の頃、ヴィジュアル系ばかり聴いて、表向き『アイドルなんてダサい!』なんていっていたけれど、毎回ASAYANを欠かさず見ていたし、モーニング娘。に入りたかったのだと思う。
あア、これは、ちょっと話が違ったかもしれない……。
ええっと、そうだな、つまり……」
まとまらなかったし、Aに「豊かだね」って伝えようとしたことはモーニング娘。のくだりあたりですっかり忘れてしまっていた。
Aは、「“知らない世界”を否定するよりは、なにかしら想像したり知ろうとしたりできるといいよね」と笑いながらいってくれた。
「そうそう、それそれ」私は頷いた。
そして、AはBGMを矢沢永吉に変えた。永ちゃんは、すごく、かっこよかった。