当番ノート 第11期
ある言葉の持ち主は 例え自らの身と心がついばまれることになろうとも 愛されることを願った ある言葉の持ち主は 誰もが孤独を抱えている仲間なのだと伝えたかった 「君は一人じゃない」 そう思いながら今でも友人の亡がらをどこかで見守り続けているのだという ある言葉の持ち主は友人の旅立ちを祝ったが 幸せを望むがゆえ その行き先に対する不安を言葉にできなかった ある言葉の持ち主はこれから迎える自分の運命を …
虫の譜
それまでちっとも聞こえていなかった音なのに、ひとたび耳が憶えると騒がしい雑踏の中からでもそれを聞き分けられるようになる、ということがある。カネタタキの鳴き声というのはまさにそういった類の音だ。そこここの街路樹や植え込みで彼らは一生懸命に鳴いているのだけれど、知らずにいると控えめなその音は意外に意識にまで届かない。 けれども、いったん彼らの声を捉えられるようになれば、人生における真夏の夕暮れ時の楽し…
当番ノート 第11期
いよいよ寒くなった 今年は気を抜くつもりは、なかった だから私は10月から すっごく意識して冬を待っていたんだ 空を見上げれば ぐずな私でも数え切れそうな、星 見慣れた星空があって 数えてみることにしたんだ 一番右の、ファミマの上のあの星から、 ひとおつ ふたあつ 19くらいのとこで面倒になって 27で、やめた なんだ…
長期滞在者
… ないてもないても まだいたむ ふいてもふいても ちがにじむ ひとりできった くすりゆび こばやしのぞみ 8さい (当時の日記より) … 子供の頃の私はひどく臆病だった。 「のぞみちゃんはおもしろいね」って言われるとほっとしていた。 いつも あとひとことを あとひとときを 急いでくしゃくしゃに固く固く丸めて そのちいさな塊を飲み込んでは 乱雑に見えない場所へと追いやって うずたかく積み上げてい…
当番ノート 第11期
何となく表面に寝転がる。かすかに与えられた柔らかい眼で空間を見定める。そこは受信のみを繰り返し、振動が成り続く。アスファルトにこすり続け、傷だけを許し、反射のガラスは割れることなく流される。過去に冠り続けた幾つもの仮面は果てしなく剥がすことはできない。変換ケーブルをなくした一定の信号。メトロノームが鳴り響き、積み重なる解体から詳細を分離し、定まらない未知数。 錆びた付根から生えた壁。完了に抱かれた…
当番ノート 第11期
“すべての事象には名がある。と言うより、名前がないものは存在を認識できない。”とWikipediaにはあります。 僕が思うに「究極的なところまで持って行ったなぁ」と、最初の当番ノートで触れた人間原理にも似た感覚を呼び起こされました。 今回で僕の当番ノートは終わりになります。English Lyrics Feverという中二病を発症した頃に思う存分に思い知らされたのは、自分は薄っぺらくて核が無いとい…
当番ノート 第11期
今年の5月、個展をした。 真夜中に木を、林をたくさん撮った。 4月の終わり、まだずっと寒くキンと音が鳴りそうな空気だった。 自宅から少し歩いたところにある神社の裏に誰も入らない林がある。 杉の葉がたっぷり積もっていて歩くたびに (カサッ、カサッ) と軽く乾いた音がする。 風がまだ残る葉をざわめかせ、枝はしなると鳥の鳴き声のようにキィキィと鳴く。 知らない誰かに見られているような不安が襲ってくる。 …
当番ノート 第11期
『出会いの絶景』 この言葉は、俳人/永田耕衣さんの言葉であります。耕衣さんが版画家/棟方志功さんとの巡り合いについて、そう表現しました。「素晴らしき人との巡り合い」出会いの絶景とは、そういうことでありましょうか。僕もいままで、いろいろな方に出会い、その絶景を感じさせていただきました。 体験してきた、いままでの全部。 自身で感じてきたことや、想いを言葉や言葉でないもので表現してきたこと。それは当たり…
当番ノート 第11期
友人のはじめての個展を訪れたときのこと、 知った顔の人たちが一通りギャラリーを訪れては去って行ったあと、その男性はやってきました。 彼は「その界隈」ではプロとして活躍しているのだと言い、 友人の作品と、その展示の仕方、値段のつけ方、果ては気持ちの込め方に至るまでダメだしをはじめました。 「首の長さはこのくらいの方が見栄えがよい」 「ねらっているところはいいけれど、これでは売れない」 「色の加減はも…
当番ノート 第11期
ぽっかりと地面に空いた大きなくぼみは 雨が溜まった時にイノシシが体を洗うために使うものだろう 倒れ朽ちかけた木にはキツツキが開けた無数の穴が開いている 獣の通り道 猿たちが移動に使う丈夫な蔓 自らの領域を誇示するかのように 艶やかな色のきのこたちが群生している 見慣れない森の表情によって少年の好奇心はくすぐられ 当ても無く歩き続けたが 霧が深さを増しもう一歩も動くことができなくなった 少年は大きく…
当番ノート 第11期
部屋の壁にさわって 左手の指で部屋の壁にさわって、ふれて, そしたら壁が、揺れた けどそれは揺れているんじゃなくて 私の心臓が、 とにかく活発に動いて 大きく膨らむその度に 小さくしぼむそのたびに 壁が揺れてるんだと思ってしまうほどです このままベッドに倒れこみたかった 自分でもよく立っていられるなと思う けどいま 倒れこんでしま…
当番ノート 第11期
例をあげればもう意味がない。 そんな世界の自覚が不可欠で、仮説の復唱と発作の再認識により眼に見えないものが完全だと必然にとどまった。 昭和45年→ ぎこちない珈琲。不器用な終末。爪を噛む原風景。リンチ。 干渉のエレヴェータは日常的かつ秩序的で、主題が明確である。 煩わしい指針は指から指へ前提としてウンザリするくらい明白に生じる。 そして、対話のふりはランダムを評価し、実景化する。 暗合と必須の切れ…