「愛国主義者」という言葉

第42期(2018年12月-2019年1月)

DSC_0178c

12月6日は、フィンランドの独立記念日だ。今年は独立100周年だった去年ほど大げさな祝いはなかったが、毎年大統領公邸で舞踏会が開かれ、その舞踏会のテレビ放送が毎年一年のテレビ番組の中で最高の視聴率を収める。大統領夫婦が次々とやってくるお客と握手するシーンが永遠まで続く割ともつまらない番組であるが、フィンランド人の多くにとってお菓子やおつまみを食べながら招待された政治家やスポーツ選手、外交官やアーティストなどの服装と踊りを評価するのが独立記念日の最も大事な伝統であり、去年そのためのアプリさえできた。どうも家族だけに自分の意見を教えるのがつまらなくて、教育大臣のドレスをどう思ったのかをどうしても全国民にシェアしたい人が結構いるらしい。

独立宣言が採択された1917年にロシア政府もフィンランドの独立を承認したが、第二次世界大戦中フィンランドはソ連に攻撃され、独立記念日にその戦争に関する記念行事もある。国防軍の観兵式は、今年ミッケリというヘルシンキから約210km離れた都市で行われた。北朝鮮みたいな国の観兵式と比べると、かなり地味なものだが、それなりに人が集まる。

観兵式を観に行く人達のほとんどは、別に軍事オタクでも極右の人でもない。戦車を見たがる子供を連れたり、男の場合は兵役の頃が懐かしかったり、そういう感じで観に行く人が多いと思う。そしてフィンランドの歴史の中で、ソ・芬戦争(冬戦争と継続戦争)の記憶が大きいということは、ある程度当然だと思う。私は国防軍の存在にも、戦争に関する記念行事が行われることに対しても反対ではない。

しかし、公式的な行事以外にはヘルシンキでいくつかの民間人による行進もあった。その中で特に注目を浴びたのは、ネオナチス団体も参加した、たいまつを持って進んだ「612」と名付けられた行進であった。この「612」の人たちが敵視しているのは、ロシアよりも欧州連合と、特に2015年の欧州難民危機以降増えたイスラム系の移民だ。そして主催者は、多文化主義やグローバリズムに反対であれば、ネオナチス団体を含め、誰でも歓迎だと言っていた。その結果として、2018年のヘルシンキにて、ハーケンクロイツ旗が見られた。その旗がすぐ警察に押収されたが、かなり奇妙なシーンだった。

私は「愛国主義者」という言葉を聞くと、たいまつやハーケンクロイツ旗を持って町を歩き、フィンランドから自分と違う人間を排除しようとする人を想像するのだ。昔の犠牲を追悼するのは悪いことではないが、彼等は歴史から学ぼうとしているのではなく、世界が変わっていくのに、フィンランドを20年前のままに戻そうとしているのだ。だからフィンランドでナショナリスト、あるいは愛国主義者と名乗る人と出会ったら、やはり嫌な気がする。

どうも、そう感じるのは私だけではないようだ。フィンランドにおいて「愛国主義者」という言葉は完全に右翼に乗っ取られたのだが、それはそれでいいのではないか、と言う人もいるだろう。確かに、私が自分のプロフィールに「愛国主義者」と書きたい訳ではないし、ナショナリストは尚更だ。でも独立記念日にそういう人が余計に注目を浴びるのは嫌だ。

前回の投稿で、私はフィンランド人としてのアイデンティティが特に強くないと書いたし、どちらかと言うと、ヨーロッパ人としてのアイデンティティの方が強いかも知れない。大統領公邸での舞踏会にさえあまり興味ない。でもそんな私でも、私なりに、フィンランドが好きだ。だからこの日がもう少し明るくて、開放的なものになって欲しい。