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3F/長期滞在者&more

トリプルスチール

長期滞在者

パートメント20158
高校野球 夏の甲子園大会は今年が100回目だとか。

近年の戦いですと、4~5年前の千葉県は習志野高校の戦いぶり。超一流のエースもパワーヒッターもいない小さな市立高校が緻密なチームプレイで次々と強豪校を破っていったのが印象に残っています。とりわけ初戦の対静岡高校のときに見せた、満塁からのトリプルスチール。つまり三塁ランナーが、ホームベースめがけ飛び込んできて1点をもぎ取ったあのプレーは格別です。
トリプルスチールとか、ホームスチールというのは、数ある野球の戦術の中でも実行に移される可能性がほぼゼロであるから、成功しただけでもすごいことなのですが、ぼくが感心したのは、そこの部分ではありません。

本稿は野球のコラムではないので、細かな部分は省略しますが、簡単にこのプレーの状況を追ってみたいと思います。
この場面で打者は一年生ながら4番を任されていた大型の右打者です。1球前にあわやホームランという大ファールをレフトに放っています。
投手は左投げで投球モーションが大きいことから、盗塁しやすいタイプだと、習志野の選手たちは最初から気がついていたと思います。
直前に大飛球を打たれていますので、守りの方は長打を警戒しつつ、内野ゴロからのホームでの封殺を狙う体制で、この局面でランナーが走るという想定はまずなかったと想像します。ここでは、どのチームも普通はそのように思うはずです。

三塁ランナーは、やや大きめのリードを取りながら、ピッチャーが投球動作に入った瞬間迷うことなく、ホームベースまでの最短距離をまっすぐに駆け込み、頭から滑り込んでホームベースにタッチします。大柄の4番打者は、ランナーが走り込んで来るのに気づかせるのを遅らせるため、わざと打席に立ったまま投球を見逃しました。このプレイは当然ベンチからのサイン(指示)があってのことですから、全く同一の状況は想定していないにせよ、日頃から打者とランナーの動きを練習しているのだと思います。それだけでも高校生にしては高度な連係プレーだと思いますが、さらにここでは1塁ランナーがわざと、1、2塁間で止まったり一瞬一塁に戻るような素振りを見せます。ボールを持っている捕手が慌てて、このランナーを殺そうと送球すれば、その間に2塁ランナーは、ホームに還ってきます。つまり、このワンプレーで習志野高校は打撃によらず2点を取りにいこうとしていた訳です。ここではあまりにも想定外の失点でプレーが止まってしまったため、2点目を狙う作戦は不発に終わっていますが。

ぼくは、単に「走れ!」のサインから始まったこの局面で、グラウンド上にいた攻撃選手達がここまで創造的なプレーが出来ることに心底感じ入りました。彼らは本当に野球を知っている。それぞれの場面で選手個々が何をすべきか、その都度のプレーにおける状況を正確に把握出来ている。
これが高校野球というアマチュア競技の場で、そんなの普通じゃん、みたいに振る舞われているのがすごいと改めて思います。

あれから何年か経過し、塁上にいた選手達は高校を卒業したのですが、今でも大学や社会人でまだプレーを続けていると聞きます。逆にいうとこんな緻密な試合運びが出来る巧者(野球ネイティブとでも申しましょうか)であっても、プロ選手になれるかわからない、プロとはずっと先の方に存在しているんだと、その層の厚さに驚きます。

プロとは、単にパワーとか、個々の技術とか、華やかなプレイとかそれも求められているのでしょうが、人目に触れにくい、内面的な緻密さも大切です。翻って日々の写真表現の現場でも見た目の派手さに惑わされずに、丁寧な仕事を続ける作家さんへ常に意識を向けていきたいと思いますし、これから写真表現を志す人たちにも、そういう部分をきちんと伝えたいと思います。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

Reviewed by
鈴木 悠平

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満塁。ピッチャー、振りかぶる。三塁ランナー、土を蹴る。バッター、引きつける。ランナー、帰還する。

4〜5年前の甲子園、千葉の習志野高校が見せた鮮やかなトリプルスチール。近年、篠原さんにとってとりわけ印象深かったのは、”超一流のエースもパワーヒッターもいない小さな市立高校が”見せたこの”緻密なチームプレイ”だったという。

滅多に成功することのない戦術と言われるトリプルスチール。習志野高校のこのプレーは決してまぐれではなく、日頃から様々なシーンとその対応を想定し、練習を重ねるなかで内面化してきたからこそのものだろう。見た目の派手さに引きずられることのないこうした”丁寧な仕事”を高校生がやってのけたことに感嘆すると共に”プロ”の層の厚さを思い、そしてご自身のフィールドである写真表現の世界へと翻る篠原さん。

今月は写真ではなく野球についてのコラムを寄せていただいたが、甲子園野球の1シーンも、篠原さんの目にはスチールのように焼き付いているのだろう。

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