長期滞在者
年越しは飛行機の中だった。大晦日の成田空港は案外空いていて、ちょっと拍子抜けしてしまう。 飛行機の中で迎える新年は日付変更線との追いかけっこで、「いままさに新年になった!」という実感はない。 だから大晦日の便は人気がないのかな。 案外いいものです。2019年と2020年が隣り合う世界を行き来するのは。 あけましておめでとうございます。今年もよろしくね。 1月10日(金) 帰国。長時間のフライトで身…
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
無地よりも柄ものが好きで、その結果、合わせにくい服ばかりがタンスに増えてしまう。ベーシックな無地の洋服は万能。ファッション雑誌には着回し、3 way、スタンダードという言葉が踊る。そういう服はあらゆる場面にも着ていけるだろう。でもあらゆる場面っていつのことで、何回くらいあって、どれくらい心踊るだろう? 好みの柄は目にした瞬間から私を喜ばせてくれる貴重な存在だ。そして、複数の色づかいが幸せを感じさせ…
当番ノート 第49期
君が跡形もなく居なくなった生活はかなしさよりも日常の坂道を転がり続けることだった。損失、そこなう、底無しの幸福のコロニーの中、朝日で部屋に浮かぶ薄い埃たちが輝いてスローモーションのスノードームのように。 幸福の象徴は波風のない日々が続くこと 愛してるって偶像の中、幾度も輪郭を確かめて、君の鼻のかたち、唇の縁取り、37度程度の体温、孕めたかなしみはありもしないもの 鬼さんこちら、手の鳴る方へ 囃し立…
当番ノート 第49期
朝が苦手というよりは、夜のことが好きすぎるのかもしれない。人びとがみな寝静まっていて、気配がない。守られた部屋の中で、この惑星の中でたったひとり、わたしだけが起きているような錯覚。朝よりも、昼よりも、自由をゆるされているようにもおもえる。わたしをとがめるすべてのものも、きっと眠っているような気がするから。 家で仕事をするようになってから、前よりももっと起きるのが下手になった。身体がベッドの底に沈ん…
当番ノート 第49期
あたりまえがあたりまえになったのって、いつからだった? *** ふと、すごくびっくりした。 「心のなかで何かを思ったり考えたりしてるとき、内側で話している声は、どこから聞こえてくるんだろう」 初めてこのことを不思議に思ったのは、たしか幼稚園生くらいの頃だったと思う。 「ねえ、鹿ちゃんはしゃべってないのに、鹿ちゃんにだけ鹿ちゃんの声が聞こえるのは、なんで?」 「それはね、鹿ちゃんが心のなかで『思って…
当番ノート 第48期
2か月間続いた「当番ノート」を通して私は、公の場ではじめて、インド音楽に関する自身の体験や視点、考え方を言葉で表現した。 この音楽を習い始めて日が浅い私にとって、それは大きな挑戦であった。知ったかぶりで音楽について語ることは、師匠やそのまた師匠たちにも、真剣に音楽をやっている人たちにも、音楽そのものに対しても、無礼に当たると思ったから。 それでも、今の自分に書けることを文章にしてみようと決心したの…
当番ノート 第48期
前回までのあらすじ 大いなる王の遺産を巡るROXの冒険は最終局面を迎えていた。覇王龍道拳の免許皆伝となったROXは師であるジャッキーのもとを訪ねる、するとそこにはジャッキーの変わり果てた姿があったのだ。そこには血染めのダイイングメッセージが。「楊チェンに気をつけろ」ジャッキー最後の言葉を胸に秘め、怒りに震えるROXはチェン打倒のため上海へ向かう。そしてチェンと対峙、いよいよROXの長きに渡る冒険に…
長期滞在者
年末の帰省に合わせて、和歌山県新宮市を1泊2日で訪れた。中上健次の枯木灘の世界に少しでも浸かることが目的だった。 12月26日の夜、東京から夜行バスに乗り、早朝名古屋に着く。 名古屋駅の構内はどこも店が空いておらず、5時半に開店するマクドナルドの前には長蛇の列。外は中々の寒さでコーヒーが飲みたくなったので、私も並ぶ。何をするでもなく1時間ほど店に滞在して名鉄バスセンターへ向かう。 事前に計画してい…
当番ノート 第48期
これまで、主に私自身の経験を例に挙げながら、インド音楽を学ぶにあたり、師を絶対的に信頼したうえで師から直接教えを受けとることの重要性について陰に陽に何度か言及してきた。 良い師に出会うこと、そして師と持続的に良好な関係を築くことはとても難しい。すべてを委ねることのできる師が存在し、不安や不満を感じることなく練習に集中することができるというのは、本当に幸せなことである。 「グル・シシュヤ・パランパラ…
長期滞在者
心の中がクリアでなければ先のことなど見えないと思っていた。 2019年11月23日、24日、私は東京国際フォーラムB7・B5で開催された日本最大級のデザインカンファレンス「DesignShip2019」で司会をしていた。デザイナーたちの様々な物語が語られた2日間のトリのKeynoteスピーカーとして登場した、レイ・イナモト氏。ニューヨークを拠点に世界を舞台に活躍しているクリ…
当番ノート 第48期
こんにちは映画好きな皆さん。僕です。ロックスです。ところで皆さんの中にはきっと月に何回も映画館に行く、という方も多いはず。映画館という箱は21世紀になっても、「携帯はオフ」「話すな」「静かにしてろ」「トイレいくな(行ってもいいけど行きづらい)」、およそ120分間、五感をすべてスクリーンに集中し、一つの作品に没頭できる、そんな唯一無二の箱でございます。 映画館で映画を観るのが好きな方なら一度は「映画…