長期滞在者
マイマイカブリという虫が好きだ。 少し正確ではない、言い直す。 マイマイカブリという虫が好きだったことを思い出した。 実物のマイマイカブリなんて、もう30年以上見ていない。 長い優美な形状の甲虫である。ロッテンマイヤー女史が着ていた濃紺の長い衣服を連想させる。 「舞舞被」という字を頭に浮かべれば典雅な舞楽のようであるが、実際は舞舞(マイマイ)とはカタツムリのことである。カタツムリの殻をカブっている…
長期滞在者
パリに来て最初の一ヵ月半は毎日語学学校に通った。 分かろうが分かるまいが毎朝3時間。 フランス語に対する免疫力を養うのにはうってつけだった。 日本人ばかりのクラスから始まって、終わる頃には外国人に囲まれて授業を受けていた。 それぞれにとても大切な出会いがあった。 それから音楽院が始まり、パリで暮らす人々との出会いも少しづつ増えて、気がつけば三ヶ月が経過している。 フランス語についてもフランス人につ…
長期滞在者
長らくこのアパートメントの自室に引き籠ってしまった。 そうこうしてるうちに冷たい冬が窓の外を叩き始めて余計に部屋から出づらくなった。 それでもわたしはどうにかキーボードを叩いて新しい景色に出逢いたいと思う。 さて、今回はわたしが今年の夏に出逢った演劇作品についてお話しする。 こどもを対象とした演劇祭“TACT/FEST”で上演された飴屋法水演出の「教室」という作品について。 この作品は、演出家の飴…
長期滞在者
10年近く暮らした新宿から、仕事場から5キロ程離れた杉並に引っ越す事にしました。 この記事が出る頃には、荷物の移動だけは終わっていると思うけれど、しばらくの間は大量の荷物に埋もれるような感じで暮らすのかもしれません。だいたい、滅多な事では新宿・四谷の町を出ないぼくにとって、杉並に引っ越すのは結構な大事件で、気分的には「移住」と呼びたいくらいなのです。 とにかく、本の量が半端ないため、この機会にかな…
長期滞在者
先日、引っ越しの手伝いをすることになった。晴れたり雨が降ったりと、定まらないお天気で、空はどんよりと暗いところもあれば、光が射して眩しいところもあった。平べったいアーチの虹がふたつ浮かんでいて、はっきりと虹の出ているところがみえた。子どものころ、虹のふもとには宝物が眠っていると聞いたことがある。だけど、虹は自分がいる場所によって見えたり見えなかったりするし、動いたら出ている場所だって変わるじゃな…
風景のある図鑑
「ウェシカ・ピスキス:vesica piscis」 紙の上にコンパスの針を刺し、円を描きます。 コンパスをその大きさのままに、描いた円の円周上に針を刺し、もうひとつの円を描きます。 二つの円が重なる部分にアーモンドのような形ができます。 これが「ウェシカ・ピスキス」と呼ばれます。文字通りの意味は「魚の浮き袋」です。 「鉄:iron」 古代、鉄は空から降ってくるものでした。 鉄隕石は、鉄にわずかなニ…
長期滞在者
================================================== 「(「ヤツシ」とは)常態を超えた、もしくは、身分的秩序を逸脱 した状態を示す言葉、あるいは、当人にとっては、異常なもしくは 非日常的な時空に存在する状態を表す言葉である。」 「身分を下降させて、本来の生活状況とは違う生活状況に生きる人 物をヤツシという。けれども、ヤツシにとって大切な点は、単に下 …
長期滞在者
ゆうやけビルジングに映る私のまわりには 柔らかい泡ぶくが生まれては溶けていく 足元から大地の熱気を包んで皮膚をなぞり 指のまたを這い上がって 頬をつたいのぼって 頭をかき回してしがみつく らせんはきらい そう囁いて鼓膜をびるびる震わさして ひとしきり三半規管を縦横無尽に跳ね回って暴れると 小さいうめき声をあげて舞い上がる そうすると瞬く間に泡ぶくは飛行魚に喰われて溶けてしまうのだ それは誰かが誰か…
虫の譜
例えば見ている映画に「マフィアのボス」が登場したとき、それが見るからに荒くれた悪そうな奴であるよりも、知的で品のいい小柄な紳士である方が、得体の知れない凄みを感じる。同じように小説の中の残虐な犯罪者は、それが愛想のいい隣近所のご主人であったり勤め先の楚々とした美女である方が、よりいっそうの不気味さを煽る。 ウマオイにはそういう「ギャップの凄みや不気味さ」がある。草食のものが圧倒的に多いバッタ型の昆…
長期滞在者
私のアパルトマンはモンマルトルの麓にある。 Abbesses(アベス)とPigalle(ピガール)というメトロ12番線のふたつの駅のちょうど中間で、Abbessesは日本でも大ヒットしたジャン=ピエール・ジュネ監督の「アメリ」で彼女がはじめて運命の恋人、ニノ・カンカンポワに出逢う駅だ。 尤もAbbessesを利用することは少ない。 なぜかというと、モンマルトルは丘なので駅自体が既に高台にあり、地上…
長期滞在者
この夏は故郷の男木島(香川県高松市男木町)に2週間近く帰省しました。 いつもは盆正月の3泊くらいの滞在ですが、今回は実に20年ぶりぐらいの長期滞在です。 以前、アパートメントに書いた「砂を売る」はこの島での事を書いています。 僕が生まれた昭和52年、当時で400人程度いた島民も平成25年現在では180人まで減り 子どもも居なくなり、小・中学校学校は休校です。 あちこちの家は家主を失い、潰してコンク…
長期滞在者
ものすごく久しぶりの投稿です。7ヶ月ぶりです。 何年かに一度やってくる活字拒否期間がしばらく続いていて、読むのも書くのも全く気が進まない時期が続いています。 とは言いながら、そういう時期は大体生活がなんとなく茫漠としてくるのが常なので、 たまには文章にして、身も心も整理整頓する作業は必要であるなあ、とも思うのも確かなのです。 ぼくは一応ダンサーというか振付家というかパフォーマーというかが本業なのだ…