長期滞在者
1960年代後半、オノ・ヨーコはジョン・レノンとの蜜月の日々の中で、印象的な前衛パフォーマンスを発表した。レコードのジャケットに全裸になって登場したり、「ベッド・イン」と称したパフォーマンスを告知してマスコミ陣に公開セックスをすると勘違いさせつつ、ホテルのベッドに二人で入って平和について語ったり。 こうした活動は、今も「常軌を逸した」「凡人には理解できない」というようによく紹介されている。たしかに…
長期滞在者
こころが環境の変化についていけないことってある。例えば、何かの前提が覆ってしまうときとか。2月はわたしにとって、何もかもがひっくり返って、なにがどうなってしまうのか、大嵐にのみこまれながら航海を続けているような一ヶ月になった。 かなり遅いペースではあるけれど、三十代に入ってから自分が「働く」ことにどのような価値を見出しているのか、どんなことを信じて働いているのかがわかってきた。社会人として第一歩を…
当番ノート 第37期
時計の秒針の音。 冷蔵庫のモーター音。 1人で眠る部屋は、いやに静かで、そんな音が、時折大きく聞こえる。 電気を点けたまま、目を閉じる。 いつの頃からか、1人の時には明かりを点けたまま眠るのが、当たり前になってしまった。 一生こうするとすると、電気代、どれだけかかるんだろう、か。いつかはこの癖、やめなければ。 寝る時には近くに誰かがいるといい、と思う。 思い返せば、子どもの頃から、1人で寝るのが苦…
当番ノート 第37期
2月5日(月) 朝10時から久しぶりのクライアントワークの取材で浜松町へ。そのクライアントさんとは何回かお仕事をさせてもらっていたのだけど、久しぶりにお目にかかるなぁと思って、考えてみたら1年ぶりだった。春みたいに温かい気候で薄着をしてきたのに、また数日後には大寒波が来るみたいですよと編集者さんが言う。この季節は本当に思わせぶりだ。 小さな店舗にお邪魔する取材だったのだけど、思ったよりもスペースが…
当番ノート 第37期
(家近くのにて。もうすぐ桜が一面に広がるのです。) 前回の続きとして、本稿では再会について書いていこうと思う。 再会を通して、私は出会いよりも多くのことを学んだ。 もちろん、意識して再会していることが大きな因果として存在しているはずだが、なんというか、 様々なことがよりリアリティを持って自分に届いている感覚だ。 それは年齢が関係しているのか、自分が変わったからなのか、それとも・・・ —…
当番ノート 第37期
「息を合わせる」という言葉がある。 例えば、誰かと踊る時に、お互いを意識し合いながら、タイミングを合わせたりずらしたりして踊るということ。 音楽を演奏したり、言葉を話す時、そして普段の生活の中にも通じている、からだと言葉。 同じ流れやリズムをからだの中に持つことで、同調させていく。 人だけでなく、音楽や空間そのものとも交わっていく。その逆も然り。 「息」に関する考察って、面白い。 + 先日の稽古で…
長期滞在者
詩と写真というのは、思った以上に親和性があるのではなかろうか。 と、思いっきり誤解を招きそうなことを書いておきます。 まんまと誤解しませんように。 伊藤比呂美の本を、ここのところたて続けに読んでいます。 最初は池澤夏樹個人編集の日本文学全集に載っていた伊藤比呂美訳『般若心経』でした。 凄い訳でした。 詩人とは凄いものだと感嘆しました。 今まで「詩人」というものを、よくわかっていなかった気がします。…
長期滞在者
2018年に入って新作映画を観る回数が激増している。 現在私がラジオDJを担当している、練馬放送インターネットラジオでの番組『Voice of Heart』。 この番組では、練馬にある南田中図書館から毎月テーマに沿って、 おすすめの一冊を紹介する「ねりほん」のコーナーに加え、 昨年10月から、T・ジョイSEIBU大泉で公開されている映画をピックアップするコーナー「Movie Buff」がスタートし…
当番ノート 第37期
故郷のことを思い出すことが増えた。 とくにアパートメントで文章を書くことになってから、何を書こうか、と考えるとき、何度も故郷の風景が浮かぶ。 でも、故郷の、何が書きたいのだろう。 天井に貼られた星座表。自分を宇宙人だと語った父の小話。毎日犬と歩いた散歩道。何でもない朝ごはんの風景。はげしい兄弟喧嘩。夏休みのプールとキッズウォー。 とめどなく、色んな風景が浮かんでは消え、どれに、どんな言葉を添えたら…
当番ノート 第37期
1月29日(月) 昨日の夜は楽しくて、おまけに手酌でウイスキーを飲んでいたものだから、だいぶ酔っ払ってしまったみたいで、現実に戻るまで記憶の糸を辿ろうとするけれど、途中で糸がぜんぶ切れてしまっているようで、恋人さんを揺り起こして、わたし大丈夫かな、と聞いた。恋人さんは「えーっ、覚えてないの?」と笑っていたけれど、案外にたぶん、大丈夫だったらしい。 1人暮らしのときは飲みまくった次の日はだいたい記憶…
長期滞在者
午前中からずっとデスクワークをしていて、早めのお昼を食べたあとの昼過ぎ、集中力が切れてきて、さてなにか気分転換をしようかな……と思うときがある。そういうときには、職場の近くのなんてことない場所を、あてもなくぶらぶらと散歩するのが好きだ。できれば、冬にはあたたかくて、ついでに、目を楽しませるなにかがあるとなお良い。 温室というのは、そうしたそぞろ歩きに最適な場所なのだということを知った。以前しばらく…
画家と7人の肖像
宇宙の湖畔に根を張って咲いている。 深い、底知れぬ闇の湖だ。 蓮は、泥水の中で根を張りながら水面に透明感を放つ。 「泥中の蓮」とは、どんなに汚れた環境に根を張ろうとも染まらず、清く生きる様のことをいう。 美しい人はどんな苦境に立とうとも、腐らず咲き誇っている。 Photo by Kazuki Hiro どんなイメージでSUGIZOさんの肖像画を描くかということについて、私はこの企画を始める以前に彼…