画家と7人の肖像
最後の肖像画はここに載せない。彼女とそう約束している。 Photo by Kazuki Hiro 4月、展示会場に来た人達だけが、最後の肖像画が誰のものなのか知ることになる。一つヒントを書くと、きっとみんな彼女の歌を知っている。この肖像画の制作中に参列した友人の結婚式でも、彼女の曲は演奏された。「今この声の人を描いているんだな」などと、一人密かに感慨を噛み締めるなどしていた。 最後のモデルの方の制…
画家と7人の肖像
宇宙の湖畔に根を張って咲いている。 深い、底知れぬ闇の湖だ。 蓮は、泥水の中で根を張りながら水面に透明感を放つ。 「泥中の蓮」とは、どんなに汚れた環境に根を張ろうとも染まらず、清く生きる様のことをいう。 美しい人はどんな苦境に立とうとも、腐らず咲き誇っている。 Photo by Kazuki Hiro どんなイメージでSUGIZOさんの肖像画を描くかということについて、私はこの企画を始める以前に彼…
画家と7人の肖像
自分が好きで仕方ないものを、必ずしも人類全員が好きなわけではない。 自分が素晴らしいと信じているものが、必ずしも評価されるわけではない。 そんな当たり前のことに、未だハッとさせられる。 Photo by Kazuki Hiro 嫌いなものが同じ者同士の方が仲良くやっていけるなんて説もあるが、許せないものを共有する一時の結束より、好きな世界観を共有する付き合いが多くなった。今のところ体現しているのは…
画家と7人の肖像
地球と月ですら年に3cmずつ離れているのだから、きっとこの世には変わらない距離なんて無いのだろう。 Photo by Kazuki Hiro 今回の制作の「終着点」にはギリギリまで葛藤があった。 あれこれ考えるより始めてしまわなければわからないことの方が多い。ラフ画を元に完成の話をするのが苦手だ。ほぼ完成に近い状態、もしくは完成形を用意して初めて議論されたい。過程でああだこうだ言われ、時に「それっ…
画家と7人の肖像
彼はきっと、あっという間に「知らない人」になる。 Photo by Kazuki Hiro このコラムを打っている最中、私は31歳になった。 ロンドンの15時に日本は24時を回り、私より先に私の誕生日を迎えた人たちから次々とお祝いの言葉が届いた。23時59分、送信ボタンに手を触れぬよう秒針を見つめる、あの1分間を知っている。誕生日の祝いは、私という存在が彼らの日常に忘れられていない証拠のようで愛お…
画家と7人の肖像
例えば、ルノワールが描いたイレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢の何を知っている? Photo by Kazuki Hiro あなたの肖像画を描きたいという私の突然の提案に対し、小沢さんは何故とも問わず また条件の一つも書き添えること無く「いいですよ」と返答した。 ゴールまでに越えるものがあるだろうと構え顔をあげたら、ハードルの取り払われたまっすぐな道が延びているような展開だった。 きっと、17歳の頃か…
画家と7人の肖像
一生縮まらない距離がある。 本来なら年を重ねるごとに砕けていく感情が、彼の前では反比例になる。 歳を重ねるごとに明確になる距離感。私の人生の中で、これほど特異な対象はいないだろう。 Photo by Kazuki Hiro 7人の肖像を描くにあたり、方々に企画概要を伝え、承諾を得る過程には毎回心臓が握り潰される勇気を伴った。そうしてようやく6名がテーブルに着いた頃、最後の席に招いたのがBIGMAM…