赤坂・東京写真文化館の設立の頃、当初は、ウェストンとアダムスの作品だけを展示すれば良いギャラリーとして構想されていました。少し遅れてその話に加わったぼくとしては、それは面白くない、どうせやるなら、評価のガチガチに定まったものを扱うからこそ、評価の定まっていないものを紹介する場を設けるべきだ、ということで、25坪程の[STAGE]という貸し/企画のスペースを設けることが決まりました。海外の著名な作品を目当てに来場されるお客様に、いわば自動的に国内のそれも、主に東京で活動する世間では名前も知られていないような現代作家の作品も同時に観る。そうやって少しづつ自分たちと同じ場所で同じ空気を吸ってモノ作りをしている人たちのことを気に掛けてくれれば、写真表現を取り巻く環境はもっと豊かなものになるだろう、と考えていました。大御所から新進の作家まで広くカバーしていく、という考え方は今のギャラリーでも同じで、それは、ぼくがギャラリーの仕事につく最初から考えていることなのです。
小さいながらも20年近く写真ギャラリーの仕事をしていると、年に数回くらい自分もギャラリーを開業したいのだが、という相談を受けます。
最近も年末年始にかけて、2件くらい相談がありました。
以前は、不動産をお持ちで、遊んでいるスペースを利用して、ギャラリーなど出来ないだろうか、ということが殆どでしたが、近頃は商業的な写真ギャラリーを考えている、という方が出てきました。
そのご相談の結論として大抵の場合、「やめた方が良い」と申し上げます。
ギャラリーを開業したい、というのは大いに結構なことだと思います。しかしどんな作家さんを扱いたいのか、と聞くと、殆どの場合、それはまだ決まっていないと言います。せめて、毎月一人で1年分、つまりやりたいと思う作家さんの名前を12名くらいあげる。それも、同じ地域で他が取り扱っていない作家さんで。ぼくに誰を扱いたいのか、と聞かれて即座にスラスラと答えられないと、キビシイと思います。
他方、商業的に成り立つには、などとぼくに相談をしている時点で、無理です。事業を立上げる人というのは、利益がこのくらいうまれそうだ、という予測が立つから開業するのであって、何を収益にしているのかを人に聞きにくる時点で、そのアイデアが思いついていないのですから、難しいと思うのです。ぼくたちも人に胸をはれるほど、儲かってはいないけれど、立上げる前から採算については、当然のことながら色々考えましたし、だいたい、世の中に必要とされていない芸術的な文脈で商売するのは、普通にやっているだけでは無理で、そこに付け加える何かが絶対に必要です。
自分たちのやりたいことを追いかけながら、気がつけばルーニィを立ち上げて10年目に入りました。10年ひとむかしと言うけれど、扱いたいと思う作家さんもその時々で随分変わってきました。以前は同年代の作家さんを中心に紹介したくて、スケジュールを組み立てていました。かつては、「篠原君のところは、若い作家が多い」と言われたものです。今や皆40歳を過ぎて、そんなに若くもありません。最近の興味は自分が写真をやり出した頃に、あこがれていた作家さんの作品を小さいながらもキチンと展示することに力を入れはじめています。具体的には70歳前後の作家さんにお声掛けをし始めているのです。最近雑誌やウェブでは殆ど作品もお名前も見かけないが、息の長い仕事をされている方が沢山いらっしゃいます。ぼくにとっては、宝の山に見えるのです。
それにつけても、同年代の作家さんと、憧れの作家さんとの年齢差がやや縮まっていることに、時の流れを感じずにはいられないのであります。