長期滞在者
日々の生活が変わりつつある。11月からは、今までとはまったく違う生活になる。ここ数年離れることなく一緒に過ごした、もっとも大事な人としばらく別々に生活することになる。一人暮らしというのはどういうものだったのか思い出そうとするけれど、思い出すのはふたりで過ごす日々の幸せな場面の数々。きっと寂しくなるとはわかっているのに、どこか自覚が持てないまま、旅立ちの日は近づいている。 今回、こういう道を選ん…
当番ノート 第23期
「ももさんのうたを聴いていると、虫の音がよく聴こえるの。うたが聴こえる前よりも、虫たちのうたがよく聴こえる。電灯のひかりも、もっと眩しく見えるの。なんでだろう。不思議。」 歌い終えてタバコをふかす僕のとなりで、みきさんは静かにそうつぶやいた。10月下旬の井の頭公園。井の頭池のほとりの石畳に座りこんでいる。空は濃密な黒色に染まっている。秋風がときおり吹き、肌をふるわせる。肌寒いけれど心地よい静けさが…
長期滞在者
時間というのは不思議なものだな、と最近あらためて感じています。いま現在、この文章を書いている瞬間はあっという間に過去になり、歳月がたてば思い出すこともさほど多くはないでしょう。そして私が、数分後、数時間後、数日後をともにする未来の「いつか」は、現在の私にはどこまでも曖昧な異物です。想像はできます。予想もできます。でも、絶対に同じものではない。現在の未来としての「いつか」と、未来の現在としての「いま…
当番ノート 第23期
認知症の人とお喋りをした。 認知症の人と喋るのは初めてだったと思う。 とても興味深かった。 「あなた若いわね、歳いくつ?」 「28です」 「まあ!(口元に手をやる)」 「昭和何年?私、2年」 「62年です」 「昭和って何年までだっけ。それがわかればあなたの歳がわかるわよ」 「昭和は64年までですね。64年は7日しかないですけど」 「(よくわからないという顔)」 「いまは平成27年なので、足すと28…
当番ノート 第23期
「アパートメントに住んでみて」 4回目の投稿になる今回 まだまだ新入りな僕は、ここがもしリアルな体育会系のアパートならまだまだ堂々と廊下を歩くことすらできないだろう ありがたいことに、この場所には“そういう”恐ろしさはない 「自分で、自由に、なんでも書ける」 管理人 ゆうへい君が、 2015年10月25日に投稿している記事 「雑居アパートの耐震補強工事(の準備)」 でも述べていたこの場所の特徴だ …
長期滞在者
秋になったので、林檎ジャムを煮始めて、わたしには答えがない。 ひとの作品を見れば見るほど、何をやりたかったのか分からなくなり、本当の答えを探し出そうとする悪い罠にはまってしまう。楽しくないし、苦しいし、呪いのような気持ちが湧き上がる。ひとの回答をじぶんのもののように語るのでは、作る意味はないし、何やっているだろうというところをグルグル回る。早く答えが欲しい。すぐに答えが欲しい気持ちがやる気を削ぐ。…
当番ノート 第23期
When Where Who The Period, The Place, The Person あの時期あの場所あの人 【第四回:2004サンパウロ 】 2004年サンパウロのあの人は 辛い時も笑顔を心にもち続けられたら 大丈夫、Tudo de Bomよと笑ってくれた。 楽しいとき、辛いとき、様々な凝縮された時間を過ごした 仕事場を辞めるのが決まっていたある日、 ブラジルで暮らす友人から送られて…
当番ノート 第23期
東京に暮らしていた頃の僕は人間というものをやめたくなっていた。それは何度もあった。人間をやめるというのはどういうことなのか、それもうまく説明することはできないのだけど、それは死ぬこととはちがう。死ぬことは死ぬことであるにすぎないから、それは人間をやめることとはちがうような気がする。僕は何度も人間をやめたくなった。それは、還りたいという言葉には親しい感情のようなものだったといまの僕は記憶している。僕…
当番ノート 第23期
やあ、もうすぐハロウィンをひかえたこんにち、コスプレが市民権を得るとともにハロウィン認知はすすんですっかりコスチューム・パーティー、もしくはイケナイ遊びの口実になりましたね。 私は、2000年代くらいのゲームオタクでコスプレイヤーだったので手作り衣装や造形物に気合いをいれてイベントに繰り出しておりました。 スクール・カーストでは不可触民でしたから外見にコンプレックスが大変多かったのですがいまや余裕…
当番ノート 第23期
よくパッサカリアやシャコンヌなどの通奏低音音楽を聴く。 幼い頃、僕はあまり病気をしない方だったけど、年に一度は必ず高い熱を出した。そういう時は枕元にラジオがあったから、部屋の天井の木目を見つめながら、ずっとそのラジオを聞いた。NHK。ニュースで一連の出来事が述べられた後、朗読の時間があって、「なめとこ山の熊」だとか「山男の四月」が、少し怖そうなおばさんの声で朗読された。その後、決まった時刻がくると…
当番ノート 第23期
僕は猫が好きだ。 ただし、直にふれあうことはもう叶わない。 ある日、猫アレルギーになってしまったからだ。 あの日のことを思い出すと、今でも悲しさに包まれる。 僕は、小さい頃から猫と一緒に多くの時間を過ごしてきた。 始めて飼うようになった猫は小学生の頃、妹と一緒に道のり2kmの通学路を歩いている時に出会った。 家までもう少し、最後の400mというところだった。 おもむろに一匹、きれいな白い猫がそこに…