長期滞在者
仕事の移動中に昼食を摂る時間がなかったのでコンビニエンスストアでおにぎりを買った。コンビニおにぎりといっても最近はなかなか馬鹿にできなくて、 けっこう凝ってて美味いものも多い。買ったのはゴボウと鶏肉がゴロゴロ入った鶏牛蒡飯。僕はゴボウが好きなのだ。 が、切符を買い時刻表を見てあれこれ考えながら駅のホームへのエスカレーターを上っているうちにいつの間にか手の中におにぎりがない。何のことはない、無意識の…
長期滞在者
ぼくの父方の祖父は、その当時は教師だった そして母方の祖父は、その当時は銀行員だった どちらも戦争には行っていない 昭和20年、父5歳、母2歳 父の住む町は、京都に近いこともあり B29が飛び交う空を見上げることはあっても、空襲にあったことはなかった 母の住む町は長崎にあって 軍事工場が多いので危ないという噂から、佐賀県に疎開したのだという 父の住む家は、畑もあったし田んぼもあったし 庭にはポポー…
長期滞在者
先日新宿のエプサイトで写真を売るということをテーマにしたレクチャーをさせて頂きました。35度越えの猛暑の真っ昼間だというのに、後ろの方で立ち見もでているくらいお越し頂き大変ありがたいと思いましたが、このようなテーマのトークショーに興味を持たれる方がこんなにもいるのか、ということも驚きでした。 最近写真を売る買うを始めとしたファインアートフォトグラフィーの仕事の様子についてお話をして欲しいという依頼…
長期滞在者
2週間ほど前に、映画製作に携わっている友人から連絡があり、と ある短編映画に出演する若い役者たちの動きをコーチしてもらえな いかと相談があった。映画の現場には興味があるので面白そうなの でやってみる事にして、2日前にその撮影が終わった。 ストーリーは至ってシンプルで、暇を持て余している二人の若者が 田舎道沿いの塹壕跡で原チャリを乗り回しているときに、たまたま 通りかかった女の子に声をかけるのだけど…
長期滞在者
「この子たちの背中に翼がはえているのは、この子たちの生まれる前に私が見た夢のせいかもしれないわ。あれは空を飛んでこの町から出ていく夢だったもの」(『空飛び猫』より) 暑くて暑くて溶けてしまいそうなくらい暑くなるとあらゆる場所で猫が落ちているのが目につく。ところかまわず行き倒れるように予告なくぼてっと寝転がりそのままじっと動かないその姿は、いる、というより落ちている、というのがしっくりくる。多分に漏…
長期滞在者
先日、仕事の帰り道にどこからともなく人の話し声を聞いた。どの家から声が降ってきているのかわからなかったが、開け放たれた窓から、女性が笑いながら話している声が聞こえるのだった。そのとき、ふとナポリを訪ねたときのことを思い出した。 ナポリ旧市街、スパッカナポリの下町を歩いていたときのこと。狭い路地裏をきょろきょろ見回しながら、わたしはどこからか聞こえる無数の笑い声に気づいた。ふと見上げると、背の高いア…
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『すいか日誌』 7月20日 すいかを買う。私にとってみればこれ位の大きさたやすいはずだと、たまに突然発生するお得意の根拠のない自信と共に2Lサイズを抱える。大きいのは冷えていないので、とりあえずすぐ食べる用にカットすいかも一緒に購入。 いっとう好きな食べ物はすいか。迷わずすいか。どうしようもなくすいかが好き。すいかがあるから夏を生きられるといっても決して過言ではない。 冷蔵庫の中段を外して、冷蔵…
長期滞在者
年を食って物忘れが激しくなった。最近のことは忘れても案外昔のことほど覚えているものだというけれど、程度問題であって、昔のことでも記憶は混乱する。だったら「鮮明な記憶」というのはいつの時期ならあるのか、という話なのだが、もしかしたらそういうのはなくても人は生きられるのかもしれない。すべての記憶は薄れ拡散し組み替えられて改竄されて、ゆっくり霧に溶けるようになくなっていくのだろう。それでもときたま、霧の…
長期滞在者
ぼくたちは、ぼくたちの時間や生活や人生を ぼくたちのものだと信じて疑わない。 でもそこは、やんわりと見えない蚊帳のような網の中で 自由に思えるように操作されているだけ、かもしれない。 自分の知り得る情報から、正しいを叩き出すことは間違ってはいないとは思う。 自分の知り得る情報など、ほんの微々たる物だという自覚を持たずしての結論は、間違っていないのかな。 ぼくの日常生活に、当たり前にあるはずの「美し…
長期滞在者
旧作品をぼくのギャラリーで再構成して展示する場合、作品のセレクトや展示構成のプランは大抵の場合ぼくがやることになります。ぼくがセレクトをやる場合のポイントは、最初にメインイメージを3点から5点確定させることからはじめます。 写真展とはおかしなメディアで、例え会場に40枚のプリントが並んでいたとしても、その全てを記憶出来るかというと、かなり難しい。それどころか、写真展を見たあと、数日のうちには、行っ…
長期滞在者
先週末、6月27日から29日まで、アクセル・ヴェルヴォールト氏主催のインスピラトゥム・フェスティバルにダンサーというかパフォーマーとして参加した(アクセルは、ぼくの陶芸作品の顧客でもある)。作品名「Destroy the picture, painting the void」。ここ数年、日本の具体芸術に入れ籠んでいるアクセルの命名。 バロックアンサンブルのイルポモドーロの演奏するヴィヴァルディ『四…
長期滞在者
ワールドカップで盛りがる祖国の様子を、最近よくテレビで目にする。歩く人々の姿、生活、美しい風景。目にする様子は様々だけれど、その度に胸がきゅうと締め付けられ、苦しくなる。わたしがいない、あの国。わたしのいない、年月。言ってしまえば、わたしはいつだって不在だった。わたしは、いまでもあの国のほんの一面しか知らないでいる。 某テレビの特集で、ブラジル生まれのサッカー選手たちのドキュメンタリーを観た。…