ぶっ飛ばしてやるよ

第38期(2018年4月-5月)

2016年の6月に、ペルーへ行って先住民の儀式に参加しました。その経緯を書いてみます。

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(スイピーノでは滞在中、各自の希望に合ったプログラムを組んでくれる。そのメニューをプリントしたもの)
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セレモニーは、一日置きに行われる。
アヤワスカの強さが増して行くにつれ、だんだんと幻覚のようなものを見るようになった。しかしそれは30秒ほどの短い映像だったり、わかりやすいメッセージではなくてなにかのモチーフを夢占いのように解釈しようと思えばできる、というようなあやふやなものでしかなかった。

ペルーへ立つ直前に、リヨさんに具体的にどんなビジョンを見たのかを聞く機会があった。
彼は初めての儀式の夜にアヤワスカを2杯飲んで、仮面を被った精霊に会ったのだという。カヌーに乗ったそれが現れたとき、自分は死んでしまってお迎えが来たのだと思いとても恐ろしかったが、「怖がらせて悪かったね」と頭の中に直接メッセージが流れて来た。そして、「君に地球の歴史を見せてあげよう」と言われ、めくるめく壮大なビジョンを味わったのだという。それは言葉で説明できない世界。

私もはるばるペルーへ来たからには、なにか個人的な癒しを超えた大いなる真実のようなもの、宇宙誕生の秘密をつかみたいと密かに思っていた。
しかし、4回目の儀式を終えてもそのような壮大なビジョンは見られなかった。そのかわりに肉体的な苦痛は日に日に増していった。夜9時にアヤワスカを飲み、のたうちまわるような苦しい嘔吐と下痢が真夜中過ぎまで続く。
アヤワスカ自体に致死量は無いが、儀式に参加して亡くなる人はいる。同時に摂取してはいけない薬を服用していた場合か、自ら川に飛び込んだり、突発的に自殺してしまうケースだ。
永久に続くのでは無いかという苦しみの中、この苦しみから逃れるために自ら命を断ちたくなる気持ちも分かる気がした。「この苦しみは薬による一時的なもので、時間がくれば引いて行くのだ」ということをあらかじめ知っていなければ間違いなくパニックに陥ると思う。だからこの儀式は必ず、導いてくれるシャーマンのもとで行われなければならない。

一方現実世界のこの旅は、私にとって奇跡の連続だった。
きっかけはラジオからたまたま流れてきた曲に心を動かされた、ただそれだけのよくある出来事だったのに、少し勇気を出して行動するだけで見える世界がこんなにも変わる。
別次元に住んでいると思っていたミュージシャンや研究者の方が対等な目線で接してくれたこと。その結果、初めての海外一人旅で地球の裏側まで来ることができた。
そしてそこでも、日々のくらしが営まれていて、あたたかいやりとりや笑顔が交わされているのを肌で感じられたこと。予想外に幸運な偶然の数々。

なんかもう十分だな、と私は思い始めていた。怖かったのは、知らなかったからだ。頭の中だけで想像してみて、経験値が少なすぎて具体的な事が浮かばずに怖いできないと結論を出していたけれど、実際に行動してみれば、予想をはるかに上回る出来事がたくさん起こるのだ。池に石を投げた時、その波紋がどんな形になるのか正確に予想するなんて無理なように。

自分の存在が人に与える影響や未来のことなんて、考えたってわからない。遅かれ早かれ、人間はみんな死ぬ。ただそれだけのことなんだ。小綺麗にやり過ごしたって、かっこ悪くてバカにされたって、そこにどれだけの違いがあるというのだろう。

私は何を悩んでいたんだっけ?

だんだんとそんな感じになってきた。よく知らない人たちと言葉によらないコミュニケーションをし、ジャングルの鮮やかな色彩の植物や動物に囲まれ、木になっている果物をもいで食べ、日の入りとともに寝て朝日とともに起きるようなシンプルな生活をしているうちに、少し自我が薄まってきていたのかもしれない。

それで、4回目のセレモニーが明けた朝、私はミツさんのところへ行って最後の一回は欠席しますと告げた。正直あの嘔吐と下痢の苦しみはもう2度と味わいたくなかったのだ。

ミツさんはロヘルのところへ行って何事か相談していたが、戻ってきてこう言った。
「もう一回飲むなら次はぶっ飛ばしてやるよって、ロヘルが言ってるけど」

なんでもアヤワスカの強さには黄、赤、黒の3種類があり、古い株ほど強くなる。黒は最も強く、ふつうは修行僧しか飲むことを許されないそうだ。それを特別に飲ませてくれるらしい。

