長期滞在者
人間には理解できないような不思議な生活史をもった生き物がたくさんいる。 ウナギはマリアナ海嶺の深い海で生まれたあと、ひらひらと葉っぱみたいな透明の体ではるばる日本(をはじめとする東南アジアの国々)まで、徐々に細いウナギの形に姿を変えながらやってくる。日本に着いたら川をさかのぼり、時には陸を移動して川から孤立した山中の沼にまで棲みついたりして5年〜10年。時期がくるとまた遥か遠いマリアナ海嶺へ、産卵…
長期滞在者
沈黙が、ひとを繋ぐことがある。語らなくても、なにかが深く互いのこころに染み込んで、言葉にしなくても通じ合う。沈黙が放つ閃光は、あまりにも微かで、あまりにも儚い光だから、見逃してしまうことも多い。だけど、なにかの拍子に、他人同士が隣り合って、肩を並べて、互いの痛みを分かち合う、そんな深い関係になれもする。わたしが予備校生だったころ、そんな経験をした。 ヘジナウドは、カエターノ・ヴェローゾによ…
長期滞在者
いまのわたしには、足りないものがある。ことばも、気遣いも、なにも必要のない、まっしろになれる時間を、いつのまにかどこかに置き忘れてきたらしい。Guarulhosを離陸した瞬間、空からどこかの海に落っことしてしまったのかもしれない。いまは、その術さえおぼろげで、どうやってまっしろになっていたろう、って、そんなことしか考えられない。絡まり合った、真っ黒い糸の塊、ぐちゃぐちゃで、糸端がどこにあるのかわ…
長期滞在者
たくさんの人がここに話に来ていた。 旧盆の頃に誰と何を、と考える。 当たり前なんだけど、この海はここに住む人たちの海なんだという事。 魂とか心が由来する場所なんだと思う。 流されてしまった家の横に、新しい営みが繰り返されている。 はるえさんが折っていた折り紙の鶴を僕は胸ポケットに忍ばせて 帰り際に、この海に流してきた。
長期滞在者
どうしても今の自分を肯定できないときは、知人の結婚式に出席するのがいい。 それは何もかも肯定しようとする空気が満ち満ちている場所。 もしくは、知人のお葬式に参列するのがいい。 それはこの世に残されたものをすべからく肯定しようとする場所。 事実がどうであれ、喜びと悲しみという違いはあれ、どちらもしあわせの在るべきカタチをイメージする場所。 あまのじゃくだろうがひねくれていようが、結局なんとなく心動か…
長期滞在者
友人からの電話を受けて、改めて考えたことがある。ひとは、どれくらい痛みを共有できるのだろうか。自分が経験していないことの痛みを、どれくらい感じて、察してあげられるのだろうか。 わたしも、悩んでいる人に言ってしまうことがあるけれど、 だいじょうぶだよ、 泣かなくていいよ、 でも、よくよく考えたら、そんなこと、どの口が言えるんだろう。 大学時代、「あなたのこと、わたしは理解しているよ」という…
スタッフの部屋
男の子を育てたことがないし、 兄がいるけれど、 歳も離れていたので あまり一緒には遊ばなかったし。 おまけに私は、近所の女の子とばかり遊んでいて、 こういった生き物と接する場といえば、 理科の時間くらいで。 どちらかというと、 虫が苦手で触れないような子供だった。 帰宅すると、 セイヤくんがバケツを持って 走り回っていた。 セイヤくんは近所の一年生で、 時々、長女が一緒に遊んでいる子。 もちろん、…
長期滞在者
サンパウロとカンピナスのちょうど中間くらいに、Jundiaíという街がある。ブラジルの中でも、人々の暮らしが豊かだと言われる街で、ユークリッドは、その街の中心街に住んでいた。 ユークリッドというのは、わたしの叔父のことだ。叔父、と言っても血がつながっているわけでもなく、親戚でもない。彼は、わたしの実の叔母の親友で、わたしにとっては実のおじたちよりも、ずっと身近で大切な人物だ。そのせいか、わたし…
長期滞在者
先日、カフェの開店準備をしていたときのことです。キッチンでの作業中、ふと顔をあげると、庭の木の周りを大きな蝶が飛びまわっているのが見えました。思わず、手が止まり、その蝶を眺めてしまいました。あたたかくなったのだなぁ、と息をついたとき、大きな渦に飲まれたような、ぐるんと目がまわるような感覚に襲われました。はぁ、っと息を深く吸いこむと、ぱっとまわりが明るくなった。気づけばそこは、わたしの生まれ故郷。…
管理人室の往復書簡
かおりさんへ まあ、相変わらず道は見つからず、迷子のままの私です。 なにを見ても言っても感じても、そこにある事実の前に最後、自分はからっぽになる。 でもね、このままでいいや、からっぽのままでいいや、どうしたって満ちることはないし、ならば空虚のなかに身を投じてその後のことはその時に考えようと思っているよ。 自分がからっぽだと自覚できるのは、しんどいがしかし、いいことかもしれない。 過去に重ねてきたも…
管理人室の往復書簡
かおりさん 今日のいわきは霧雨で、霧吹きで顔を冷やされているようで、いい気分です。 21日に、夜ノ森(よのもり)という地区に行ってきたよ。 そこは福島の双葉郡、富岡町にある地区。 とおり沿いに桜のトンネルができる名所で、春になると本当に多くの人々がそこを訪れていた。 原発事故のあった福島第一原発からの距離は7~8キロくらいで、今は警戒区域になっている。 桜というか、「場所」って、ひとりひとり、さま…
管理人室の往復書簡
かおりさん 東京はもう桜が散る頃かな。 いわきは、今日現在つぼみの時期。ふくらんでいるし、桜って「限界!」ってとこまでがまんして、ぽんと咲くから、きっともう満開の時期は近い。 むかし聞いた話で、へえ知らなかった!て思ったのがね、桜はすべての樹がおなじDNAなんだよって話。 1本の樹からはじまって、その樹から枝を分けて全国に広がっていったんだって話。 DNAがおなじだから、おなじ場所にいる桜はおなじ…