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2F/当番ノート

Weekly Movie Pamphlet Report #3

当番ノート 第62期

劇場で映画を観ることが好きだ。
もっというなら、鑑賞直後に映画パンフレットを読むことが好きだ。

自分勝手な理由で、ほんのちょっとだけ、レジ袋有料化を恨んでいる。施行前にパンフレットを買うとほとんどの場合がはじめからビニール袋に入っていた。少しだけ袋から中身を出して「お間違いありませんか?」と確認する流れ、あるいは確認すらしないこともあった。袋から取り出してはじめて全貌がわかる楽しみがあったのだ。マイクロプラスチックの問題の前では本当に些細なことではありますが……。

そういうわけで、私が手に入れた映画パンフレットのなかで「このデザインは素敵だな〜!」と思うものをいくつか紹介します。挙げるパンフレットは映画の内容に絡めたデザインもあるため、内容に触れる記述が多分に含まれます。あらかじめご了承ください。

今回は分離している/する2作品。

『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』

学校の地下室で居残りをさせられていた4人の高校生。 彼らは「ジュマンジ」という名前のソフトが入った古いゲーム機を偶然発見する。 プレイするキャラクターを選択した途端、4人は現実世界の自分とは性格も体格も性別までも違うキャラクターとなってゲームの中の世界に入り込んでしまい……という感じの内容。

まずは分離している方。デザインはハルカフェ。特別な加工がなくても意匠次第で面白くなると教えてくれた1作。
ポケットのついた紙ファイルにA5サイズの冊子と縦長のリーフレットの2点が入っている。まずパンフレットが複数に分かれていること自体がかなり珍しい。それぞれデザインが異なっており、リーフレットは地図風、小冊子は攻略本風。

リーフレットは表面がツルツル、裏面がザラザラした包装紙のような手触り・質感(※1)で、マップ折り(※2)という折り方のよってハンディサイズの地図のようになっている。開いてゆくとB2サイズほどの大きさ。表側は俳優の宣材写真や略歴など。裏側はジュマンジで出てくるマップが紙面のほとんどを占めており、その上にキャラクターの写真や映画に登場した動物たちが映画の内容と沿うようにして載っている。決して写真の見栄えがする紙ではないのだが、リーフレットを読む行為そのものが映画の登場人物たちと同じように地図を広げる動きと重なって、ちょっと感動する。

攻略本風の小冊子はコラム類がまとめられている。作品自体の情報や前作「ジュマンジ」と対比して語る座談会など、読みやすい範囲で要素がぎゅうぎゅうに詰め込まれており、小さい判型だからこそできる賑やかさである。それなりに文字数もあるので、冊子とリーフレットを合体させ、通常のパンフレットのようにA4サイズあたりで制作することも可能だったはず。それをわざわざこの形にしたところにグッとくる。アイテムとしての面白さ、パンフレットを読む行為自体の楽しさを再発見させてくれた、もしかしたら私の中でもっとも気に入っている1冊かもしれない。

ちなみに続編である「ジュマンジ/ネクスト・レベル」では、210×210ミリのしっかりした平綴じのパンフレットになっている。紙質もいいので、写真の美しさや迫力では「ネクスト・レベル」の方が断然優れているものの、デザインとしての遊び心がなくなってしまったことがすごく悲しい。

※1)おそらくスマッシュという紙の銘柄。安価なわりに紙質のアクセントが効いていて漫画書籍の帯にも多用する。
※2)蛇腹折り(※3)の後に、2つ折りや3つ折りなどを行う折り方。この作品の場合は2つ折りのあとで5山の蛇腹折り。
※3)山折り・谷折りの順に端から均等な幅で折る折り方。仕上がりが蛇の胴体のような形に見えることからこの名前で呼ばれる。



『永遠に僕のもの』

美貌の17歳の少年、カルリートス。 彼は欲しい物は何でも手に入れ、目障りな者は誰でも殺す。息をするように、ダンスを踊るように、ナチュラルに優雅に。やがて新しい学校で出会った荒々しい魅力を放つ少年、ラモンと意気投合したカルリートスは、二人で様々な犯罪に手を染めていき……という感じの内容。

次は分離する方。デザイナーは#1でも取り上げた石井勇一。
表紙・裏表紙ではまったく伝わらないと思うのだが、ざっくりあらすじにもある通りロレンソ・フェロ演じるカルリートスは美貌の持ち主であり、メインビジュアルを含め、映像のどこを切り取っても“画になる”。このポストカードサイズのパンフレットは「それなら切り取ってしまおう」がコンセプトである。本当に切り取れます。こんな仕様、他に見たことない!

