当番ノート 第45期
2020年のオリンピック出場をかけた戦いが日々繰り広げられ、スポーツニュースが賑わっている。かく言う私も自己新記録を樹立した。ここからはスポーツをした人の話ではなく、これまで一切スポーツをしてこなかった人間の悲しい懺悔であるので、心して聞いた後は速やかに忘れてほしい。 自己新を出したのは体重。 ついこの間、健康診断に行ってきた。自分の体の現状を知るのが年に1度の健康診断と、その後通告される二次検診…
当番ノート 第45期
子どものころから、大人の人がコーヒーを飲みながら仕事をしたり会議をしたりするのがかっこいいなあとよく思っていました。なにかの合間にたまにひとくち、コーヒーを飲むというのは、さぞかし気分が良いものなんだろうなぁ、と。 でも、大人になって、コーヒーっておいしいなって思うようになって、パソコン作業やイラストを描いているそばにコーヒーのカップを置いたりしてるんですけど、なにかをしながらコーヒーを飲むってい…
長期滞在者
ぼくは珍しく、 とても怒っている。 おそらく、 51年半の人生の中で一番怒っている。 何人かその怒りの対象になっている 具体的な人物はいるのだけど、 その一番の対象はぼく自身だ。 二ヶ月前に母が亡くなった。 突然の死。 だった。 少し体調が悪いとか、 親父が残した借金のためにあまり生活に余裕がないとか、 最近はあまり人付き合いもなく引きこもっているとか、 両足の血管にたくさんの血栓が見つかったとか…
当番ノート 第45期
いらっしゃいませ。 ここはアパートメントの中にある日常の非常口「ヴァーチャルスナック・モモコ」へようこそ。 ありきたりのどこにでもあるような路地裏スナックよ。 私は店長のミス・モモコ。 今日も人生綱渡り!楽しんでいってね! 綱渡りといえば、最近闇営業で逮捕された芸人さんたちに比べれば私たちは「なんて恵まれた暮らしをしてるんだろう」って思わない? だって芸人として、働けど働けど某お笑い事務所に収入の…
当番ノート 第45期
今年に入って大事な仕事の兼ね合いで19歳の女の子と知り合った。一歩間違ったら娘でもおかしくない気さえしてしまう程、私からしたら生まれてきた時代も生きてきた次元もまるで違う彼女は、周りの大人達から、ありのままを大切にされてきたであろう育ちの良いお嬢さんで、とても好感を持てたのだけど、さすがに10代の女の子との共通項は中々みつけづらく…… そんな時に私がよくする質問が「好きなアーティストってなに?」な…
当番ノート 第45期
ある日のこと。ありがたいことに絵のお仕事がひと段落したので、私はいつものカフェで請求書を作っていた。 PCとスマホの電卓アプリを交互ににらめっこしていたら、向かいに座って同じく仕事をしているS氏が怪訝な顔をしている。 「何やってるんですか?」 「請求書作ってるんだけど、ギャラリーと作家で按分比が決まっててさあ。計算が難しいんだよね」 「へえ、そういうものですか」 「んんん」 「まだやってるんですか…
当番ノート 第45期
あんまり普段からささやかな幸せをほんわかと感じられる体質でもないので、嬉しいことが起こりそうだと、この機会を逃してはならないといろんな手段で底上げをする癖があります。 なんていうか、ポテトチップスを食べていて、そろそろのどがかわいたから飲み物が飲みたいな、って思ったときに、ぐっとこらえて塩気の限界がくるまでポテトチップスを食べたりしています。ポテトチップスを食べること自体はもう結構どうでもよくて、…
長期滞在者
金曜日から出張でシンガポールに滞在している。 昨日は休みだったので、The Projectorというシンガポールでおそらく唯一のミニシアターに足を運び、映画を見た。 このProjector、映画ファンの心をくすぐる内装のミニシアターで、こりゃ何回も通いたくなるような場所であった。 (改めて上の写真を見返してたら、女子トイレはどんなポスターやったんやろうかと気になってくる…
当番ノート 第45期
いらっしゃいませ。 ここはアパートメントの中にある小さなお店「ヴァーチャルスナック・モモコ」へようこそ。 ありきたりのどこにでもあるような路地裏スナックよ。 期間限定でオープン中! 私は店長のミス・モモコ。 また来てくれてうれしいわ〜 こんなに暑かったら焼き鳥を片手にビールをグイッといきたいわね〜! この暑さなので、おへそを出したティーンエイジャーが狂い出す「渋谷」の話でもしましょうか。 今日は渋…
長期滞在者
ハンドルの曲がった速い自転車に乗りはじめてから、風のことを意識するようになった。そよそよと頬で感じるくらいの風でも、真向かいから吹いてくると、ペダルを回す足には力が入っているのに、いつものようなスピードがでない。逆に、なんだか今日は調子が良いぞ、とすいすい進むときは、たいてい追い風が吹いている。窓を閉めていてもビューと音が聞こえるような向かい風の日には、歩くのと変わらないのではないか……というくら…
長期滞在者
〈下図版:ロンドンの出版社・Mackがオフィスを構えるエリア、ドラゴンフライ・プレイス〉 6月某日。アムステルダムはスキポール空港から50分のフライトで、ロンドンはスタンステッド空港に降り立った。 今回の渡英は、ほんの5日前に決まった。 ロンドン発のアート写真集出版社として世界に名を馳せるMackから深瀬昌久の写真集『家族』新装版を出版する話を取り決め、図版データの受け渡しや新たに掲載する跋文執筆…
当番ノート 第45期
彼女との出会いは不思議なものだった。去年の暑い日、予報を裏切る小雨。私はついさっきまで 無機質な関係の相手と、いつもの場所で、いつもの事を終え帰るだけの平日の夜を過ごした後、決まって立ち寄るいつもの店で、いつものカフェオレを頼んで、いつもの曲で耳を塞ぎ、いつもの席で儀式みたいにボーッとしていた。全ていつも通りだった。 時、 バタバタと誰かが店に入ってきてビールをカウンターで頼み、スタッフから奪い取…