長期滞在者
一眼レフというものをはじめて触ったのは高校生の頃である。 僕は演劇部に所属していて、その舞台写真を写真部の友人にお願いした。そのときにその友人のカメラをちょっと触らせてもらったのである。それまでカメラに何の興味もなかったから、一眼レフカメラとは何ぞやということも知らずにファインダーを覗いた。 万華鏡のようだった。 たまたまその友人のカメラのピントがそのとき至近距離になっていて、普通に覗くとファイン…
当番ノート 第47期
生きづらさは、時に自分から、他人から、与えられるものだったりする。 人はいつだって、何かしらでマイノリティを抱えている。 多数派が正しいと見える世界で、同調圧力ほど少数派を苦しめるものはないだろう。 絶対的な正解も、絶対的な常識も、そんなものはどこにもないのに、どうして人は、白黒はっきりとしたがるんだろう。 多数派が選ぶものは、少数派にとっては理解し難いものなのかもしれない。 少数派が選ぶものは、…
長期滞在者
少し前に福岡のホテルフェアに参加してきました。ホテルのワンフロアーを貸し切りにして、ひとつひとつの客室に各地から集まってきたギャラリーがそれぞれの部屋の中で自分たちの扱っている作品を展示します。お客様にとっては、一度に沢山のギャラリーを回ることができますので、アートには関心があっても、どこのギャラリーに行けば良いのか全然わからない人でも、このイベントに来れば、一度に沢山のギャラリーと作品に出会うこ…
当番ノート 第47期
先週、白川通のちょっと裏にある雑貨屋さんに立ち寄ってみた。明るい座敷に仔猫がいて、猫好きな私は思わずお店の方に声をかけた。 ケージから出たそうにしてニャーニャー鳴いている。 何か月ですか、と聞いてみたら、「生後4か月で、引き取って来て3週間なんです」と教えてくれた。 そしたら急に涙が溢れてきてしまった。自分で驚いて、とっさに息を詰めて涙を堪えた。 すごい元気そうな仔猫だし、とても大切にされているこ…
Mais ou Menos
Pちゃん 気がつけば、もう10月。2019年も、もうあと2ヶ月ちょっとか…。冷静になると、時間のはやさに腰を抜かしそうになる。 10月に入って、Pの心身の体調が乱れてきたのが心配です。冬が苦手だから、仕方ないとは思いつつ、つらそうにしているのを見ていると、心が張り裂けそうになります。でも、つらいなりに、生活リズムを整えるために、いろいろ考えて対策していることを知って、すこし安心した。苦手な季節って…
当番ノート 第47期
月末の金曜日なんて、いつもなら月次決算に向けたデータの整理やらで残業待ったナシなのに、あの日は経理部全員が16時に退社させられた。プレミアムフライデーというやつが初めて実施された日だった。課長は終日「後でしわ寄せくるだけなんだけどなあ」とぼやいていた。 大手町から丸の内線に乗り込み、20分ほど揺られ、地上に出た。まだ薄っすらと明るい夕方の新宿は、浮足立った会社員たちで賑わっていた。居酒屋やバル…
当番ノート 第47期
以前から、わたしは「モールス信号」というものが気になっていた。 元来は可変長符号化された文字コード。単音だけ、あるいは光の明滅のみで言葉を伝える手段。SOSを伝えるために使われたりもするという、言葉の形を持たない言葉。 日本の平成の時代に生まれたわたしには、これまで一度もモールス信号との接点はない。けれど、その普遍性のようなものにひどく心惹かれる自分がいた。 国を超えて、時を超えて、その単調な調で…
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
今まで知らなかった国に友だちができた途端、そこは自分にとって「友だちが暮らす場所」になる。その変化が自分のなかで起こる度に世界中にいろんな国があって、いろんな文化があって、違いがあることや共通点が見つかることは素晴らしいことだと感じる。 同時にニュースで聞き流していた悲惨さが現実であることも、また全くニュースとは異なることも知ることになる。知ることは素敵なことばかりではないけれど、それでも友達が暮…
当番ノート 第47期
外は、大雨だ。おまけに雷も鳴っている。 大きく息を吸い込むとき、気管支が詰まったように、ひゅー、という音が聞こえることがある。 ごくわずかに喘息を持っているのだけど、それとは別に、息苦しさを感じるときがある。 何年も前のこと、僕はこの世界が灰色に見えていた。 ようやく色が着き始めて、彩色が薄ぼんやりと見えるようになってきた。 息も出来ないほど苦しかった灰色の世界は、何回息を吸っても上手く酸素を取り…
長期滞在者
絹江ちゃんについて話そう。 絹江ちゃんはいわゆる大手企業で働くバリキャリウーマン。仕事ができるだけではなく、話すと独特の目線で愛のムチを叩いたり、誰も想像できないような鋭い切り返しをしたり。しみじみ、この家に住まなかったら出会わなかったタイプの女性だろうな、と思う。 彼女とは25歳の頃から数えて約7年(!!)も住んでいたわけで、よく恋愛の相談に乗ってもらっていた。25歳からの恋愛といえば、もう10…
Do farmers in the dark
表題:逆さ吊りになった友人と話す居心地の悪さよ。どうにか正位置に戻してあげたいけど、私には無理だ。私も、後ろになんかゴツいものがあって、それが後頭部にいつ叩き込まれるか心配なので。 こんばんは!今回は、前に途中になってた漫画を描こうと思ったのですが、脳が諦めてしまい描くことが出来ず、4コマみたいな漫画だったら描けるかなと思いまして、精一杯やれるだけ描いたのですが酷いありさまでした。そ…
当番ノート 第47期
大学3年生になる前の春休み、私は運命の出会いをした。 同じサークルのF田に誘われて、先輩と3人で鍋パーティーをした。みんなの噂では最近失恋をしたばかりらしい、いっつもpaul smithを着て、赤いFITを乗り回している、車椅子の、石井誠という先輩。それから、頻繁に何度か遊んだりまた鍋をしたりして、大した駆け引きもなく、とても自然に私と石井誠は一緒に暮らすことになった。私にとっては初めてのお付き合…