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第6期(2012年12月-2013年1月)

突然メロンパンが食べたくなり、すれ違った少年に「このへんでメロンパンを売ってるところってない?」と訊いてみた。少年はあそこのパン屋に売ってるよ(このアホンダラ)と言って通り向こうを指差した。おれはありがとうと言ってそのパン屋に向ってみるが、メロンパンは売ってなかった。
「メロンパンはないの?」とおれ。
「当店ではメロンパンは取り扱っていません」と女。冷たくも優しくもない声。
そのパン屋にはメロンパン以外の美味しそうなパンがところ狭しと並んでいた。
「メロンパンが嫌いなの?」
「ええ、メロンパンは嫌いです。大嫌いです」
おれは何も買わずにその店を出た。メロンパン以外を食いたくなったらまた来ればいい。不思議と嫌な印象は持たなかった。でも今はメロンパンだ。それ以外のパンに興味はなかった。
おれはコンビニのメロンパンで問題はなかったから、適当に5分歩いてサンクスに入った。と、偶然レジでメロンパンを買うひげヅラの男に出くわした。嫌な予感がした。おれはパンコーナーに駆け寄る。メロンパンはなかった。あれが最後のひとつだ。おれはそのメロンパンを売ってくれないか、と店を出て行く男に駆け寄よりそうになったが、そんな非常識な振る舞いは寸前で思いとどまった。たかだかメロンパン。変人になるほどのものじゃない。
おれは多少混乱もしてタクシーを止めて乗り込んだ。「とりあえず、、、銀座の方に向かって」車内は香しいバターの匂いに包まれていた。ミラー越しに運転手を見ると、まだモグモグと口を動かしているのが見えた。
「ああ、ごめんなさい。急にお腹がへっちゃって、いまメロンパンを食べ終えたところなんですよ。メロンパンていうのはあれですね、急に食べたくなるもんですね」
「ああ、そうかもしれないな」とおれは平静を装った。
「でも1個で十分でした」運転手は突然助手席の窓を開けると、紙袋を窓から川に放った。
「何を投げたの?」おれはそれが何かを確信していた。
「2個目のメロンパンですよ。あれば食べちゃうし、食べれば太るし、捨てるのが一番です。いけなかったですか?」
「いや、メロンパンなら別にいいんじゃない。悪くないよ」
おれは目眩がした。今ならまだ間に合う気がした。
「もうここでいいや、止めて」おれは財布から千円札を渡し、開いたドアから駆け出すと何も考えずに橋から飛んだ。ちょうと紙袋が着水する寸前だった。かなりの高さがあった。

お客さん、着きましたよ! お客さん! 目を覚ますとメロンパン頭の運転手がおれを揺すり起こしていた。当然おれはそいつのメロンパンに齧りついた。そしてその苦みに我に返り、危うく運転手の耳を食いちぎりかけていたことに気づいた。おれは慌てて逃げた。通りの人々が皆メロンパン頭に見えて怯え叫んだ。街中がバターくさかった。それから細い裏道に入り、松林を抜け、一見の古風な民宿に突き当たった。受付の女将もいなかったからおれは勝手に階段をあがり、ただ横になりたい一心で目についた白い布団になだれ込んだ。

鳥のさえずりが聞こえた。朝日がまぶたにまぶしかった。
ゆっくり目を開くと、枕元に正座をした裸の女が霞んで見えた。
「朝ご飯ですよ」と女の声。
仰向けのまま口を開けた。素敵なバターの香り。
「もっとアーンして」
おれは目をつぶったまま、女の千切るメロンパンを頬張った。

今回でこのブログで書くのも最後になります。
いままで応援してくれてありがとう!