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2F/当番ノート

「御社に入社した暁には」

当番ノート 第57期

驚くなかれ、採用面接の真っ最中に落とされたことがある。

聞く限り、身の回りでそんな経験をしたのは私だけだ。

帰宅する頃には結果を送ってくる企業はあれど、まさか会場で落としてくるとは。

志望はとある老舗文具メーカー。

ちょっと古風でお堅い感じはあるけれど、文房具は好きだし押さえておきたいなと思っていた企業である。

トントンと駒を進めていき、ここを突破すれば社長面接、すなわち最終面接というところまできた。さすがに緊張する。

「弊社の改善すべき点を教えてください」

きたっ! この質問はあるに違いないと思っていたのでバッチリ予習済み。「これ進研ゼミでやったところだ!」状態。

弱みだと感じており、同時にその企業が第一志望にならなかった理由である、企画・広報部門についてべらべら喋り倒した。

社会の厳しさを微塵も知らない恐ろしさ。若く新しい風をびゅうびゅう吹かせて、いっちょ盛り上げてやろうじゃないかと本気で思っていた。たわけ者もいいところだ。

(やりきった……これは悪くないはず)

以上です、と締め括ったあとに面接官から他に内定をもらっているかとの質問があった。

緊張で怖気付かないよう、増し増しにしていた自己評価で(はは〜ん、割と本気で採用を考えてて志望度を確認しようとしてるんだな)と都合のよすぎる解釈をする。

「1社ですが頂いております」

「どこか聞いてもいいですか」

「(某ベンチャー企業)です」

「うーん、スズキさんはウチよりもそっちの方が活躍できる気がするなあ」

えっ

「実は弊社に広報部ができてからまだ10年経っていないんです」「うちはまだまだ慎重に動いているからチャレンジ精神はベンチャーの方が活かせるし、適性があると思う」

これは……。

やおら垂れ込める暗雲。

なんとマジの弱点をドスドス突いていたのだ。

「結果は一応メールでご連絡しますが、うちではなくもっと自分を伸ばせる場所で活躍してほしいです」

こうして、とても優しく丁寧に落とされたのだった。

もちろん「ご活躍をお祈り」するメールはすぐに届き、その企業とは正式にさようならをしたのである。

結局、その後に受けた小さい広告代理店にコピーライターとして入社。

新入社員は私一人。面接の段階から歓待されて、むしろ面接中に内定を頂いたほどだった。捨てる神あれば拾う神あり。前述のチャレンジ精神とベンチャー向けの気質を買われたのだ。

しかし世間はそう甘くない。試行錯誤しながら先輩とともに厳しくも楽しい社会人生活を送ることを夢見ていたが、いざ入社したら激烈に浮いた。やることなす事もれなく裏目に出た。

落ち着きがなく要領が悪すぎる私と、几帳面で1日のタスク+明日の準備まで終わらせて定時退社する先輩。相性がいいわけがない。

毎日注意を受けてもミスは減らず、指摘は次第にお叱りに変わり、ついには「できなさすぎてもう何も言いたくない」とまで言わしめた。

大学時代のアルバイトでは、卒業後に正社員にならないかと何度もスカウトがかかるほどの活躍を見せていた。

大人にちやほやと褒められて完全に天狗になった私は、自分ができる人間だと思い込んでいたのだ。

まったくの別業界に飛び込むにあたって捨てなければならなかったプライドを、大事に大事に抱えたまま就職してしまい、結果ずたぼろになって3ヶ月で会社を辞めた。

退職直前に言われたとどめとなる一言。

「もっと大衆に合わせる努力をした方がいいよ」

自分の事がまったく理解できておらず、大失敗した就活と社会人デビュー。

一応今も勤め人をしているが、大衆に合わせることのできる立派な社会人になれているかはわからない。

スズキコトハ

スズキコトハ

なにかと粗忽な会社員。趣味は広告や看板を読むこと。小学生の頃ぶりに交換日記をしてみたいが相手がいない。

Reviewed by
藻(mo)

「見る目ないなあ、その会社」。
就活で失敗するたび、まわりはそう言って励ましてくれて、それはそれで嬉しありがたかったけど、じゃあ「見る目ない企業」ばっかりの社会の中で私はどこに足場を築いて生きていったらいいんだろうと、暗雲に自ら頭を突っ込んでいるような気分にもなったものだった。

御社に入社した暁には。その暁はいつ訪れるのだろうと。

それにしても、コトハさんは「マジの弱点をドスドス突いていた」と書いていたけれど、面接で滔々とそれを語れるのは、弱点というかむしろ絶対強みだろう、と思うのですが。

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