それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
人生を通り過ぎて行くもののなかで、絵本や小説に出てきた登場人物もまた、私のなかに強い印象を残している。ときには実在する人以上の存在感を感じることさえある。物語のちからは強大だ。 「おっきょちゃんとかっぱ」という、小さな女の子が川底のカッパの世界に行ってしまうお話を、夏になると必ず思い出す。おっきょちゃんはひとりで川遊びをしているときにカッパのこどもに出会い、誘われるまま川底でのカッパのお祭りに行っ…
長期滞在者
実家に住んでいた頃は、家を出たくて仕方がなかった。人生とはこうあるべきと言わんばかりの、あらゆる押し付けに耐えられなかったからだ。 私の両親は「こうすれば人生は安全だ」という正解を持つ世代だった。大学に入ること、大手企業に就職すること。結婚して子供を産むこと。 けれど私の世代は違う。正解はない。学歴や職歴、家や車を持つよりも大切なことがある。 この家には、正解という虚像に近づくことよりも自分の納得…
長期滞在者
わたしのことを”娘”と呼ぶ人が、久しぶりに泊りにきた。 その人は、こころがとても疲れていた。 わたしもその日、バイト先の人と話して「そろそろ限界にみえる」と言われて、限界、限界、と浅く考えていたところだった。硬い頭を突き破れなかった文章が、バラバラの単語になって、諦め悪く頭の上で跳ねている。鬱陶しい。 不思議なもので、疲れて、”誰かに会ったら壊れそう”という意識に心が傾く手前で、その人は連絡をくれ…
Do farmers in the dark
今回は以前描こうと思って諦めて途中にしてしまっていた漫画を、また描こうと思って、やっぱりまた途中になってしまったものを載せます。すみません。漫画でなくて紙芝居の文字が少ないようなものになってしまっています。以前描いた1枚の絵具の絵をもとにして描いていています。ではよろしくお願いします! do farmers in the dark 第3話 オレンジ色の部屋に住んでる 見…
お直しカフェ
私はカフェが好きだ。予定のない日にひとまずパソコンと本を持って向かうカフェも好きだし、出かけた先で一休みに入るカフェも好きだ。一人で行く馴染みのカフェも好きだし、気心知れた友人と一緒に古ぼけたお店に突撃して、とりあえずのコーヒーとナポリタンを頼んでみるのも好きだ。カフェと一口に言うけれど、世界中にあるチェーンのコーヒーショップも好きだし、住宅街の陰気な喫茶店も好き、田舎の幹線道路沿いにあるカフェ&…
長期滞在者
サッカーのW杯がフランスの優勝で幕を閉じた。 日本戦で奇跡的な逆転勝利をもぎ取ったベルギーが 彼らに準決勝で負けたのはとても悔しかったが、 フランスは巧妙な戦術と正確な技術とで最後まで着実に勝ち続けた。 決勝戦があったのは7月15日。 ぼくはもともとその前々日からパリに滞在する予定があり、 その翌日の14日がフランス革命記念日に当たっていて、 初めてのパリ祭をのんびり満喫する予定にしていたので、 …
長期滞在者
今年で、日本で生活を始めて通算24年になる。私の短い人生の大半は、この国での生活が占めている。少し気が早いけれど、12月に切れるビザの更新のために、心の準備を始めないといけないなと思うような時期にさしかかってきた。 外国人として、この国に生きる以上、わたしにはビザの更新というdutyがつきまとう。もう、子どもの頃からなんども経験していることで、慣れっこではある。手続きだって慣れたもんだし、これまで…
ギャラリー・カラバコ
ポストに入っていた鍵を握りしめて、部屋を出る。 風がわたしの息をふさぐ。 路地の灯りに照らされた私の影と、街路樹の影が、長く道の先で交わりながら踊る。 あ、そうか。 今日は満月なんだな。 満月のひかりは、満月の前の日や満月の次の日のひかりと、どうしてこんなにも存在感が違うのだろう。 「ギャラリー・カラバコ」の扉をそっと開く。 そこには、前回の『縫い目』とは違う作品がかかっていた。 — 「つむじ」 …
長期滞在者
山内マリコ『選んだ孤独はよい孤独』(河出書房新社) 山内マリコさんの小説は、いつもタイトルが素晴らしい。 『ここは退屈迎えに来て』『アズミ・ハルコは行方不明』『さみしくなったら名前を呼んで』……。どれも初期の作品だけど、耳に残る七五調で、短歌のように数文字で作品世界の色合いがしっかりと喚起される。 『選んだ孤独はよい孤独』というタイトルも、この初期の作品たちと同種のリズムを備えている。 でも、浮か…
長期滞在者
目の前の暗い地面から潜水艦のようにせり上がった黒い小さな楕円体が急に地面からちぎれて駆け去った。 あわてて自転車をとめて行方を目で追うと、小さな小さな黒猫だった。 あまりに小さいので猫らしくなくて、まるで機械仕掛けの偽猫のようだったが、地面からちぎれて出現したのと同じように、道路脇の茂みに溶けて消えた。 ◆ 新撰組の沖田総司が肺結核で隊を離れ、知り合いの植木屋で療養生活を送っていたとき、庭に毎日黒…
長期滞在者
今では遠く離れた友人知人のことも、SNSのおかげで距離を感じさせることなく近況を知ることになり、実際に久し振りに会う人でも、あんまり久し振りの感じがしなかったりする。20代の頃、高い遠距離通話料金が払えなくて、いつ来るかわからない地元の友人たちの手紙がポストに届くのを、気長に待つのが辛うじての交流という時代を経験した身からすると、どちらかといえば便利な世の中になったと思います。先日もタイムラインで…
長期滞在者
昨年の4月のこと。ラジオレッスンの新入生の生徒が、レッスン後に1人でそっと近づいてきて、こんな質問をされた。 「先生、韓国のアーティストを好きなことをあまり話さない方がいいですよね?」 「どうして?」 「だってネットとかには、韓国のことを悪く言う人が多いから、私が韓国のアーティストを好きだというといろいろ言われちゃいますよね?」 「何を言っているの! あなたが好きなことは堂々と話していいんだよ。自…