表題:暫く立ち止まり、お漏らしをする人
最近はというと、自分の圧倒的な能力不足によりいつも半ベソをかいて過ごしています。何をするにも目にうっすらと涙が滲んできます。しかし脳や体は健康と思います。健やかで、半ベソをかいている生活を送っています。後はビタミンCのサプリメントを飲んでいたのですが、一切飲むのをやめました。かなり健康です。
また今月も娘との話をただ書いてしまいました。すみません。毎日が娘、娘、娘、妻、娘…..ほんとにそればっかりです。しかもみんな四六時中僕に話しかけます。そんな時、僕は横になって泉にて暖かくて養分を含んだ時には金色、時には発光するエメラルドグリーンのミントの雨(とにかく暖かいし糖分を含んでいると思うけども決してベトつかない)が降り注ぐ想像をし、体力を回復させます。でも体力や精神力を使うような事は何もしていません。使う予定もありません。そういえば最近テレビか何かで人間は何もしなくても疲れるという事を学びました。でも何かしても疲れるという事を学びました。そして疲れた時は横になって休んだ方がいいと学びました。ずっと横になって何もしてなくても健康に良くないと学びました。ではよろしくお願いします!
お山の話をしてよ、それと身にあまる光栄
<1日目>
夜10時ごろ、電気を消して妻と娘と1枚の布団に川の字になって寝る。すると娘が
「トウチャン、オハナシシテヨゥ」
と言う。娘が僕の隣、布団の真ん中にいて、妻は疲れているのか娘と僕に背を向けて寝に入っている模様。
仕方ないので山の話をした。
「ある日父ちゃん、お父ちゃんは、山の上にいて、……」
「トウチャン!おウチがワカらなくナッタノ?」
「……うん。たぶんおうちが分からなくなった。そうか、そうだった….よく分かったネェ~~!すごいぞ!父ちゃんはおうちが分からなくなったんだった!その事をすっかりワスれていたよ!忘れていたよ!ほんとに良く分かったねえ!」
「それで、とにかくそれで着ていたロンT、つまり服であって袖が長いタイプの少し茶色く汚れた白いシャツなんだけど、それをお尻の下に敷いて、なんというかシャツの袖の部分なんだけど、腕が入るところね。それを引っ張って持って、細い道をスルスルと滑って下って行ってさあ….」
「トウチャン、タノシソウネエ」
「うん、でも怖くて、なんか道が細くてガードレールもなくて急なカーブとかあって、落ちないかな、落ちないかなあ!って心配してたんだけど何でか落ちずに滑っていってね。」
「ウンウン、ウンウンウン、ヘェー、ホントー」
「おいおいすごいな!相槌がそんなにうまくなったんだ!すごいよ!相槌をうってくれてありがとう!とにかくそれで意外にもカーブとかで落ちなくて、そのまま下って行くと突然山の中なのに開けたところに着いたんだ。」
「そこは山の中なのに何でかとっても広くて、見渡す限り背の低い果物と葉っぱのついてない木がたくさん生えているところで….」
「オーオキイ木?イーパイアルノ?」
「大きくない、背の低い木がたくさんある」
「イ~ッパイリンゴ?」
「いや、果物はついてないんだ。葉っぱもついてない。果物も、葉っぱもついてない背の低くて黒い木が見渡す限りあるんだよ。」
「天気は曇りなんだけど、すごく明るい色をした曇りで、すごい明るかった。黄色い灰色みたいな。」
「アメフル?ザーザー?ザーザーザーザーザー……ザーザーザーザー!じゃあじゃあ」
「いや、雨は降らない。明るい曇りなんだ。曇りだけど明るい。」
「ソッカーホントー」
「それで明るくて曇りで果物と葉っぱのついてない背の低い黒い木が見渡す限りあってさ、父ちゃんは何でか気づいたら自転車に乗ってて、なんか広くて明るいところだな~って自転車をこいでると、突然そのとっても広いところにすごく狭いお花畑があってね。だいたいこの部屋くらいの大きさかな。それでなんか青いカッパを着た細い男達がその花畑の上にいて、髪型は坊主だったりおかっぱだったりする痩せた男が青いカッパみたいな作業着を着てて10人くらいいて」
「ヤバイネェ~」
「おお!そうだよ!すごくヤバイんだ!良く分かったなあ!ヤバイって言えるの!?ほんとにすごい!ほんとに父ちゃんもそれがヤバイと思ったんだよ」
「それでそのヤバくて青いカッパを着た男達はそこでお花を育てて一緒にそこに住んでいるみたいだった。お花畑の中にボロボロの小屋とかドラム缶とかあったと思う」
「ウンウンウン、ウンウン、ヘェ~ホントー」
「お返事がとっても上手だなあ!それでそのガリガリの男達の住んでる花畑を自転車に乗りながら通り過ぎて、そうするとなんか左の手に針金虫みたいな細い黒い虫がシューんと飛んできて、父ちゃんの左手にどんどん食い込んで入っちゃったんだ。..」
「ネエトウチャン痛イノ?ネエ?」
「すごく痛いよー。でもやっぱり細いから死ぬほど痛くはないかなあ。とにかく怖くて、気持ちが悪かった。」
「虫ナノ?」
「うん。針金みたいな虫で、なんというか凄い硬くて細くて黒い虫だな。めっちゃ怖いよ。」
「だから怖くて父ちゃん救急車来ないかなー病院行きたいなーって自転車こいでたら、なんかすごい都合良く救急車が来てね、気づいたら病院で手を診てもらってて。」
