長期滞在者
先日、引っ越しの手伝いをすることになった。晴れたり雨が降ったりと、定まらないお天気で、空はどんよりと暗いところもあれば、光が射して眩しいところもあった。平べったいアーチの虹がふたつ浮かんでいて、はっきりと虹の出ているところがみえた。子どものころ、虹のふもとには宝物が眠っていると聞いたことがある。だけど、虹は自分がいる場所によって見えたり見えなかったりするし、動いたら出ている場所だって変わるじゃな…
風景のある図鑑
「ウェシカ・ピスキス:vesica piscis」 紙の上にコンパスの針を刺し、円を描きます。 コンパスをその大きさのままに、描いた円の円周上に針を刺し、もうひとつの円を描きます。 二つの円が重なる部分にアーモンドのような形ができます。 これが「ウェシカ・ピスキス」と呼ばれます。文字通りの意味は「魚の浮き袋」です。 「鉄:iron」 古代、鉄は空から降ってくるものでした。 鉄隕石は、鉄にわずかなニ…
長期滞在者
================================================== 「(「ヤツシ」とは)常態を超えた、もしくは、身分的秩序を逸脱 した状態を示す言葉、あるいは、当人にとっては、異常なもしくは 非日常的な時空に存在する状態を表す言葉である。」 「身分を下降させて、本来の生活状況とは違う生活状況に生きる人 物をヤツシという。けれども、ヤツシにとって大切な点は、単に下 …
長期滞在者
ゆうやけビルジングに映る私のまわりには 柔らかい泡ぶくが生まれては溶けていく 足元から大地の熱気を包んで皮膚をなぞり 指のまたを這い上がって 頬をつたいのぼって 頭をかき回してしがみつく らせんはきらい そう囁いて鼓膜をびるびる震わさして ひとしきり三半規管を縦横無尽に跳ね回って暴れると 小さいうめき声をあげて舞い上がる そうすると瞬く間に泡ぶくは飛行魚に喰われて溶けてしまうのだ それは誰かが誰か…
虫の譜
例えば見ている映画に「マフィアのボス」が登場したとき、それが見るからに荒くれた悪そうな奴であるよりも、知的で品のいい小柄な紳士である方が、得体の知れない凄みを感じる。同じように小説の中の残虐な犯罪者は、それが愛想のいい隣近所のご主人であったり勤め先の楚々とした美女である方が、よりいっそうの不気味さを煽る。 ウマオイにはそういう「ギャップの凄みや不気味さ」がある。草食のものが圧倒的に多いバッタ型の昆…
長期滞在者
私のアパルトマンはモンマルトルの麓にある。 Abbesses(アベス)とPigalle(ピガール)というメトロ12番線のふたつの駅のちょうど中間で、Abbessesは日本でも大ヒットしたジャン=ピエール・ジュネ監督の「アメリ」で彼女がはじめて運命の恋人、ニノ・カンカンポワに出逢う駅だ。 尤もAbbessesを利用することは少ない。 なぜかというと、モンマルトルは丘なので駅自体が既に高台にあり、地上…
長期滞在者
この夏は故郷の男木島(香川県高松市男木町)に2週間近く帰省しました。 いつもは盆正月の3泊くらいの滞在ですが、今回は実に20年ぶりぐらいの長期滞在です。 以前、アパートメントに書いた「砂を売る」はこの島での事を書いています。 僕が生まれた昭和52年、当時で400人程度いた島民も平成25年現在では180人まで減り 子どもも居なくなり、小・中学校学校は休校です。 あちこちの家は家主を失い、潰してコンク…
長期滞在者
ものすごく久しぶりの投稿です。7ヶ月ぶりです。 何年かに一度やってくる活字拒否期間がしばらく続いていて、読むのも書くのも全く気が進まない時期が続いています。 とは言いながら、そういう時期は大体生活がなんとなく茫漠としてくるのが常なので、 たまには文章にして、身も心も整理整頓する作業は必要であるなあ、とも思うのも確かなのです。 ぼくは一応ダンサーというか振付家というかパフォーマーというかが本業なのだ…
長期滞在者
フランスで私が、美しい、好もしい、と思える男子は、全員ホモセクシュアルなので困っています。 他の日本女子にきいても大抵が同じ感想です。 フランス語部分 「ごめん。もう行かなくちゃ。そういえば僕たち結婚するっていったっけ?」 「ねえ、はやく行こうよジュリアン。劇場に遅れちゃうよ」 広告や人気映画俳優などから推察する、フランスの「男らしい男」は、みんな無精髭を生やしており、類人猿ぽく、髭ばかりでなく体…
長期滞在者
先日、不思議な体験をした。とても暖かい日の夕方、夕食後にAndyさんとちかくの自販機まで歩いていった。比叡山の真上に細い三日月があがっていて、きれいだねなんて言いながら。ふたりで大好きなPepsi NEXを買って帰ろうと思ったのだけれど、ふと気になっていたことをAndyさんに聞いてみた。小学校へは、どの道を通っていたの?今度、一緒に歩いてみようか、ってそれで終わると思っていたのだけれど、いざ家に…
長期滞在者
高級魚「のどぐろ」として有名。関西圏ではあまり出回らないのか、それとも高級魚だから縁がなかったのか、大阪では存在を意識した記憶がない。東京に引っ越してから、その名が目につくようになった。3年ほど前、職場の近くの仕出し弁当屋さんのメニューに「焼き魚(のどぐろ)弁当」というのがあって、ハテこの「のどぐろ」というのはよく見るけどいったい何者なのか、と調べて「アカムツ」という深海の魚なのだと知った。(残念…
長期滞在者
満開の桜を見ていると思い出す。 まだ桜がパラパラと咲き始めた頃。 電話を受けて汗だくで走った西新宿の街。 祈りながらずっと俯いていた北九州行きの飛行機の中。 窓から見えるであろう懐かしい風景が歪んで全く見えなかった電車の中。 押し寄せるどうしようもない感情に子どもの頃のようにたくさん泣いたあの日。 父がこの世を去ってから丸一年が過ぎた。 もうあの頃のように悲しみに明け暮れることもない。 時間の経過…