当番ノート 第47期
久しぶりに実家に帰る。意識的に街を見回すと、少しずつ建物が入れ替わっている。 西友の前にあった駐車場持ちの広いサーティーワンは、半年前ほどにマンションのモデルルームになっていてビックリした。なくなってしまったかと思ったら、隣の隣の隣、二回りほど小さなテナントに移転していた。ただでさえ多かった美容室は、最近また増えている。 更地がある。前にそこに何の店が入っていたか、思い出せない。随分前になくなって…
当番ノート 第47期
言葉を使ってものごとを伝えようとする時に、わたしたちは無意識のうちにそこに「時間」を読み取っている。 さしだされる言葉のまとまりは、時間軸を過去から未来へと進める。少なくとも読み手は、意識をしなければ自然とそのように理解をして読み進めていくだろう。事実、こうして文章を読んでいる間にも時間は進んでいる。細胞の分裂や生命の呼吸と、言葉という存在は近しいものなのかもしれない。 文章には、「文節」や「単語…
当番ノート 第47期
無知は、生きづらさを作る。 「そんなことは、あり得ない」 そう大人は言うけれど、果たして本当にあり得ないかどうかなんて 世界の誰もが全く知らないことだ。 「そんな人は、どこにもいない」 そう大人は言うけれど、果たして本当にどこにもいないかどうかなんて 発言した人は全く知らないことだ。 本当は、ここにいるのに。 僕はそうやって、息を止める人生を過ごしてきた。 誰かの真似をするように、そっと息を潜めて…
当番ノート 第47期
アパートメントに入居してからもう少しで1か月、 今週は、アパートメントの管理人さんや親友と相談して、 振り返るのを少し休憩することに。 うちのシェアハウスでは、たった今まさに、 nちゃんがこたつコードを押し入れの隅から掘り当てて、 こたつをONしたのでぽかぽかしています。 昨日は糺の森でマーケットがあって、 ミトン型のほかほかの手編みの手袋に出会えて、うれしかった。 もう冬支度。 冬支度、と聞くと…
当番ノート 第47期
駅前のファーストフード店には、喫煙席がまだ残っていた。「ランチタイムは禁煙」という扱いにはなっていたものの、ガラス戸で仕切られたそのエリアには常に見えない煙が充満しているからか、お昼時は滅多に客の入らないスペースになっていた。あの日はそこに珍しく、一人の母親と一人の娘が座っていた。 母親は一番奥の窓側のソファ席に腰かけ、手鏡代わりのスマホを覗き込みながら、入念に眉を整えている。その向かい側の大…
当番ノート 第47期
人で賑わう東京のハロウィン。 今年は10月31日が平日だから、一番近い土日のタイミングでハロウィンを楽しむ人が多かったらしい。 なんだそれ、という感じもする。だってハロウィンはハロウィンの日にやるからハロウィンなのであって、云々。 けれど、人間という生き物は思った以上に適当で、勘違いや思い込みも多い生き物だ。 どんなに真剣に取り組んだところで、たとえばハロウィンというものについて及ぶ理解だって、本…
当番ノート 第47期
死にたい気持ちを抱え続けることほど、しんどいものはない。 「こんなにも幸せなのに、まだ死にたいと思うんですか?」 あぁ、そうだよ。 何でだろうな、幸せって誰が決めてくれるんだっけ。 質問の意図もわからないまま、僕はぼんやりと答えている。 「だって、いつも薄っすら自殺志願者ですから」 自殺を考えるのは、明確な理由がある人だけじゃないと思う。 僕のように、無性に死にたくなるような人だっている。 何故か…
長期滞在者
「1億出資したいから、5分以内に返事くれへんか」 2週間ドバイに出張してきた。 ドバイは自国民(通称:エミラティ)が10%しかおらず、大多数が海外からの労働者。 若い男性が占める割合がとにかく高いいびつな人口構造で、街を歩いていてもそれを感じる。 そして、次々に高層ビルが建てられる環境下で暮らしてきたエミラティにとって、”成長”は当たり前。現状維持なんて、貯金…
当番ノート 第47期
誠とのことについて思い出そうとすると、呆然となる自分がいる。 もの凄いたくさんのことがあるのに、頭の中にロールスクリーンがたくさん張られているようで、もどかしくて辿りづらい。 けれど、苦労しても思い出すことが出来ないのに、音楽を聴いていると唐突に感情、光景、香りまで脳内に蘇ってくることがある。時々、思い出したくないことまで思い出されてしまって、慌ててて曲をスキップさせる。 音楽だけではない。香りや…
当番ノート 第47期
ついたちは 月に一度のおたのしみ 6時主婦 掃除洗濯御飯の支度 7時家内 愛し夫を起こして給餌 8時愛妻 モナリザの笑みで御見送り すまない、今日も残業で遅くなるよ わかりました、いってらっしゃい 鏡よ鏡 私は鑑 あと14610日間 続き続けるルーティーン 9時外出 財布とエコバッグとハンカチを持って 平日午前中の映画館はガラガラ …
長期滞在者
UNHCRを通して難民支援を始めてから、毎年秋のこの時期は、難民をテーマにした映画祭に参加している。 最初は観客の一人として映画を観に行っていたが、ここ数年は会場での司会、上映後トークイベントの司会に加え、 字幕翻訳者のみなさんや、映画祭を応援してくれている著名人のインタビュー記事の執筆など、 映画祭と長い時間を密接に過ごしている。 これまで13年間行われていた「UNHCR 難民映画祭」は、今年は…
当番ノート 第47期
「恋」や「愛」というものは、きっと人の数だけ存在している。 「交際」や「結婚」の形も、きっと一枚面(おもて)を剥がせば多様なはずだ。 ここ数年、「好き」とか「付き合いたい」とかの意味がいまいちしっくりこない期間が続いていた。 別に仲良くするには友達でも成り立つし、セックスがしたいならそれだけの関係でも成り立つ。「結局は独占欲みたいな話なの?」という論にはすぐにたどり着くけれど、それでもいまいちしっ…