少し前に、都内である美術展を鑑賞した後に展覧会の感想を座談形式で記事にするお仕事がありまして、とても新鮮な体験で異なるジャンルを扱う方を交えての対話からこちらも得るものが多い機会をいただきました。収録される座談の部分は終わり、レコーダーも止まった後に、企画立案に関わる者同士、昨今の展覧会の広報宣伝の難しさについての話になりました。展覧会の観客動員数というのは、ぼくが主宰しているような小規模な会場においては、何人きたか?というのを目的の第一義に置くと、もったいないというか、他にも作品の発表の機会には、いろいろなものが手に入ることがありますから、あまりそこ1点にこだわらないほうが良いとは思います。ただしそれも程度問題で、展覧会の成果を推し量る物差しなことは間違いなく、企画展であれば、来場者数は作品の売り上げに関係してきますし、ミニマムコミュニケーションであっても、来場者数ゼロでは、表現メディアとしての用をなしていないわけですから、いかに展覧会のことを周知させるかは、展覧会を取り仕切るぼくたちの仕事では重要な仕事です。いや、必死にやっています。この作業、これといって決定的かつ効率良い手法があるわけではなく(もちろん、潤沢な宣伝費があれば別です)愚直に思いつく限りのことをやるしかない、ということです。先日の座談のお相手の方は、会場の様子をスマートフォンで自由に撮影させて、お客様がインスタグラムにアップされることを奨励したりとかそういうこともされていると聞き少し驚きました。
展覧会の紹介記事では開催前に掲載される「プレビュー」と「レビュー」と呼ばれる展覧会評に分かれますが、とりわけ来場者の動員に関わるのはプレビュー記事です。昔は写真や美術の専門誌以外でも、アートページを持っている媒体がたくさんありましたが、いまはほとんど見かけなくなりました。
かつて、例えば女性向けのファッション系の雑誌でも、次号の編集会議でプレゼンするので、プレスリリース以外にもう少し詳しい資料を出して欲しいとか、そういうリクエストがありましたし、会期の長い展覧会ですと、必ずオープニングに顔を出して自分の目で展覧会を見て、記事にしたいと思ったら、作家さんのインタビューを申し込んだり、ディレクターであるぼくに、取材を申し込んできたりということが普通にありました。紙媒体に変わって、いくつかのネットメディアがその役目になっていると思われるかもしれませんが、実際にはこちらが送った資料のテキストをコピペしておしまいで、ぼくが経験している限りプロの仕事を感じさせるネット記事には、ほとんど出会ったことがありません。
何より決定的に違うのは、かつてはアート情報ページの担当者が、記事にしたい(それが1/4頁ほどのささやかなものでも)と思うから物事が動き、人目に触れる情報記事になるのに対し、いまでは、情報を流したいという、ぼくたちの需要に応える単なる受け皿か伝言板のようにしか映らないところかと思います。このような雰囲気になってずいぶん経ちます。もともと一般誌のアートページは、それほど大きな扱いではなく、若い編集者や駆け出しのライターが手がける仕事だったのかもしれません。しかし、20余年この仕事に関わり出会ってきた取材記者との出会いを思い返してみると、当時丁寧に取材をして、手抜きのない記事を書いていたライターさんは、いまでも、別のジャンルで相応の責任ある立場でメディアに関わっているな、と感じています。
現状では、仕事にならないから、こういったものを手がける人も少ないのだろうと思います。ネットでも紙でもどちらでも良いのですが、送られてきた情報をきちんと精査して、「今週のおすすめ!」というアート展の記事がジャンルを問わず横断的に網羅された媒体の登場を心待ちにしている人は案外多いと思います。写真学校で学んでいる人の大半がカメラマン志望で、現実には仕事量に対してカメラマンの供給過剰によって、アルバイトで食い繋いでいる若い卵も多いのですが、専門教育を受けた若者たちが、アートジャーナリストとして、取材し、原稿を書き、写真も撮ることをビジネスに変えてくれたらいいのにと切に思います。これも、写真の仕事だと思うのです。