長期滞在者
「ねこがいないんだ。子ねこでもいいからいたらいいのに。ねこのいないだんろなんて!ねこのいない家なんて!すぐにもねこを見つけなきゃ。子ねこだっていいんだから。そしたら家は、欠けたものなし!」 (『ピーターサンドさんのねこ』より) 煙猫と新居に引っ越してからひと月がたち、新・谷底の様子はというと、ここにも猫、そこにも猫、あそこにも猫、人も歩けば猫にあたる、そんな毎日だ。誰が言ったのかは知らないが、猫が…
イルボンと小鳩ケンタの空席商会
◇出てくるひと(順不同・敬称略) イルボン(gallery yolcha車掌/詩演家):以下、車掌 小鳩ケンタ(詩人):以下、鳩 横山雄(イラストレーター/漫画家/グラフィックデザイナー):以下、横 ◇◆◇◆◇ 【2014年9月の相席】 横山雄個展「もうすぐそこへ行く」(2014年9月4~21日) 東京在住の横山氏はyolchaで寝泊まりしながら在廊していた。 本文内容は2014年9月7日、gal…
長期滞在者
琵琶湖の浜で寝転んで、ゆっくり、ゆっくり何度も深呼吸するが好きだ。何も語らず、ただぼんやりと時間が過ぎるのを眺めながら、止まらない波音を聞く。目を閉じて、砂浜と秋の風の冷たさを感じる。 人と関わり合うことも、もちろん大事。だけど、ふたりぼっちで、静かに、ひたすら無口にたたずむのが、ほんとは一番好きだ。わたしたちには、必要以上の言葉はいらないから、互いの体温が空気ごしに伝わるくらいの距離感で、重力を…
虫の譜
(上)シバスズ Polionemobius mikado (下)マダラスズ Dianemobius nigrofasciatus マダラスズは体長6、7ミリの小さなコオロギで、鳴き声さえ知っていれば都市部でもいたるところにいるのが分かる。6月になってかれらが鳴き始めると、今年も虫たちの季節がやって来た!と盛り上がった気分になる。その鳴き声は柔らかく繊細で、それでいて「この小さな体からよくも」と思わ…
長期滞在者
作品を創ることは 乾いた土に水を齎す、慈しい雨のようなもので 心が干涸びそうになっても どうか一滴でも雨を、と それは空を仰ぐように ぼくは作品に向かうのです —————————————————&…
長期滞在者
叙情、というのは多少因習的な色乗りのしてしまった言葉で、誤解されがちなんですが、僕は心動くもの、の総称としてざっくりと使っています。ざっくりしすぎですね。 今まで中村浩之さんとの二人展(『叙情寫眞』2009 )と自分の個展(『重力と叙情』2010 )のタイトルにしました。 別に「叙情」でなくてもいいんですが、他にしっくりくる言葉がないので、便宜的に仮りそめに使っているだけです。白状するならば、むし…
the power sink
こんばんは!今回も特に意味のない絵を載せます。ではよろしくおねがいします! 内蔵がもぞもぞして、頭がカッとして、要するにイライラしていてあんまりいい状態じゃない 雨が降っていて、りっぱなクローバーがあって、自分は何でか空中に逆さで固定されているんさ 貧弱そうな人に心臓をパンチされる。でも僕は箱に入っている おじいさんが草むらに隠…
長期滞在者
とある事情でいま「写ルンです」が仕事場に100個届いておりまして、ぼくも1個使ってみました。あまり話題にもならないのですが、コンビニに行くと、「写ルンです」は、ほぼ間違いなく今でもコンビニに行けば買うことが出来ます。 早速仕事場の周りをちょっと写して回ろうと出かけたところ、15分もしないうちに、1本撮り終わってしまい、今2個目のパッケージを開けたところです。果たして何が写っているのか、ちゃんと撮れ…
風景のある図鑑
「 クラゲ : jellyfish 」 クラゲの大半には、ポリプと呼ばれる植物のような時代があります。 クラゲの受精卵は、メスの保護嚢の中で0.2mmほどに育つとプラヌラ幼生となって外へ泳ぎだします。 プラヌラ幼生が海底の岩などにくっついて定着し、触手を伸ばします。 この海底に咲いた花のように見えるものがポリプです。 ポリプは、水温が15℃以下になると体がくびれ、花びらが重なったような姿になります…
イルボンと小鳩ケンタの空席商会
◇出てくるひと(順不同・敬称略) イルボン(gallery yolcha車掌/詩演家):以下、車掌 小鳩ケンタ(詩人):以下、鳩 谷内亮太(アクセサリー作家):以下、亮太 ケント・マエダヴィッチ(イラストレーター)欠席 Murgraph(イラストレーター):以下、 Murgraph ◇◆◇◆◇ 【2014年8月の相席】 2014年7月19~8月10日、ケント・マエダヴィッチ×谷内亮太「Refres…
長期滞在者
「ご賛成のかたは、右前足をおあげねがいます。(中略)反対のかたは、左あと足をおけりください。」 (『黒ネコジェニーのおはなし』より) 東京の地形は意外と起伏があり、谷のつく地名がたくさんあるのですが、夏が過ぎ去るのと同時に谷から新しい谷へと移り住みました。煙猫にとっては2回目の引越しです。さて煙猫は体つきは堂々としているのに気は小さくはにかみや、いつもおっとりくったりしてるのですが、移動はまったく…
長期滞在者
本庄早稲田には人がいなかった。駅の光だけが煌煌としていて、無人の駅の中、こんなところに新幹線はこないだろうと思った。車をおりて、母を抱きしめたとき、老眼鏡を使い始めた母の目が潤むのをみた。わたしは舌を噛んで、必死に堪えたけれど、母の顔を直視できなかった。わたしはあまりに無口な娘だ。父や母が望むような言葉を、何一つ残さなかったし、希望も残さなかった。無口で、不透明で、不安定な娘を、彼らはどうにか助…