当番ノート 第47期
秋だな、と思う。 勢いを増してきた食欲、重さを増してきた布団。 ハラリと落ちるのは紅葉、フワリと浮かぶのは鱗雲。 冬だな、と思う。 在学中の通信制大学は、後期が始まった。 今は4年生だから、最後の授業が始まっていく。 「最後」と聞こえはいいものの、単位が取れなければ卒業は先延ばしだ。 大丈夫だろうか、ふとそんな自分の声が聞こえる。 徐々に、沼は凍っていく。 人々は寒さを耐え凌ぐために、人恋しいと嘆…
お直しカフェ
今も覚えている、幼い頃の一番最初の記憶は何だろうか。3つ下の弟がまだいない頃だから2歳とちょっとか、マンションの4階に住んでいて、夜になるといつも寝室とリビングの境の壁に母と一緒にもたれて本を読んでもらっていた。ある夜その壁の近くで、何だったか、私はとても叱られていて、でも一連のやりとりの最後に、「だけど、物を大事にするのはいいことだから、そこは偉かったよ」というようなことを言われた。何だったか、…
長期滞在者
10月最後の週末、ヨーロッパが冬時間になった。 日本との時差は7時間から8時間に戻った。 毎年のことなのだけど、ついに来たか、と言う感じ。 ここから約半年はどれだけ多く陽の光を浴びられるか、 ビタミンDを摂取し続けられるか、 体調を管理しながら気力を保持し続けられるか、 心楽しくいられるようなことを考え続けられるか。 ここ数年は冬時間に戻る度にそういったことを 工夫し続けるのが恒例になっている。 …
当番ノート 第47期
1994年の9月、妹が生まれた。 私は小学校3年生で、夏休みが終わってすぐの土曜日。 私と2つ下の妹は、いつも別に暮らしているおばあちゃんに起こされた。 まだ生まれてないよと言われて朝ごはんをのんびり3人で食べてから、 おばあちゃんの車で隣の町の病院まで行った。 病院に着くと、まだ名前がない、初めて見る赤ちゃんがいた。 妹が生まれてくるまでの日、赤ちゃんがお母さんのお腹の中を蹴るのをさわらせてもら…
当番ノート 第47期
久しぶりに実家に帰る。意識的に街を見回すと、少しずつ建物が入れ替わっている。 西友の前にあった駐車場持ちの広いサーティーワンは、半年前ほどにマンションのモデルルームになっていてビックリした。なくなってしまったかと思ったら、隣の隣の隣、二回りほど小さなテナントに移転していた。ただでさえ多かった美容室は、最近また増えている。 更地がある。前にそこに何の店が入っていたか、思い出せない。随分前になくなって…
当番ノート 第47期
言葉を使ってものごとを伝えようとする時に、わたしたちは無意識のうちにそこに「時間」を読み取っている。 さしだされる言葉のまとまりは、時間軸を過去から未来へと進める。少なくとも読み手は、意識をしなければ自然とそのように理解をして読み進めていくだろう。事実、こうして文章を読んでいる間にも時間は進んでいる。細胞の分裂や生命の呼吸と、言葉という存在は近しいものなのかもしれない。 文章には、「文節」や「単語…
当番ノート 第47期
無知は、生きづらさを作る。 「そんなことは、あり得ない」 そう大人は言うけれど、果たして本当にあり得ないかどうかなんて 世界の誰もが全く知らないことだ。 「そんな人は、どこにもいない」 そう大人は言うけれど、果たして本当にどこにもいないかどうかなんて 発言した人は全く知らないことだ。 本当は、ここにいるのに。 僕はそうやって、息を止める人生を過ごしてきた。 誰かの真似をするように、そっと息を潜めて…
当番ノート 第47期
アパートメントに入居してからもう少しで1か月、 今週は、アパートメントの管理人さんや親友と相談して、 振り返るのを少し休憩することに。 うちのシェアハウスでは、たった今まさに、 nちゃんがこたつコードを押し入れの隅から掘り当てて、 こたつをONしたのでぽかぽかしています。 昨日は糺の森でマーケットがあって、 ミトン型のほかほかの手編みの手袋に出会えて、うれしかった。 もう冬支度。 冬支度、と聞くと…
当番ノート 第47期
駅前のファーストフード店には、喫煙席がまだ残っていた。「ランチタイムは禁煙」という扱いにはなっていたものの、ガラス戸で仕切られたそのエリアには常に見えない煙が充満しているからか、お昼時は滅多に客の入らないスペースになっていた。あの日はそこに珍しく、一人の母親と一人の娘が座っていた。 母親は一番奥の窓側のソファ席に腰かけ、手鏡代わりのスマホを覗き込みながら、入念に眉を整えている。その向かい側の大…
当番ノート 第47期
人で賑わう東京のハロウィン。 今年は10月31日が平日だから、一番近い土日のタイミングでハロウィンを楽しむ人が多かったらしい。 なんだそれ、という感じもする。だってハロウィンはハロウィンの日にやるからハロウィンなのであって、云々。 けれど、人間という生き物は思った以上に適当で、勘違いや思い込みも多い生き物だ。 どんなに真剣に取り組んだところで、たとえばハロウィンというものについて及ぶ理解だって、本…
当番ノート 第47期
死にたい気持ちを抱え続けることほど、しんどいものはない。 「こんなにも幸せなのに、まだ死にたいと思うんですか?」 あぁ、そうだよ。 何でだろうな、幸せって誰が決めてくれるんだっけ。 質問の意図もわからないまま、僕はぼんやりと答えている。 「だって、いつも薄っすら自殺志願者ですから」 自殺を考えるのは、明確な理由がある人だけじゃないと思う。 僕のように、無性に死にたくなるような人だっている。 何故か…
長期滞在者
「1億出資したいから、5分以内に返事くれへんか」 2週間ドバイに出張してきた。 ドバイは自国民(通称:エミラティ)が10%しかおらず、大多数が海外からの労働者。 若い男性が占める割合がとにかく高いいびつな人口構造で、街を歩いていてもそれを感じる。 そして、次々に高層ビルが建てられる環境下で暮らしてきたエミラティにとって、”成長”は当たり前。現状維持なんて、貯金…