先日、ある展覧会場の受付で、展示を観終わったと思われるお客様が、職員の方に向かって、目当ての作品が展示していなくて面白くなかった、というような感想を残して会場を後にするところを見かけました。
その後に会場に入った僕は、時間さえ許せばもう少し長くゆっくりとこの会場に居たかったと思わせる素晴らしい展覧会でした。足を運んだ展示で去りがたいと感じさせるものは、一年の中でそんなにはありません。
その展覧会は、誰もが一度は聞いたことがある昭和の巨匠の作品展で、プロデビュー前の作品から、晩年のものまでひととおりを時系列で紹介していました。とりわけ創作活動の転機を迎える45歳前後の仕事について、多くのスペースを割いて取り上げている点は、展示はもちろん印刷物でも日頃あまり取り上げられないものばかりで、今まで抱いていた印象とは違った新しい発見もあり、更にこの作家さんが好きになりました。
それにしても、先ほどのお客様は、観たいものが無かったと嘆き、こちらは観たことが無いものがあったと喜ぶ。有名な作家であればあるほど、実物を一度は見てみたいと思う気持ちも分かるけれど、知っているものを確認するだけの答え合わせ的鑑賞法というのはちょっと勿体ない。
何かに接した時、「思ってたのと違う」という感想は世間では、「がっかりした」というニュアンスで用いられることが多いですが、表現に触れるとはそれが新しい発見であり、異質なものとの出会いであり喜びなのです。それこそが、脚を運んで見に行った甲斐があると思うのです。展覧会に限ったことではありません、評判のレストランに出かける時でも、景色の綺麗な場所へ出かけた時でも、思ってたのと違うことだらけです。いちいち残念がっていたら、毎日が味気ないものになってしまいそうです。