バーカウンターのなかにいると、常連さんから一見さんまで、日々、否応がなしに、さまざなな人と接することなる。
すると、お酒の注文の仕方や飲み方、好みのカクテル、どんな人を連れてくるのか、などの店内の立ち振舞が、その人の趣味嗜好だったり、人間性を知るためのヒントだと気づく。自分のなかだけの法則が見つかる。
例えば、バーカウンターに一人で座って、スコッチなどで通なウィスキーを、ストレートで飲むような女性は、「ああ、この人モテないだろうな」と思ってしまう。その人がどんなに美女であってもだ。
女性が一人でカウンターに座っていると、声をかけようとする男性はそこそいる(実のところ、へんな絡みをしてくるお客さんを阻止するように心がけてはいたりもする)(もちろん、バーの性質によるけども)。
そうやって、声をかけようとする男性に壁をつくるのが、スコッチウィスキー/ストレートなのである。どうだろう、カシスオレンジやカルアミルク、モヒートを飲まんとする女性と比べたときの重厚感は。
「俺がお酒の飲み方教えてやるよ」系の男性アウト、「お酒弱くてちょい酔ってそうな女性に声かけたい」系の男性もアウト、見えないバリアを張ってる感じにみえる。そう、近寄るための”隙がない”女性なのだ、一人カウンターでそういうものを上品に飲んでいる人というのは。
そうやって隙がない割には、実は、心のどこかで”声をかけられ待ち”なことはそこそこあるわけで、それだったら、飲むもの、飲み方をちょこっと変える、すこしだけでも甘えてみればいいのに、と感じることはあった。
雑感だけど、こういうタイプの人は、経営者だったり部下を抱えているカッコいい女性に多かった気もする。ずっと背筋をピンとしている人ほど、バーはという空間ではゆるんでほしかったりもするんだけど。
…というように、何をどう飲むか、は「カクテル」が、その人を読み解くための一つに記号になることがある。ただ実は、カクテルだけじゃなくて、記号はたくさんある。
「服装」や「化粧」、「しゃべり方」に「言葉のなまり(方言)」など、その人の性質/特徴をつかむためにヒントとなるものは多い。そういった記号には、その人に関するストーリーや情報や含まれているので、バーテンダーにとっては大事な記号となる。
そういう意味では、お客さんを観察する(見ていないようで、ちゃんと見ている)ことが、技量として必要になってくる。ただこれは、バーテンダーという職業に限らず、プロフェッショナルという人たちの基礎能力なのかもしれない。
記号を読み解き、相手を知ろうとすることは、相手の求めているものや好みなどを察して、よりよいサービスを提供することにつながっていく。「1+1=2」のように決まりきった答えがあるわけではない仕事であれば、尚更そうだろう。
人と向き合う仕事をするには、相手のことを知ろうとする、好きになるための記号を見つける、おもしろがることが大事なんだなあ、とカウンターに入るたびに感じる。
「例えば」とモテない女の人の話をしてしまったが、反対に、バーカウンターに座ったときモテないだろうなぁ、と感じる男の人もいる。というか、そういう人のほうが多いのではないだろうか。
だから、女性の場合、気になる人がいたら、カウンターのあるバーに飲みに行ったときの振る舞い方をチェックするのはいいかもしれない。
飲むところって、不思議なことに、人間性が漏れでちゃうんだよなあ。