入居者名・記事名・タグで
検索できます。

2F/当番ノート

ペルーにいかないで

当番ノート 第38期

2016年の6月に、ペルーへ行って先住民の儀式に参加しました。その経緯を書いてみます。
peru1

・算数の問題

子供のころ、たしか小学校の低学年のころだと思うけれど、知り合いの大人からこんな問題を出された。(もしよかったら、あなたも考えてみてください。)

Q. 等間隔に並んだ9つの点を、一筆書きの4本の線で、全て通るにはどうすれば良いか。
peru2

私はいろいろと試してみた。どうしても、4本の一筆書きで全ての点を通ることができなかった。
peru3

降参して答えを教えてもらった。正解はこうだ。
peru4

最初、(そんなの、ずるい)と思った。はみ出すなんて。でもよく考えてみたら、この9つの点から外に出てはいけないなんて、誰も言っていない。テストやなんかの時に『シカクのなかに書きなさい』と言われ続けていたせいで、自分が勝手に四角の枠があると思い込んでいたのだ。

世の中には、枠の中だけで考えていたら、解けない問題があるのだなあ

みたいなことを子供ながらに思った。窓にガラスがはまっていると思って寄りかかったら何もなかった、みたいな、すかっとなってちょっと怖くて、でもちょっとすがすがしい気持ちだった。

私はたぶんそれからずっと、こういうものを探しているのだと思う。ある日、無意識に築いている枠組みが取り払われ、世界がまったく違う顔をしていることに気づく。そんな体験。

・リヨさんのこと

リヨさんは、Koochewsen(くうちゅうせん)というバンドで歌を歌い、ギターを弾いている人だ。

ある日ラジオからKoochewsen(当時は『クウチュウ戦』と表記していた)の曲が流れてきたのが興味を持ったきっかけだった。その曲は、一曲の中で曲調がさまざまに変化し、くるくると場面が変わる短編映画のようだった。今までに聴いたことのない感じの曲だ。違和感とともに、なぜか懐かしいような気持ちにもなる。へんてこだけど、ひとつひとつの音が澄み切っていて美しく、歌声にも愛嬌があった。

気になって検索してみると、バンドのホームページのプロフィールにこんな記載をみつけた。

2011 年1 月、ベントラーカオル(key) 加入。
同年7 月にリヨが突然ペルーに飛び、アマゾンのジャングルの奥で行われる神秘的な儀式に参加。

ペルーのアマゾンのジャングルの奥で行われる神秘的な儀式ってなんだろう。
私は大学時代に宗教や思想について勉強していたので、とても興味をひかれた。卒論では禅について書いたけれど、同じゼミにはアニミズムや神話について研究している人もいた。
研究といっても、その内容はほぼ文献を漁ることだった。私もお寺に行って座禅を組んでみたりしたくらいで、フィールドワーク的なことはほとんどしなかった。

実際にペルーへ行って儀式に参加するなんて、すごい勇気と行動力だ。つくる音楽も変わっているし、この人はなにか他の人と違う基準で世の中を見ている気がする。話をきいてみたいな、と思ったのだった。それでちょくちょくライブに通うようになった。

初めて話をしたのは、バンドとは別に、リヨさんがソロで行なっているライブへ行った時だ。
会場は浅草にある外国人向けゲストハウスのこぢんまりとしたバーで、入ると本人が受付をしていた。
とても綺麗な人だ。女の人みたいに華奢で、涼しげな顔をしている。こんな虚弱っぽい人が、アマゾンの奥地へ1人で行ってきたなんて、なんだか信じられない話だ。

きょろきょろしているうちに、照明が落ちてライブが始まった。

赤や緑の間接照明に照らされてギターを弾きながら歌うリヨさんは、曲によって次々と表情を変えた。子供にみえたり、枯れた老人のようにみえたりした。
ゲストハウスなので、途中で大勢の外国人宿泊客が入ってきた。リヨさんは外国人のお客さんに英語で質問し、ジョークらしきことを言って笑いをとったりした。
しだいに、自分がどこか外国の見知らぬ街に迷い込んでしまったような気になってきた。

目の前では、よれよれのTシャツを着たヒッピーの男がギターを弾き歌っている。一文無しなのにやけに幸せそうである。子供たちが駆け寄り、なにかくれと両手を差し出す。男は、身につけているもの一切合切をやってしまった。痩せ細った身体ひとつで、暗い道を歩いていく。子供たちはなおも追いかけ、しだいに野犬に変身し、男の体に食らいつく。男は眉ひとつ動かさず自らの肉も与えてしまい、「じゃあね」と言って目を閉じた。

脳内でひとりでに膨らんでいくイメージに身を任せているうちに、最後の曲になった。
「さいごに、ペルーに行かないで という曲をやります」
日本語と英語でそう言ってからリヨさんは歌い始めた。もう3年近く前のことでうろ覚えだけれど、たしか。

あなたを ペルーに いかせたくない
スペイン語 話せないし 治安も悪いし
あなたに アヤワスカ 飲ませたくない
地球が 見てきた 夢から覚めてしまうから

エキゾチックな音に乗って、この部分が何度も繰り返された。
地球が見てきた夢から覚めてしまうから
それは、禅でいう「悟り」のことなのだろうか。アヤワスカというのは、儀式に関係する何かなのだろう。

帰りぎわ、リヨさんが出口のところに立ってひとりひとり見送ってくれたので、挨拶して感想を伝えることができた。場違いな気がして、儀式のことはなにも聞けず、まずは自分で調べてみることにした。

その晩、こんな夢を見た。
眠っている自分の頭のてっぺんが開き、意識が煙のように上へ上へとのぼっていく。地球上のあらゆる人の意識も同じように頭のてっぺんから外に出てゆき、宇宙空間を漂う。そこには巨大な鍋がある。意識はその中へ入って行き、可愛らしい天使が棒を持って鍋の上を飛びながらそれをぐるぐるとかき混ぜる。混ざり合った意識はまた1人分ずつの量になり、それぞれの肉体へと戻ってゆく。。

juno

juno

刺繍作家
この星のうつくしいものを縫い留めたい

Reviewed by
田山 湖雪

juno(ユノ)さんってどんな人だろう。

junoさんを知ったのはインスタに載っている刺繍作品だった。
淡い色づかいでスミレやスズランやミモザが布や服に咲き誇っている。
無地の布から風がそよぐのを感じ、若葉がこれから伸び出しそうな勢いが糸に詰まっている。
なんだろう、見つめていると縫っている動作がついてきてjunoさんの身体の輪郭が浮かび上がってくるように思えた。
生きているjunoさんというより箱のような、生々しいものをとりのぞいた感じ。

あ、面白い人に違いない!!第六感というものなのか根拠はないけどなぜか自信だけはある、そんな出会いだった。



枠にとらわれていたことにハッとする算数の問題。
バンド「Koochewsen」のリヨさん魅力から、ペルーの神秘的な儀式に触れたいと思う好奇心。
彼らのライブできいた歌詞の「アヤワスカ」と意識がのぼっていく夢の話。


今は点点点としていることがこれからどう結ばれていくのかしら、そう思うはじまり。
(Koochewsenの光線をききながらかきました)

トップへ戻る トップへ戻る トップへ戻る