当番ノート 第15期
覚えているのは14の夏、昼寝から目覚めた瞬間のこと。いまここで命を絶って、彼岸に渡らねばならない。衝動というよりも確信に満ちた思いで縊死の準備をしている最中に母が帰ってきて、その試みは頓挫しました。 以来つかずはなれず寄り添う希死念慮と共に生きてきました。 4年前を境にたもとを分かち、もうまみえることはないだろうと思っていたそれが、この春ふたたびわたしの元に帰ってきました。 今、それはだいぶ小さく…
当番ノート 第15期
苗が、分けつを繰り返しながら育ち、稲葉になる。 そのなかに、葉っぱのような、茎のような部分ができます。 それが、葉鞘。 「はざや」の中に、ぎっしり詰まって、眠る稲粒たち。 7月の終わり~8月のはじめ頃になると、 稲は葉を増やすのをやめ、茎のなかで穂をつくりはじめ、 お米の入れ物である籾殻(もみがら)を形成します。 やがて穂は、葉鞘から生まれでるように、外へ出て行きます。 それが、出穂。 「しゅっ…
当番ノート 第15期
それから一週間ほどの間、ぼくは彼と連絡を取ることを一切止めた。不機嫌な奥さんへの恐怖に翻弄される彼の姿を目の当たりにした後、”徹底的な習慣化してしまった奥さんの支配から解放されるために立ち向かうだけの肝っ玉、ガッツを彼は持ってるだろうか?”と何度も自問した。自分の真っ赤に煮えたぎった頭を冷やすためにも、彼から完全に離れた時間と空間がぼくには必要だった。その間にも彼からは一日に何通ものメールや留守番…
当番ノート 第15期
2ヶ月の入居期間のうち半分が過ぎ、さて折り返し地点、最終地に向けて舵取らねばと思っている矢先に、ぎっくり腰にやられました。 フラフープ教室の先生でもあるのに。 しかも先週半ばにほぼ裸でのショウがあったためか風邪も引きまして。そして迎えた週末の現場は仙人が住んでいそうな山奥のキャンプ場で、この時期ですから雨降ったりやんだりで、間断無いくしゃみに激震の走る腰。 そんなこんなで東京帰ってきまして、先週の…
当番ノート 第15期
六月の朝。 田んぼで、蜻蛉が羽化する。 羽根に、朝露。 一秒一秒、スローモーションのように広がる、世にも美しい羽根。 細胞からしたたるような、まばゆい水滴が乾くまで、彼は飛び立たない。 稲の葉を宿り木に、ガラス細工みたいな羽根を広げ、数時間、待つ。 息を止めて そっと近づき、自然が生み出した ‘宝石’ のような生物に見惚れる。 ちょうど、蜻蛉が生まれる頃、田に、草が生えてくる。 上の写真、手でつ…
当番ノート 第15期
重たげな八重桜も咲き終わった五月の中頃、彼が箱根で学会があるからその帰りにどこかで待ち合わせをして旅館で温泉を楽しんでみないか、と言って来た。そういった恋人同士での温泉旅行など学生時代から今まで経験もしたことがなかったら、それこそ30代にして初めてのランデブーである。箱根湯本の駅で彼が現れるのを、次から次へと通り過ぎる人々の流れの中で踏みとどまる様にして待っている間も、人里離れた少し鄙びた山間を流…
当番ノート 第15期
昨年の末頃、「 考える人」という季刊誌のインタビューを受けました。テーマは『日本の「はたらく」』。「今の仕事を天職だと思いますか?」と尋ねられ、天職なんてない、わたしはただただラッキーだっただけ、というような答えをしたかと記憶しています。 なすべきことをただなすだけ。先週のエントリーはわたしが直接見知らない方々のもとにも届いたようで、きっとその方たちもご自分がこれと思えるものに打ち込んでおられるだ…
当番ノート 第15期
田植えが終わって、まず繁殖するのが、微生物と、緑藻です。 はなれて見ると、田んぼは、まるで水鏡のよう。 空が映って、美しい。 近づいて よく見ると、水の中では、ミジンコたち微生物が大発生。 微生物たちの動きは、とてもユーモラス。 飛んだり跳ねたり泳いだり。 意思があるよう。 彼らも、楽しそうに生きてるなぁ…と作業の手を止めて、見つめてしまう。 写真右下には、タニシやモノアラガイもいます。 農薬を控…
当番ノート 第15期
ぼくが子供の頃、所謂上級国家公務員だった父と、その父の影にぴたっと寄り添う母、そして父の社会の中での安定した肩書きと地位に守られて綿雲の中にいるかの様にフンワリと心地良く、世の中の醜い場面を見ることなく守られたバブルの中で暮らしていた。当時の父には直属の部下が数多くいて、父の一声で皆が集まって来た。そしてその奥様達も母の元に慕って常に集って来る様な環境で、ぼくは世の中の仕組みがどうなっているのか、…
当番ノート 第15期
フープとともに踊ることで外界と接続できる、前回わたしは自身の身体感覚についてそう書きました。しかもその外界とつながる手段を、さいわいにも生業とすることができています。 一生続けたいと思えることに喜びをもって取り組むことができ、それを社会に受け入れてもらえていて、決して豊かではないながら口に糊することができている。大変に幸運でありがたいことです。 しかし、わたしの仕事というのはやはり特殊で、ひとの生…
当番ノート 第15期
五月、しっかり育った苗とともに、いよいよ田植えのとき。 うちでは、まず、田植え機という機械で植えていきます。 そのあと、人が田んぼに入り、植えたばかりの苗の間を歩きながら、手で植えていく。 苗が抜けてる所を補ったり、整えたり。 本数の少ないところに足したり、激しい雨風で流れた苗を拾ったり。 田んぼの中を、ひたすら歩きながら、じっと苗をみつめながら、手で植えていく。 それが、刺し苗。 七歳(小2)の…
当番ノート 第15期
2003年の10月のある日、ぼくは会社の同僚と仕事帰りに東京駅近くの丸の内ビルヂングの中にある焼き鳥屋で、灰色のスーツと白のワイシャツを着た無個性な会社員達がとりとめもなく酒を飲み干しながら上司への愚痴や小言を繰り返しぼやいたり、というシチュエーションで飲みニケーション中だった。その当時のぼくはアメリカのボストンにある大学院でMBA(専門は国際銀行論)を取得して帰国後、再び何事もなかったように以前…