当番ノート 第41期
東京を出て京都に住むと決めたとき、なかでも嵐山という場所を選んだのは、ほとんど衝動的な選択だったように思う。 転職予定だった勤め先へのアクセスがどうかとか、想定していた家賃の範囲で希望するような生活ができそうかとか、チェックポイントはいくつかあった。それでも、その頃のわたしはとにかく、長年生活した場所から逃げてゆっくり休むことを望んでいた。 最近ようやく正直に話せるようになってきたけれど、引っ越す…
当番ノート 第40期
徳川三代目の将軍である家光期に発令されたとされる慶安御触書(けいあんのおふれがき)には、「百姓は財が余らぬよう、不足しないよう、死なぬよう、生かさぬように」といった農民統制の指針が32か条にわたり記されています。農民の意識を政治へと向けないための、いわゆる愚民政策として発布されたこの触書は、少なからず当時の農民たちの生活に影響を与えたといわれます。そのような規制下でも禁止されている絹製の下着を着用…
当番ノート 第40期
正直に申し上げます。わたくし、お部屋をじょうずに片付けられません。 部屋は人となりを表すと申しますから、誠に遺憾ながら人となりとやらがトッチラカリのシッチャカメッチャカであることは、日々につけ痛感しておるところです。 こんまり先生にお世話になろうとは一度ならず思いました。ときめくか、ときめかざるか、それが問題ですよね。ええ仰ることはわかります。しかしながら生まれてこのかた整ったお部屋で暮らしたため…
当番ノート 第40期
あそび【遊び】 ①遊ぶこと。遊戯。 ②猟や音楽のなぐさみ。 ③遊興。特に、酒色や賭博をいう。 ④あそびめ。うかれめ。遊女。 ⑤仕事や勉強の合い間。 ⑥(文学・芸術の理念として) 人生から遊離した美の世界を求めること。 ⑦気持のゆとり、余裕。 ⑧機械などの部材間・部品間に設ける隙間。 あそ・ぶ【遊ぶ】 日常的な生活から心身を解放し、 別天地に身をゆだねる意。 神事に端を発し、 それに伴う音楽・舞踊…
当番ノート 第40期
「使えば使うほど味が出る〜○○」なんて、意味がわからなかった。 だって新品のバッグのほうがかわいいし、 「味」ってどのへんのことを言うんだろう、なんて思っていた学生の頃。 そんなわたしがはじめて「使えば使うほど〜」なものを買ったのは、新卒のときだった。 無印の、やさしいキャメルブラウンの色をした革の名刺入れだ。 わたしは当時、本社とは別のオフィスで働いていた。 それもあり、入社してからお客さまにお…
当番ノート 第40期
窓を開けると、誰かが洗濯機を回す音が聞こえた。秋の風が涼しげに通り抜けていく。 いく層にも重なった生活音。同じアパートメントに住んではいても、顔も知らない、声も分からない。近くにいながら、全く別な時間を過ごしている。名前も知らない息遣いの中にいる。 初めてこの部屋に来た時、自分じゃない何かになれるつもりでいた。私の思い描く、私を超えた誰か。 いつも笑っていて、楽しいことに溢れていて、悲しいことは吹…
当番ノート 第40期
未来へ向けた「土台」として笠原地区における民俗芸能を提示し、今年度の奥八女芸農学校は終わりました。民俗芸能と芸術とを行き来することで日常を見つめるに、手応えを得られた仕事となりました。仕事によって今後の指針が得られることは喜びです。今回コーディネートを担っていただいた山村塾や九州大学ソーシャルアートラボの方々、そしてロシアと香港からのクリエーションメンバーにも恵まれました。ありがたい話です。 たと…
当番ノート 第40期
横浜美術館で「モネ、それからの100年」展を見た。 モネさんのこと老若男女大大大好きなの、すごくよくわかる。 前に赤瀬川原平が「描きたい気持ち」をふさふさした犬コロにたとえた話をしましたが、モネさんはまさにこの犬コロを心ゆくまで可愛がって、毎日その子の成長の記録をうれしそうに絵画に刻んでいる感じ。 歳をとるにつれだんだん目が見えなくなって怖くなって、でも犬コロは相変わらず度を超えたカワイさで仕方が…
当番ノート 第40期
はや・さ【早さ・速さ】 ①動きがはやいこと。またその度合い。 ②時刻・時期が早いこと。 テンポ【tempo】 (時間の意) ①楽曲が演奏される速度。 ②速さ。速度。 -『広辞苑 第七版』より抜粋 - 幼い頃の私はお風呂に入ることが苦手だった。 ご飯を食べた後はそのまま横になって 意識の底へと沈んでいくほうが私には心地よくて、 早くお風呂に入るようにと何度言われても どうしてもお風呂に向かう気にはな…
当番ノート 第40期
きっとこの先ずっと超えられない絵がある。 今の実家に移る前の古いアパートの一室にある父の部屋。 わたしが幼い頃から、そこは研究室みたいでもあり、図書室みたいでもあった。 大量の分厚い本が本棚から溢れ、まだ箱みたいな奥行きの分厚いパソコンが鎮座する。 幼いわたしはいつもワクワクくして父の部屋をのぞいた。 父の本をかたっぱしから手にとっては、漢字も読めないのに読みたくて四苦八苦する。 難しい本ばかりな…
当番ノート 第40期
あまり胸を張って言えることではないけれど、生きているだけで褒められたいと思って生きている。 朝起きること、ご飯を食べること。花の水をかえて、枯れたら新しい花を買ってくる。またご飯を食べ、皿を洗い、片付ける。部屋を掃除する。お風呂に入り、そして眠る。 穏やかな毎日を過ごすのに、あまりにもたくさんの物事をやり遂げて、積み重ねていかなければいけない。それはやっぱり、褒められるべきなんじゃないかな、と思う…
当番ノート 第40期
奥八女は笠原地区に民俗芸能を立ち上げるーー。地元の方たちへのお披露目会を翌日に控え、いまはロシア、香港からの3人とその稽古に勤しんでいます。そんな面々で、なにをもって笠原の芸能とするのか/なるのか? 農業をはじめとするこの1ヶ月弱の滞在から得た所作やこの土地の言語性から構成しています。 多くは林業と炭焼き、また水田と茶畑を生業とする笠原地区。特に6年前の九州北部豪雨では甚大な山崩れが起こり、またそ…