「なんかメガネのお婆さんが手を診てなんの病気とか色々言ってくれるんだけどさあ、父ちゃんはこの先生は何言ってるんだろう、ぜーんぜん違う、全然間違ってる。となんでか思って」
「マチガッテタ」
「そう!このお婆さん先生は何を間違った事を言ってるんだろう?全然違うなあと思っていたらね」
「そしたらなんか手の中の針金虫がどんどん増えて、黒い線が手にどんどん増えて行って、手がどんどんと黒くなって、うわーっと思ったらね」
「なんというか薄いプラスチックの容器みたいな四角いのと、球、丸、玉だなあ、とにかく球がその四角いのに組み合わさったとにかく薄いプラスチック製のそんな四角と複数の球(きゅう)の容器かな?そんなのが出てきたんだよ!」
「ハッハッハッハッ!ウィィー!ヒャッヒャ!ギィ~!トウチャン、コワイネェー!」
「その球と四角の容器はどんどん膨らんでるみたいで、うわーって思ってびっくりして!そしたら目が覚めた。夢だったんだ。本当良かったよ。」
「….トウチャン、モウ一回オハナシシテ」
僕はもう一回同じ話をした。娘がこの話をすごく気に入ってくれてものすごく嬉しい。こんな話で喜んでくれるなんて予想外だった。誰よりも話を聞いてくれる。その後も話が終わる度にもう一回となるので、3回くらいは繰り返した。凄く疲れていた。自分は知らない間に眠っていた。耳元で娘がオハナシをシテと言ってた気がする。
<2日目>
昨日同様、夜10時ごろ、電気を消して妻と娘と1枚の布団に川の字になって寝る。すると娘が
「トウチャン、お山のハナシシテ」
と言った。妻は昨日と同じく無言で、僕と娘に背を向け、既に目を閉じているようだった。妻は家事とか、日中の活動でとても疲れている。いつもは自分が先に目を閉じてて、妻が娘になんか優しく話して寝てるのに、ここ2日間は妻の方が先に目を閉じていた。とても珍しい。
さて、
「ある日、父ちゃんはなんかお山の上にいたような気がして」
「オウチワカラナクナッチャッタンダヨネェ」
「そうそう、それでなんだっけ袖の長いTシャツを尻に敷いて」
「シューってシタンダヨネェ」「ウデヲモッテタンダヨネェ」
「すごいね覚えているんだね。それで細い道を」
「オチナカッタンダヨネェ」
「そう。カーブでなぜか落ちなかった」
「自転車乗ってたの?」
「うん。なんか曇りだけど明るいすごい広いところについて自転車に乗ってた」
「キイロヨネェ」
「うん。黄色い灰色ね」
「イ〜ッパイリンゴト葉っぱ」
「うん。リンゴと葉っぱの付いていない背の低い木が見渡す限りあったんだよ」
「そこに何かこの部屋くらいの花畑で10数人の坊主とおかっぱの」
「カッパキテタンダヨネ。アオイ」
「よく覚えているなあその通り青いカッパ着ててね」
「ヤバァイネェ〜」「ヤバァイ」
「うんなんかヤバい雰囲気で通り過ぎたら」
「ハリガネ」「クロイ」
「そうそう針金のような黒い虫が手に食い込んで」
「トウチャンビョウインイッタノ?」
「そうそうなんか都合よく救急車が来て病院に行ってさあ」
「ゼーンゼンチガウオモッタ?」
「うんメガネのおばあさんが診察してくれて何か色々言ってくれるけど全然違うな何言ってるのかなと思って」
「マーックロナッチャッタ」
「そうだよ黒い線が枝分かれのように増えて真っ黒になりそうでそしたら薄い膜みたいなプラスチックの容器みたいな四角と球(きゅう)が何個か組み合わさった形のが手から出てきて」
「ウワーナッタンダヨネェ」
「うんすごいウワーってなった。」
「….トウチャンもう一回オハナシシテ」
僕はこの日も後2、3回同じ話をして疲れて寝たと思う。でもほんとにすごい!すごすぎる!あらすじを既に覚えている!ほんとに娘は天才かと思った。とにかく嬉しかった気がする。
<3日目>
朝の10時ごろ、娘はまたも言った。
「トウチャン、お山の話シテヨウ」
妻は洗濯物を集めてこれから洗濯機に衣服を入れようとしていた。
「うーんしょうがないなあ。トウチャンは」
「Tシャツで滑ったんでしょ、それで落ちなくて自転車乗ったんでしょ、何かオカッパのヤバい人いたんでしょ」
びっくりした!!それは妻の声だった!!何という事だ!昨日まで無言で寝てるかと思った妻が実は話を聞いてて、妻の声は明らかに何か馬鹿にしたウンザリしながら僕を嘲るような声だったがまさか話の内容まで覚えてくれているなんて!こんなに嬉しくて光栄な事は滅多にないよ!明らかにお山の話を聞いてないと思っていた妻が、まさか聞いてくれていたなんて。もう本当に本当に嬉しくて、とても上機嫌で笑いながら「何で何も反応してくれなかったの!?」「てっきり何も喋らないから寝てるものかと思ったよ!」「全然反応してくれないんだもん」「オカッパの人だけじゃなくて坊主の人もいて10人くらいで広くて葉っぱとか何もついてない背の低い木がたくさんあるところの狭い花畑にいたんだよ!」とか顔が引きつるほど笑いながら妻に言った。妻は2、3個ちょっと僕を馬鹿にした面白い事を言って返してくれたと思う。
本当にびっくりするくらい最高に嬉しい出来事だった。まさか聞いていたなんて。娘と同じく先にあらすじを言ってくれるなんて。その後妻は洗濯をやり、娘はブロックのおもちゃでレジを作ってと言った。僕はブロックでレジを作った。