自宅は単に仕事を終えて寝るための場所と割り切って、ひたすら仕事場の近くに居を構えていましたが、ついこの間電車で30分ほど離れた郊外の街へ引っ越しました。近郊農業の盛んなところで、目の前には広大な畑が広がる、のどかな風景の中で生活を始めたところです。
それまでは、駅の改札を出た瞬間、ありとあらゆる肉が焼ける匂いに包まれ、ほろ酔い千鳥足の人波をかきわけながら、たどり着く我が家は2分ごとに高速で通過する電車の線路の脇でした。部屋のラジオが電車の騒音で聞こえないほどでしたが、それなりに面白い環境だと思って特にいやではありませんでした。いまは、夜になると真っ暗で歩いている人はいないし、車もほどんど通らない。そのあまりの静かな環境にびっくりします。
埋立地のニュータウン育ちのぼくは、平和すぎて退屈なわが町を一刻も早く飛び出したい気持ちでいました。だから、さまざまな都市生活のレイヤーが重なり合う街の中で暮らすことに毎日を生きる充実感を得た気がしていましたし、意識的に相互のレイヤーを突き抜け縫い合わせるような交流の仕方を望んできたのですが、50歳が手に届くところまでやってきて考えが変わりました。
朝から夜中まで仕事をしていても、なんとも思わなかったのが、近頃は体力と集中力がもたないのです。ここ1、2年の間住まいを移した仕事仲間の多くが、暮らしの空間を重視して住まいを創造し始めたことにも大きく心が動いていたのかもしれません。ということで、家賃は変わらないのに倍近く広いリノベーション物件にお世話になることにしました。
今興味があるのは、これまで集めてきた作家さんたちの作り上げたモノたちと一緒に暮らす楽しみを自ら実践すること。単に寝るだけの部屋から、心から快適に暮らす空間を自分の手で作り上げることをこれから始めてみたいと思っています。