妻が久しぶりに劇場の舞台に立つことになり、初日の公演を観に行ってきました。場所は新宿二丁目・タイニイアリス。10年ぶりに訪れるこの古い劇場は間も無く30余年に及ぶ歴史に幕を降ろすそうです。
お芝居の世界には、「初日乾杯」というのがあって、初日の舞台が終わった後、出演者と観客一同に飲食が振る舞われます。
無事初日の芝居を終えた後の演者さんたちの晴れがましい表情、それを受け止めるお客様が一体となった独特の雰囲気がとても好きです。ぼくたち写真ギャラリーの世界にもオープニングパーティーがあります。近頃は、初日に限らず会期の終わり頃に開催するクロージングパーティーや、週末に開催することもあって、その形態も多岐に渡ってきましたが、昔はパーティーは、たいてい初日にあるものでした。
ギャラリーのオープニングパーティーは、特別な事情がない限りは招待状などなくても誰でも入ることが出来ます。事情を知らずに入ってきたお客様であっても、来てくださったお客様にお飲み物をお勧めし、作家さんをご紹介したり、作家さんが簡単に自分の作品について説明を差し上げたりする雰囲気が良いものです。
大阪での生活を終えて、東京に戻って来たばかりの頃、ぼくはこのオープニングパーティーは誰が入っても良いというシステムを利用して色々な人に会いに行きました。東京で写真をやりたいと思っていた時、どのように自分が写真をやっているということを知らしめれば良いのか、よくわかりませんでした。そこで思いついたのが、パーティーがあるかどうかもわからないけれど、「ぴあ」などで見つけた興味のある展覧会には必ず初日の夕方に出かける。ということでした。大抵の場合パーティーはあり、作家さんはそこにいました。毎週毎週どこかのギャラリーのパーティーを目指してギャラリーを廻りました。最初の頃は、会場に入って飲み物を出されたのは良いが、どうしていいのかもわからず、展示を見た後に会場の隅っこでただ立っているしかありませんでした。ひと月、またひと月と時間が経過すると、会場を見回すと時々別の会場でお見かけする人もいたりして、ちょっとは会話も続くようになる。そのうち図々しくも、二次会に誘われると、こちらもかなりヒマを持て余していたこともあるし、そのままついていくようになります。「最近よく見かけるけど、お前は誰だ?」となる。よくよく見ていると、ぼくのような感じであちこちうろついていた若い作家も全くいないわけではありませんでした。
写真の世界に足を踏み入れた直後のぼくは、こんな感じでじわじわと、自分が写真をやっている、これからもやりたいのだ、ということを伝えるというのか、開かない扉をこじ開けようとしていたのでした。
最近は、自分で企画する写真展でもオープニングパーティーをやらないことも増えてきました。よそのパーティーにお邪魔しても、作家の関係者ばかりでぼそぼそと話し込んでいるようなものも多かったり、なんだか楽しくないなぁと思ってすぐに引き返してしまうものも多くなりました。他方、ルーニィのお客様でも、オープニングパーティーは、作家さんとそれなりの関係がないと行ってはいけないもの、というイメージもあるらしく、わざと日をずらして来てくださる方もいます。
今一度、オープニングパーティーのあり方を見直したい、かつて、ぼくのような人間を暖かく迎え入れてくれたように、これから写真の扉を開けようとしているまだ見ぬ人たちへ向けて、展覧会の初日の夜というものが、もっとみなさんに楽しく感じられるような場としてもう一度作り直してみたい。
劇場の初日乾杯のあと、さらに新宿三丁目の居酒屋で飲みなおしながら思ったことでした。