厚みのあるミラーコート紙(※4)のオモテ面は写真。裏面は裏表紙と同じ赤系の特色(※5)、あるいは青系の特色の2パターンがあり、俳優インタビューやコラム、プロダクトノートなど文字がびっしり。文字のサイズはすこし小さいものの、情報は必要なぶんをきっちり抑えているし、気に入った写真があれば本体から切り離して飾ったり、定型サイズなのでいちおうポストカードとして使用することもできる。全11P。

切り取ることができるのは製本テープ(#1の「花束みたいな恋をした」ですこし触れたやつ)で綴じられているため。表紙はテープが付いているので分離ができず、肝心なところにメインビジュアルを使っていないのも納得である。

惜しむらくは切り離してしまえば元に戻らないということ。私はくっついたままにしています。ちょっともったいないので……。

※4)表面にコーティングが施され、鏡のように光って見える紙。ミラーコートは商標登録されている名前であり、厳密に言うとキャストコートという紙の一種なのだが、なぜかみんなミラーコートと呼ぶ。
※5)あらかじめ調色されたインクのこと。紙上で色を重ねるよりも発色がよく、仕上がりも安定する。再現性に優れているため企業などのコーポレートカラーなど特色が指定されている場合も多い。たとえばTwitterの青は「PANTONE 2382C」です。

くらな

くらな

ブックデザイナー。小説も書いています。

Reviewed by
いま いません

今回のピックアップは「分離している/する」2作品の映画パンフレットということで。
「今回はどんな括りなんだろう?」って毎週楽しみなんですよね〜。

そして冒頭で語られていた、レジ袋の有料化に伴うビニール袋の件。
時代の変化で消えていった誰かのちょっとした楽しみって、実はたくさんあるんでしょうね。
そういうニッチな楽しみをまとめた本とか、あったらいいなぁ。

ではでは。

まずは「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」について。
くらなさんが、最も気に入っている映画パンフレットかもしれないと語るこちらのパンフレット。
グッとくる感じ、すごくわかるな〜と思いました。

映画の内容にリンクさせて、攻略本風・地図風のデザインになっていることも、もちろん素敵ですが、
きっとサイズ感による満足感というのも重要なんでしょうね。

私の話になっちゃうんですが、昔から小さなサイズの本や雑貨などにすごく魅力を感じるんですよね。
ポイントカードサイズのZINEとかも作ったことあるし。
(平成生まれですが)小学生のときにハマった「ビックリマンシール」。
「ビックリマンシール」にグッときたのって、あんなに小さなサイズの中に二頭身なのに細かなディティールが描き込まれたイラストと断片的なストーリーが詰め込まれていることにあったんですよね。だから、同級生たちは「遊戯王」とか「デュエル・マスターズ」のカードに夢中だったんですけど、そっちには全然興味がいかなくて。

小さいからこその賑やかさ。
これを感じられるって幸せなことですね。

「別にデジタルでも読めればいいじゃん」なんて声も多いとは思うんですけど、やっぱり「意外と重たいな」「分厚いな」「手触りいいな」とか、そういうものが情報を読む気にさせたり、記憶にリンクしたりするんじゃないかな〜とか。
いろんなことを考えさせられますね。

続いて「永遠に僕のもの」について。
「分離しているっていうのはまだわかるけど、分離するってどういうことだろう…」と思っていたんですが、
なるほど!これもコンセプトが明快で素敵ですね〜!
中身がどんな感じなのか、映画の公式TwitterにアップされているGIFで確認してきました。
デザイナーでもないのに、「やられた!」って思っちゃった。笑

こういう遊び心って、ただ形だけでやられると「うーん…ユーモラスだけどさぁ…」ってなっちゃうんですけど、
「映像のどこを切り取っても画になるから、切り取れるパンフレットにしました!」っていうコンセプトをスパーン!と説明されちゃうとね。パンフレットに愛着も持てるし、オシャレでユーモラスで、どこが素晴らしいのかってことを誰かに話したくなる。

私は、欠点を欠点のまま強みに転換することをコンセプトに作品作りをしているのですが、
これは言うなれば「本の落丁」という欠点を強みに変えたような感じがあって、すごくいいなぁと思いました。

いやぁ、今回も超おもしろかったですね!
くらなさんの説明の中には専門的な用語とかも出てきますが、技術(今回で言えば、ページを切り離せる仕様とか)を褒めているだけでないから、良さが伝わるんですよね。「どうしてその技術が使用されているのか」「だからこそ、この技術が効果的」だというところまで書いてあるから。説明用の画像もわかりやすいですしね。次回も楽しみ!

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