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3F/長期滞在者&more

フィルム

長期滞在者

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若い人たちの間でフィルムカメラが流行り始めているというニュースは聞いたことがあるが、この間やらせてもらった写真学生のコンペの審査会場にならんだ作品に、フィルムで制作したと思われるものが、思った以上に目立っていました。
改めて若い人たちが時代の雰囲気から即座に反応するスピードを強く感じました。

デジタル特有のシャープな画像と、明瞭な色彩ではなく、彼らからすると、フィルム特有のどこか不完全な仕上がりが、心を捉えているということなのかと思います。

たしかに、デジタルに比べると、均一な仕上りを求めるには、撮影〜現像〜焼き付けに至るまでのプロセスの随所に不安定な要因が数多く隠れています。

しかし、アナログプロセスでも、きちんとコントロール出来れば素晴らしいクオリティーの画質が得られます。
そういった写真は、かつては、街のギャラリーでもごく普通に見ることができましたが、今や美術館でも行って、「観るぞ!」という強い意気込み無しでは、なかなか拝めなくなりました。
アナログプロセスは本来、不完全な仕上がりになるものではありません。

フィルムで育った40代以上の写真家たちは、その不安定要因を限りなく自分でコントロールできるようにするために、訓練を重ねてきました。つまり不完全さを極限まで潰していくということです。

今の若者たちでもそういう努力を重ねてわずか数年のうちに、素晴らしいプリントを完成させている人はいると思いますし、今年の卒業制作展でもそのような作品に出会うこともありましたが、昨今のミニブームでフィルムの魅力と謳われている点は、ぼくたちのアナログ観とは、ちょっと違うのだろうな、と思っています。不安定要因を消す方向で努力するのではなく、その不完全でコントロール不能な領域をそのまま受け入れ、その世界で遊ぶ、ということなのではないかと感じています。
完全なかたちを目指さない、という理論が彼らに本当にあるのかどうかは、もう少しコミュニケーションを深めていかないと、ぼくには結論が出せそうにありませんが、少なくともぼくが思っている写真に対する考え方とは、大きく違うことは間違いないでしょう。

だからこそ、作家さんもそれを受け止めるぼくたちも、今はなぜフィルムを使うのか、その理由をお互いに確かめた方がいいのかもしれません。でないと、教育の現場では間違ったゴールへ導きかねないし、作品を扱う側も、お客様に、作家さんの考えを届ける際に正確さを欠くことになってしまいます。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

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