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2F/当番ノート

Piano,Piano,Piano!

当番ノート 第43期

ヨーロッパには、各国にいくつものオペラ座が存在する。そしてオペラ座にはコレペティトゥールという職業がある。これは、歌手やバレエダンサーに対して、ピアノを弾きながら音楽稽古をつけるコーチングの役割を果たす。ただ、ピアノが弾けるだけではなく、語学も堪能でなければ務まらない。
一昨年のハンガリーで行われた国際指揮コンクールの終わった後、ありがたいことに、このコレペティトゥールの仕事の話をいくつかいただいた。でも私はピアノも語学も堪能ではないので、断腸の思いで丁重にお断りさせていただいた。

私はハンガリーでコレペティトゥールの需要があること、そして、指揮者はコレペティトゥールとしての経験を重ね、指揮者への階段を登っていくという、従来のヨーロッパの音楽スタイルが根付いていることを再確認することができた。

あとは四の五の言わず、実践あるのみ。
指揮者をしているのにピアノがあまり弾けないというのは大問題であると思っている。ならば、ピアノを弾けるようになるしかない、語学をマスターするしかない。
私は10代で既にこのコレペティトゥールの仕事が務まる指揮の学生を、ハンガリーで何人か見てきた。若いうちに専門技術も語学も身に着けることができれば、その上に経験を積むことができる。土台がなければ、何も積み重ねることはできない。私の場合は、もう時間を取り返すことはできないので、現段階での、現状においての最善を尽くすことにした。だから自分に課題を掲げることにする。
これから7年かけて10000時間練習していく。

10000時間の法則というのを聞いたことがある。「石の上にも3年」という言葉があるが、私の場合は「ピア椅子の上にも7年」を実践する。一昨年末位から1日6時間ピアノを練習しようと、以前日本で購入したグランドピアノを売り、ハンガリーで改めてグランドピアノを購入。しかし、上記の週間スケジュールの中で、6時間を確保し、集中して練習することが不可能だった。

なので、このアパートメントの原稿を書くにあたって、改めて軌道修正しようと思う。
現在は朝4:30に起きて、22:30には布団に入るようにして23:00には寝る。現在の優先順位として、
①平日週5回のハンガリー語学学校+タンデム学習、
③不定期の指揮の活動、
④週3回の歌のコンサートと週2回の歌唱指導、
⑤週6回日本食レストランの手伝い、
多少、スケジュールの変更はあるが、コンスタントに歌のコンサートを実践していくのもだいぶ体が慣れてきた。それではここに、
②1日4時間ピアノを練習する、(語学学校帰宅後2時間、夕食前2時間)
を加えたい。もちろん、骨格や筋肉、特に肩から手先までの健などの形成は20代位までに発達が完了してしまうのかもしれない。しかし、より多くの細胞がなるべく早い周期で生まれ変わるよう、自分の脳味噌に訴えかけていきたい。

リスト音楽院大学院1年目の修了試験、リスト音楽院の大ホールで、ハンガリーのプロ・オーケストラ“CONCERTO BUDAPEST”とブラームスの交響曲第1番を演奏した。あの時の感動は忘れられないし、コンサートの前に楽譜を読んでいる間、あたかもブラームスが相席で、「どうだい?今の君には、僕の曲を演奏するにはまだ早いよ。」と言われんばかりに、作曲者から常に何かを問われているような気持になった。
感動は簡単に忘れることができないし、ブラームスからの問いかけに、まだ何一つ答えることができていない。ブラームスの作品の中でも、2つのピアノ協奏曲、そして“ドイツ・レイクイエム”は傑作だと思う。私の一番尊敬している指揮者であり音楽家であったアントン・ナヌート氏は「私が指揮者を引退する時は、最期に“ドイツ・レイクイエム”を演奏して、演奏家としての幕を閉じたい。」と話していた。

私は、自分が愛してやまない、ブラームスとバルトークの作品を全て知りたい。バルトークもブラームスも作曲家である前に、素晴らしいピアニストであった。少しでも彼らに近づきたい。

そのために今できることを、確実にこなしていきたい。

もし、夢をあきらめかけている若い人たちがいたら、40歳を過ぎても、夢を追いかけ続けているオジサンが、少なくとも世の中には一人はいるという事を伝えて終わりとしたい。

原口 祥司

原口 祥司

指揮者
上野学園大学指揮研究コース、リスト音楽院大学院オーケストラ指揮科修了
ハンガリー・ブダペスト在住

Reviewed by
宮下 玲

「40歳を過ぎても、夢を追いかけ続けているオジサン」。
その言葉通り、自分を磨き続ける原口さん。
その恐るべき週間スケジュールが明らかに・・・!

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