長期滞在者
昨年の大晦日、伯父の家に集まって年越しをした。久々に会った伯母に、Keikoちゃんと呼ばれたとき、あぁ、この人はわたしが言ったことを、いまでもずっと守ってくれているんだ、と思いながら、恥ずかしさと言いようのない居心地の悪さに駆られて、その場から逃げ出したい気持ちになった。 海外では、ある人物にちなんでその人と同じ名前をつけることがある。例に漏れず、わたしにもそのようなミドルネームがある。わたしが生…
長期滞在者
なかなか進まないことと 反面 勝手に恐ろしい速さで見えてきてしまうことと ぐるぐる周りながら 巻き込み巻き込まれ 吸い込み吐き出して 自分自身で作った渦なのに翻弄されてしまうことばかりだけど 目をまわしながらもかろうじて見つめる先は一点に かすかに光を感じるあの方角へ定めるように 吸って 吐いて すって はいて 気も狂わんばかりに 外気を求めても 身体に取り込むことができるのは その中のごくごく一…
虫の譜
2011年の夏に出くわしたカリウドバチの狩り。写真を見返すと狩人はヒメベッコウの一種、獲物はオニグモの一種らしい。 カリウドバチ(狩人蜂)と呼ばれる一部のハチは、他の虫を狩ってそこに卵を産み付ける。彼ら(彼女ら)の狩りは、生かさず、殺さず。いずれ生まれてくる幼虫の食糧になる獲物の鮮度を損ねてはならないと、毒針の一撃で仮死状態にして生かしたまま巣穴に引きずりこむ。生きながらにしてじわじわ食われる哀れ…
長期滞在者
十年くらい前の話、例のUFO研究家の某Y氏が『カラスの死体を見ないのはなぜ?』とかいう本を書いていて、それが間違って紀伊国屋の生物学の棚にあったもんだから、大まじめな生態学の本だと思って立ち読みした。そしたらカラスの体は死んだ瞬間に一瞬で消えるのだとか何だとか、トンデモなことが描いてある。なんじゃこりゃ、と思って背表紙を見て著者名に気づく。あーあ、もう。紀伊國屋の店員も何を間違えてるんだか。 あほ…
長期滞在者
初めて「お話」というべきものを書いたのは小学4年生の頃。 それはこんな風だ。 ”主人公の「わたし」は醜い女の子で、両親は美しい顔立ちをしているのになぜ、と悩む日々を過ごしている。 ある日「わたし」は思い立って母親のいない隙にこっそりと、「ママ」の化粧水やら美容クリームやらを顔に塗りたくった。 するとどうだろう、見紛うほどの美人に変身したではないか” 「醜い」の箇所を「ブス」、「するとどうだろう」は…
長期滞在者
年末に、写真研究家の鳥原学さんが「日本写真史」という上下巻の本を出版されました。幕末維新から2010年代初頭まで、日本に限定した写真の通史を綴るという今までには無かったテキストです。ぜひ皆さんも読んでみて下さい。鳥原さんは、ぼくよりも一回り年上で20年来お世話になっている方なんですが、あるときぼくに、写真以外の趣味を持つことを勧めて下さいました。 料理など特に良い、と言うのです。 先日この出版記念…
長期滞在者
岡山から関西国際空港へ向かうバスの中で書いている。 ちょうど一ヶ月前に、ベルギーを訪れていた世界的陶芸家のTさんの通訳兼アシスタントとして10日間の予定でうちを出たのだが、そのうち実家から母が入院したとの連絡が入り、急遽帰国を決め、出先からそのまま日本に来たのだった。 陶芸家のTさんとの出会いは、とても強力だった。あらゆる言葉が正直に語られ、あまりにも純粋であるがために、ぼくにとってそれらは時には…
風景のある図鑑
「分子シャペロン:Molecular chaperone」 人間の設計図であるDNAは、4つのアルファベット、A、T、G、Cで構成されているタンパク質のヒモです。 そのアルファベットの並びは3つで1組となっており、 1組には対応する1つのアミノ酸(タンパク質を構成する分子)があります。 DNAを読み取ることで、DNAに書かれた通りの並び方の「アミノ酸のヒモ」を作ることができます。 タンパク質には様…
長期滞在者
先日、母がブラジルへ一時帰国した。一週間ほどの滞在中に教員採用試験を受け、母方の祖父の見舞いを兼ねた帰国だった。この秋(ブラジルでは春のことになるが)、祖父が大腸がんを患っていることがわかった。ここ数年、あまり体調が良くなかった祖父だけれど、健康診断などでは特に異常はなく、心配しつつもおじいちゃんなら大丈夫だろうという、根拠のない確信を持っていた。だけど、祖父の病を期に、その確信がぐらりと傾いて…
長期滞在者
ちいさなころからずっと 身体と意識の焦点をはずすと見えてくる世界に夢中になっている その瞬間は 耳のなかに身体が吸い込まれていくような感覚から始まって 自分の中の音だけが鼓膜を震わせながら 世界を出たり入ったりしている 絶えず世界はまわる すぐにはそれがわからないくらい緩慢に そして突然高速で 光が ものが 熱が 私が 世の中のものの全てが 一瞬に溶け込み 混ざりあって 姿を変え 形を変える …
虫の譜
昨年の夏にさよさんが軽井沢から連れ帰って譲り受けたコクワガタが死んだ。 死んだというより、死なせたのだ。ふと嫌な予感がして虫かごのふたをむしり取るように開けてみると、もうおよそ命の気配が無いほどに全てがカラカラに乾ききっていた。枯れ葉も、底に敷いていた椰子殻のチップも、乾きすぎてふわりと浮きあがっているようにすら思えたし、穴のあいた切り株にセットしたマンゴーのゼリーは表面がひび割れていた。チップの…
呼吸
適当に見てください。 そのくらいが調度いいかと思います。 考えることが癖になると、疲れるんですよ。 だから時々、ぼーっとしたくなるわけですよ。 何も考えず、何を求めるわけでもなく。 ただその場に身を置いて、「居ること」を味わいたくなるわけですよ。 僕が意図的に撮らないものは、だいたいそんな”様子”になる。 今回の動画そのものだと、そう解釈しています。 いつも形になるまで、僕…