そう言われると興味が湧いてしまう。4回飲んでも見えなかった宇宙の真理…もしもあるのなら知りたい。本当にあんな苦しみはもうごめんだと思っていたはずなのに、夜が明けると爽快な気分になっていて決心がぐらついてしまう。
私はとりあえず、1日考えさせてくれといって部屋に戻った。

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(サンフランシスコ村の女性はほとんど全員が刺繍や染め物を嗜んでいる。村中のそこかしこで、女性たちは刺繍をしていた。これはロヘルの奥さんの作品たち)
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(村に唯一あるカフェ。ドイツ人の女性が営んでいて、彼女の恋人はシピボのシャーマンらしい)
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(アヤワスカ以外にもさまざまな植物のエネルギーを身体に取り込みました。これは薬草のサウナ。大鍋で薬草を煮出したものと一緒にビニール製のテントの中に入ります。)
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(サウナの後は植物のお茶のようなものを飲みます。)
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(私は刺繍をするので、刺繍をする人のための薬草もプログラムに入れてもらいました。これはピリピリという植物の液体で、スプーンで目に直接流し込みます)
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(キッチン。食事付きのコースもあるけれど、私たちは食事代をケチって自炊をした。お肉は食べられないので、トマト缶と野菜だけのパスタを1日おきに。あとは庭になっているグレープフルーツを取って食べていた。)
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1日経ってみて、やはり最後のアヤワスカを飲んでおくことにした。気持ち的には9割方満足だったけれど、せっかくなので体験できるものは体験しておきたい。

ミツさんにその事を告げ、最後のセレモニーが始まった。
持ってきてくれたアヤワスカは、もはや液体とは言えないほどの粘り気のある真っ黒な濃いものだった。
そしていつもの3倍くらいまずい。急いで飲み干し、何度も口をすすぐ。早くも胃が痛くなってきた。

お腹が下っていくのを感じながら待っていると、イカロとともに胃の痙攣が始まった。
トイレに立ち、いつものように下痢と嘔吐が始まったが、そこからが地獄だった。
いつもなら波がある苦しさが、ずっとピークのまま続く。私はトイレに座り、同時にそのまま上体を倒して洗面台に吐くという、人生最大に屈辱的な行為を何時間も続けることになった。
辛くてじっとしていることができなくなると、渡り廊下に出て外の空気を吸い、トイレに戻る暇もなくそのまま手すりにつかまって外に向かって吐く。身体がしびれ、耳鳴りが止まず、本当に飲んだ事を後悔した。
廊下を渡ってトイレにやってくる人が、
「Are you OK?」
とたずねる。背中をさすってくれる人もいる。その手の温かさを忘れられない。

全身に電流が流れているようなしびれがずっと続き、もう知覚できるキャパを超えた感覚に襲われている感じで、耐えられなくなり、思わず目を閉じると、暗く厳かな神殿のような広間が見えた。
真っ暗なのだが、レーザーのような青い光がうねうねと動きながら格子状の模様をなしており、それが床だとわかる。
そこに誰かが立っている。
犬かキツネのような顔をした生き物が、コブラの形の杖を持ち、豪華な衣装を纏ってそこに立ってじっと前を見ている。とてつもなく偉大な存在感で、それが人間以上のものだと分かる。
夢と同じように、理屈抜きでただ「わかる」のだ。

(当時のスケッチ)
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目を開けると現実のトイレが見えるが、チカチカと霞んでいて思わず目を閉じてしまう。唸り声のような低音の耳鳴りがずっと響いていて、それにイカロが混ざって異様な雰囲気を醸し出している。

目を閉じている時の私はその真っ暗な神殿の大広間に引き出され、逃げも隠れもできない状態である。
目の前の偉大な存在は宇宙の全てを司っていて、今この瞬間も宇宙を創造している。
この存在に比べたら、私はいないも同然の、アリンコ以下の存在なのだとわかる。この人の前で、私には何も選択肢がない。この存在は絶対的なものなのだ。善とか悪とかの価値を超えた、圧倒的なもの。それは生まれて初めて感じるリアリティだった。

私は何も抵抗する気もなく、逃げも隠れもできないと悟り、ただこの人が自分をどうするのか待っていた。