長期滞在者
セイヨウニンジンボクのトンネル、淡い緑が曇り空にもよく似合う。比良おろしが吹いて、木々が風に揺れる、暴れる。吹き付ける風の中に、微かな二度咲きの金木犀が香る。山の向こうから雨が流されて、しまける。小さな柚子の木には、数百をゆうに超えそうな数の柚子、柚子、柚子。懐かしさと言い様のない寂しさがこみ上げて来る。懐かしさはなんでいつも寂しさを伴うんだろう。 滋賀の秋はとても美しい。吹き始める山風が冷た…
当番ノート 第29期
隣の家に住むちびっ子は今日も朝から元気だ。 「お姉ちゃんたち、メキシコに行くの? しんちゃんに会うの?僕も行く!」 一瞬、なんのことか分からず答えに詰まると、後ろからお母さんが出てきた。 「もう、この子たちクレヨンしんちゃんの映画が大好きで…。 この夏、映画の中でしんちゃんの家族がメキシコに転勤になったんですよ」 「クレヨンしんちゃんがメキシコに転勤する時代なんですか」と驚くと、 「ねー、びっく…
当番ノート 第29期
コオロギの鳴き声、夜風、月明かり。 石垣島の空の下、夜の中に入り込んで、自然たちと一緒に私たちは毎夜宴をした。 普段話せないような、心の奥底のことを話し出せる時というのは、こんな夜なのだろう。 4年以上前のこと 自分が思っていることを、本音で話さないようにしていた。 周りの人達に合わせていることが多かった。 たまに本音で話すと、重い~と言われたり、そんなこと考えたことなかったよという返答がくる。 …
当番ノート 第29期
青空になる、ということ 青空を見あげる、ではない。 青空を翔ける、でもない。 青空になる。とは、いったいどういうことなのだろうか。 仮面ライダークウガ(2000)についての話をしたい。平成仮面ライダーシリーズの第一作目にして超人気作。シリーズ最高傑作にあげる人も多い作品である。ステロタイプな悪の組織が存在せず、男らしさを称揚する描写が少なく、必殺技も叫ばない、それまでのいわゆる「仮面ライダー」像を…
長期滞在者
何のために書くのでしょうか? 店じまいをするにあたって、私はこれまでの連載を読み返しています。自分が書いたようで他人が書いたような、挑発的であるようで後ろ向きな、まとまっているようで雑然とした、おさまりの悪い文章たちについて考えています。 「何のために書くのか?」という問いは、いくぶん不適切かもしれません。それではあたかも、私が自らの意思において世界に何かを示すために書いているようではないか。そん…
当番ノート 第29期
こんばんは。 あなたにこの手紙が届くのは夜だけど、私が手紙を書いてる今は、夜明け前。 今朝4時半ごろ、ベッドから南向きの窓を見上げたら、オリオン座がくっきりと。それを見たら、バチッと目がひらいて、すっかり起きだしてしまいました。 早起きは三文の得、かな。いいものを見ました。 オリオンのうしろ、つまり、東側に、2つ明るい星があって、それぞれに、おおいぬ座のシリウスと、こいぬ座のプロキオン。オリオンの…
当番ノート 第29期
////////////////////////////////////////////// 2010年4月4日からの手紙 ////////////////////////////////////////////// 自分自身の心の在り方を表すすべとして、「表現」というものがあって 同時にそれが社会とつながるすべとして成立するものであればと願う。 社会の中で社会人らしくあることで、 自分が「ある」…
当番ノート 第29期
アイドルを見て、心から微笑む。 アルバイト中、心から微笑む。 カウンターや、テレビ画面 何かを媒介した わかりやすい虚構にコーティングされたわたしは いつ、どこよりも、本当に 心の底から笑っている。 わたしでなくなった途端に わたしの底から感情をあらわにすることができる。 わたしは誰でもいい誰かになりたい。 誰かにとって、ではなく、 わたしにとって、誰でもいい誰かに。 わたし、わたし、 やかましい…
当番ノート 第29期
ダンボールにはようやく本などが詰まり始めた。まずは壁に飾ってある写真や、家中のドライフラワーといったいわゆる装飾品から処分しようとする夫と、そういうものは最後まで残しておきたい私の間で、ちょっとした緊張関係が続いている。私が「先に押し入れの服を詰めちゃおうよ」と言えば「それ、最後の日に頭が回ってなくてもできるじゃん」と夫が言い、「飾りこそ、ぱっと外せるから最後にしたい」と私が返す。 部屋を最後まで…
当番ノート 第29期
石垣島に行ってきた。 仲のいい友人、お会いしたかった人々に会いに行く旅。 どんな旅だったかは、またの機会に。 今回は、見送られることについて。 見送る側と、見送られる側、どちらが寂しいのだろうか。 石垣から一緒に帰った友人とそんな話をした。 友人の考えは、見送る側(石垣にいて迎え入れる側)は、そこに生活があるから、 私たちが去ったとしても、彼らは日常の生活を続ける。 見送られる側(石垣に来て去る側…
当番ノート 第29期
バカなもの、をつくるのは、実はとても難しいと思う。悲劇より喜劇のほうが書きにくいという話もある。ジャンルを問わず、その多くは狙いすぎて単にこちらを白けさせるだけだったり、笑いとシリアスのバランスが取れずつまらないものになっていたりする。 計算しつくされたバカっぽさ。愛すべきくだらなさ。それは侍戦隊シンケンジャー(2009)が筆型の携帯電話を「ショドウフォン」と呼び、轟轟戦隊ボウケンジャー(2006…
当番ノート 第29期
星空書簡3 -流れ星降る夜 こんばんは。日が落ちるのがすっかり早くなり、秋がひたひたとやってきます。 「秋の日はつるべ落とし」という言葉があります。気づくと、もう陽がおちてしまっているという意味 ですが、毎日ぐんぐん陽が落ちるのが早くなっていくのも関係しているように思います。 先日の十三夜は見られましたか? こちら、山梨では残念ながらドン曇り、今年はほんとになかなか よい空に恵まれません。でも、…