コロナウイルスの騒動で、3月に入ってからのギャラリーはどこもお客さまの数が減っているようです。すでにお受けしているお仕事が少し残っているのですが、新規のお仕事が減っており、平日はとても静かなものです。
ぼくたちの方針としては、政府から全業種営業停止の命令が出ない限りは淡々とギャラリーを開け続けます。今のところ、展示キャンセルの申し出もなく、少し静かだけど、いつも通りを続けていこうと思っています。
ただ、展示中止を検討していた方はいました。結論を出すのは何より主役である作家さんなので、いちいちそれを覆すような意見をすることは必要ないと思っていたのですが、案内状を送っていた見てもらいたいと思っていた既知の友人や関係者などから、こんな時期だから、残念だけどやめておくよと言われるのが理由の大半であるという作家さんもいて、ちょっと残念な気持ちでいます。
個展というとても小さなメディアの最大の面白さは、それまでの経過を知っている内輪の人間への披露の場であってはならないはずです。まだ出会ったことのない誰かと作品を通じて対話すること、その結果として新しい繋がりを獲得できることに期待するべきです。
伝染病であっても、天災であっても、会場に足を運ぶかどうかを決めるのは、お客様の自由だと思います。もてなす側の私たちが先にそれを放棄するわけにはいかないと思っています。
2002年のサッカー日韓ワールドカップのとき、自国開催ということ、日本代表が初めてワールドカップに出場するということもあってか、日中に日本代表の試合が組まれたとき、町中から人が消え、街頭でもオフィスでもテレビ画面に釘付けになっていたことを記憶されている方も多いと思います。かくいう私も、ギャラリーの営業時間中でありましたが、別の階にあった応接室のテレビをスタッフ一同でずっと見ていました。なぜかというと、試合開始前からその日は誰もギャラリーに来る人は現れなかったのです。世の中全体が仕事放棄の雰囲気に満たされていたのをよく覚えています。大げさかもしれないけれど、サッカーを見ない人は非国民呼ばわりされそうなくらい、盛り上がっていました。
試合中にたった一人だけ、須田一政さんがきてくだいました。近々展示したいと思っている新作を見てもらおうとプリントの一部(それでも常人以上のボリュームはあります)を持ってきてくださったのです。試合開始直後だったと記憶しています。先生、サッカー見ないんですか?とは聞きませんでした。ミーティングが済んだあとに、いつものように会場をぐるりと一回りして、芳名帳にサインを残されて帰っていきました。
その日のサッカーの記憶は全くありませんが、須田さんが撮ってきた沖縄の写真の記憶はよく覚えています。