当番ノート 第42期
12月6日は、フィンランドの独立記念日だ。今年は独立100周年だった去年ほど大げさな祝いはなかったが、毎年大統領公邸で舞踏会が開かれ、その舞踏会のテレビ放送が毎年一年のテレビ番組の中で最高の視聴率を収める。大統領夫婦が次々とやってくるお客と握手するシーンが永遠まで続く割ともつまらない番組であるが、フィンランド人の多くにとってお菓子やおつまみを食べながら招待された政治家やスポーツ選手、外交官やアーテ…
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
大学生の頃、旅に出ることだけが本当に魅力的で、ほとんど大学にいない大学生だった。ユースホステルを渡り歩く贅沢をしない旅行でも旅費はそれなりに掛かるのもので、私は3つのバイトを掛け持って旅費を貯めた。 ただ、稼ぐという点においては非効率な職場ばかり選んでいたように思う。食堂の給仕兼洗い場と寂れ切った居酒屋の接客、そしてポストカード専門店の販売スタッフ。このなかで1番好きだったバイトがポストカード屋さ…
当番ノート 第42期
てくてくと歩く私のよこを新宿行きの準特急電車が走り抜けた。 都心から電車で1時間弱、山と川に挟まれたこの静かな町にアパートを借りたのは今年の夏のことだ。それまで私は部屋をもたない旅人生活をしていた。ダンサーという職業の都合上、どこにいってもホテルが用意されていたから、部屋を借りる必要がなかったのだ。全財産を詰め込んだスーツケースを片手に、世界中の劇場と空港を巡る日々。ツアーがない時期は友人や恋人…
当番ノート 第42期
はじめて、はじめて好きな人の家に上がるときの気持ちのようです。真新しく、真っ白な靴下を選び、お気に入りの香水をほんのすこし香らせて。お行儀良くできるだろうか、いや、素顏を見せていきたいな、なんて交互に巡らせて。 そう、なんといっても、 ここは「アパートメント」なのです。 ・・・ はじめまして。当番ノート42期のヨシモトモモエです。 毎週火曜は私のお部屋で、のんびりしていきませんか。 27歳・実家暮…
当番ノート 第42期
昨日、バルコニーへクリスマスライトを付けた。9月に入居したこの部屋にはまだカーペットもカーテンもないのに、日がどんどん短くなっている中、このクリスマスライトはどうしても必要な気がした。 私は今年の8月、1年間程住んでいたアルゼンチンからフィンランドへ帰ってきた。アルゼンチンはインフレが酷く、そもそも低かった給料で生活するのは難しくなっていたし、当時の彼氏との同居もお互いに息苦しくなっていたので、帰…
長期滞在者
わたしは服をつくるのが好きだ。事実、日常的に身につけているワンピースは、すべてミシンを踏んでつくったものだ。服をつくると、心底楽しいし、わくわくする。服をつくる前の工程も楽しい。何色の、どんな布で作るか、どんなアレンジをしようか、どんな風にしたらより似合うものになるのか、考えを巡らせることは、なんとも言えない幸福感を与えてくれる。 それに、自分自身の技術が少しずつ上達していくのがわかるし、自分にと…
メニハ ミエヌトモ
シュトレンを作る季節がやってきた。 我が家はキリスト教ではないけれど、クリスマスを待ちわびて1日一切れのシュトレンを食べる、という行為が大好きだ。 娘が通っていた幼稚園がたまたまカトリックの幼稚園だったのだけれど、その時にクリスマスがどれほどキリスト教にとって大切な行事なのかを垣間見る事が出来た。 12月に入ると毎日家でもお祈りをして下さい、とキャンドルとお祈りの言葉が渡され、(残念ながら我が家で…
当番ノート 第41期
旅の途中だなと思う ヨーロッパに来て10年近くになる でもずっと旅を続けているような感覚だ ベルリン リスボン マデイラ島 チェスケーブデヨビチェ コンスタンツァ 次はどこへ行こう ベルリン 何かが生まれるような雰囲気の街だった リスボン そこにいるだけでワクワクする場所だった マデイラ島 いつも隣に海があった チェスケーブデヨビチェ 大事な友人ができた コンスタンツァ 何かを探している途中
当番ノート 第41期
東京生まれ東京育ちということが、ずっとコンプレックスだった。 こんなことを書くと、何を贅沢な、と思う人もいるかもしれない。でも実際にそうなのだ。 わたしが2歳から23歳までを過ごした家は、東京のなかでは郊外に当たる町田にあったということも、多少は影響しているだろう。書評家をしているわたしの友人が、かつてこう言ったことがある。 「世の中には、田舎に縛られている田舎者と、田舎を捨てて根を持たなくなった…
ギャラリー・カラバコ
今日の満月は雲の向こうに蒼く見えている。 あんなに高いところにある雲は、氷の粒だろう。 うっすら透けた月は甲殻類の背中みたいだ。 月にはうさぎがいるというけれど、そこには何が書いてあるのか。 昔のひとはその模様を読み取って、未来のことを占ったのではなかったか。 いや、それは亀だったかもしれない。 夜気を拭い取るように、ギャラリーの扉を開けた。 〈前回までの展示〉 『縫い目』 『つむじ』 『鏡』 『…
長期滞在者
若い頃自分に期待していたようには、どうやら僕の感覚というのは鋭敏でも特殊でもなくて、きわめて凡庸なものであるということを悟った(ようやく最近 笑)のだが、きわめて普通の人間である僕が、写真みたいなものを撮る意味があるのだろうかと自問したときに、凡庸であるということは、実はけっこう写真にとって必要なものではないかと気づいたのである。 僕がキレッキレに鋭敏で奇矯で天才的な感覚の持ち主であったとして、そ…
長期滞在者
UNHCRの首席報道官のメリッサ・フレミングが来日した。 彼女はこれまでTEDに出演し、 2014年に「ただ生き残るだけではなく、難民が豊かに生きる手助けを」、 2015年には「500人の難民を乗せた船が海に沈んだ―2人の生存者の物語」を語った。 2018年11月14日、彼女の話を直接聴くことができる機会に呼んで頂いた。 この時に話してくれたストーリーは、シリア難民の19歳の女性、ドーハの物語だっ…