長期滞在者
『すいか日誌』 7月20日 すいかを買う。私にとってみればこれ位の大きさたやすいはずだと、たまに突然発生するお得意の根拠のない自信と共に2Lサイズを抱える。大きいのは冷えていないので、とりあえずすぐ食べる用にカットすいかも一緒に購入。 いっとう好きな食べ物はすいか。迷わずすいか。どうしようもなくすいかが好き。すいかがあるから夏を生きられるといっても決して過言ではない。 冷蔵庫の中段を外して、冷蔵…
当番ノート 第15期
新米に、触れる。 毎年、ドキドキします。 今年のお米はどうかな? 草みたいな味になってないかな? 水分量はたっぷりあるかな? 米粒が、大きいかな? 小さいかな? 新米を、食す。 これもまた、ドキドキします。 風味はいいかな? 弾力はあるかな? 割れ米はないかな? 毎年、最初の一口を食べる瞬間は、緊張します。 それが、これまでの田んぼ仕事の成果、すべてだから。 このお米を売りながら、一年間、家族が生…
虫の譜
小学3、4年のある晩のこと、得意げな笑みを匂わせた父が大きな段ボール箱を抱えて会社から帰ってきた。箱を開けて、私は分厚い眼鏡をずり落として文字通り狂喜乱舞した。中身はナントカ流の生花のように大胆に放り込まれた木の枝葉と、ガサゴソ歩き回るいっぱいのカブトムシとクワガタ。三重の山中に工場を構える取引先があり、その会社の社長さんからのプレゼントだった。夜になると、工場の灯火めがけてカブトムシやクワガタが…
当番ノート 第15期
ぼく達の住んでいた家の一階には一人の女性が住んでいた。 引っ越して来て始めの数ヶ月は挨拶を交わす程度で距離を置いた付き合いだった。彼女の部屋の前を通るといつも開け放した窓からEva Cassidy やSting のFeilds of Gold の曲がそよ風がレースのカーテンを揺らしながら流れ出る様に聞こえて来た。クチナシとイチジクのキャンドルを燃やす香りがいつもそこはかとなく漂っていて、何かスピリ…
当番ノート 第15期
先日、フラフープ仲間が「The Hooping Life」というドキュメンタリーフィルムの上映会を催してくれました。撮影されたのはもう5、6年前で、登場するのはフープダンス黎明期の立役者たち。現在もなお第一線で活躍するフーパーもいれば、すでに一線を退いて違うビジネスに乗り出している方も登場していました。 連載初回にも少し触れましたが、わたしが生涯の友と決めているフープダンスは、実は大変歴史の浅いも…
長期滞在者
年を食って物忘れが激しくなった。最近のことは忘れても案外昔のことほど覚えているものだというけれど、程度問題であって、昔のことでも記憶は混乱する。だったら「鮮明な記憶」というのはいつの時期ならあるのか、という話なのだが、もしかしたらそういうのはなくても人は生きられるのかもしれない。すべての記憶は薄れ拡散し組み替えられて改竄されて、ゆっくり霧に溶けるようになくなっていくのだろう。それでもときたま、霧の…
当番ノート 第15期
ジリジリと照らす、強烈な陽射しの八月。 暑さとともに、お米のうまみも増してきます。 日ごと、稲穂の色も変わってゆく。 暑さに耐えながら、草とりの日々。 台風におののき、強風やゲリラ豪雨にあわてふためき、害虫発生時は困り果て。 気温が上がらぬ冷夏や、日照不足の時は、田んぼの神様にお願いするばかり。 風にそよぎ、黄金色に実った 稲穂たちが波打つ。 ちゃんと実ってくれたこと、今年も収穫できること。 ひた…
当番ノート 第15期
Fair weather friends 〜直訳通りのお天気の良い時だけ都合良く遊びにくる友人家族がシドニーにカナダから遊びに来ていた。本当の友人はお天気の良い時も人生の嵐の最中、曇った日が続いてにっちもさっちも行かなくなった様な時も変わらずに側にいてくれるものだけれども、どの人がFair weather friendかと言う事 は自分を取り巻く環境が嵐に巻き込まれてみないとなかなか判別できない。…
長期滞在者
ぼくたちは、ぼくたちの時間や生活や人生を ぼくたちのものだと信じて疑わない。 でもそこは、やんわりと見えない蚊帳のような網の中で 自由に思えるように操作されているだけ、かもしれない。 自分の知り得る情報から、正しいを叩き出すことは間違ってはいないとは思う。 自分の知り得る情報など、ほんの微々たる物だという自覚を持たずしての結論は、間違っていないのかな。 ぼくの日常生活に、当たり前にあるはずの「美し…
当番ノート 第15期
その日は新宿御苑の事務所にこもっていたところ、野暮用でついと外に出て、また事務所に戻る途中、花園小学校の脇で地震に遭遇しました。 横を走っていた車がぐにゃりとハンドルを切って停車し、おやと思った瞬間に電信柱が風になびくススキのように揺れ、往来を歩いていた人びとが一斉に目の前の花園小学校の校庭になだれ込んでいきました。校庭から見ず知らずの人々と肩を寄せ合いながら眺めていた、コンニャクのごとく揺れるビ…
当番ノート 第15期
青々とした稲粒。 花を咲かせたあと、稲穂はどんどん栄養をたくわえて、実入りします。 八月初旬、田んぼは、一瞬、ぐっと静かになります。不思議なほど、しんとする。 しっかり実をつけるための時間。 農家は、淡々と、草をとって、水をみて、田んぼの世話をする。 写真をみると、波打つ緑は、とても涼やかなのですが、 実際、この時期の田んぼは、かなりハード。 ジリジリと照りつける陽射しと、脳が溶けるような暑さに、…
当番ノート 第15期
パンパンに張った二個のスーツケースを引きずりたどり着いたシドニー。まるでそこはテーマパークに迷い込んでしまった様な感じがする不思議異空間だった。圧倒的な白人文化が街中に溢れかえっていたものの、そこはアメリカとも違う、イギリスでもない、カナダとも何かが違った。ハワイに似ているのだけど、何故かぼくは空気の中にそこはかとなく乾いた鉄の赤さびが朽ちてゆく気配をいつも感じた。そんな中で唯一の救いはオーストラ…